/replace H2↑
闇炎系の術式に飛行という魔術がある。
錬金術士はその闇炎系の派生クラスであり、つまりシーナの飛行の術式は使用できた。
現在、ウェディングドレスのシーナは、オージーを抱き抱えて空を飛行していた。
だが錬金術士はその魔術においてどうしても闇炎系には劣るものだ。本職の方が性能は良い。やはりモチはモチ屋というものだ。
だから何が言いたいかというと、怒りに燃える、闇炎術士の第九王子が同じ飛行で追ってくるのであれば、すぐにでも追いつかれるということだ。
後方から第九王子が追ってくるのをオージーは≪索敵≫で感じていた。
第九王子で全力で≪威圧≫も放っているのだ。≪索敵≫など使うまでもないのだが。
空中戦であれば闇炎術士は飛びながら一方的な魔術砲撃をすることができる。
それはまるで織田信長が行ったナラシノのような蹂躙劇だ。
あるいは、異世界の戦記もので幼女が敵兵に仕掛ける蹂躙戦か。
だからシーナは舐めるように低空飛行をし、そして叫んだ。
「おじさま! 抱いて!」
「おうよ!」
シーナは綺麗な着地を決めると体を入れ替え、今度はオージーがシーナをお姫様だっこして大地を駆けぬける。
「≪身体強化≫! ≪逃走≫! ≪加速≫!」
アクティブスキルを駆使して強引に加速を図るオージーに、第九王子がせまる。
飛行が終わり、ようやく他の魔法ができるようになったシーナは、魔杖≪安全なトドメ刺し器≫を取り出すと錬金術を発動させる。
「/replace H2↑」
大量のH2と言われるガスが後方に広がっていき、空気と攪拌される。
追ってきた第九王子は飛行を止め、H2に接触する前に≪鑑定≫でその内容を見極める。
そう、第九王子もウィンドウシステムが使えるのだ。
「ふふふ。H2か! 知っているぞ! それは水精霊の根源たるH2Oの片割れ、つまり水系の攻撃魔法系であろう! この闇炎術士に対して水魔法で対抗しようなどと、強気にでたものだなぁ! シーナ! いくぞぉぉ、この程度の水系魔術など、この闇の炎で消し去ってくれる! くらえ! ファイヤーボール!」
水魔法など火で履き払えばよい。とばかりに着火源を第九王子は作り出す。
「ふふふ、俺は化学に詳しいんだぁぁぁぁ!」
その炎がH2に触れた時、ある化学反応が起きる。
どーん。
第九王子の叫びむなしく、2H2 + O2 → 2H2O という簡単な化学式のもとに、第九王子は爆発した――




