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クラスの選択

 ある晴れた昼下がり、ぽかぽかとした陽気のなか、荷馬車は止まっていた。


 御者台の上では一組の男女が、女性が上になって折り重なっている。


 互いに呼吸するのも忘れ、真近で顔が触れ合うような距離でシーナと、イージンは見つめあう。


 シーナは、そんな体制でイージンの胸の服をはだけさせた。

 イージンの逞しい胸に手を当てる。


 イージンは耳まで真っ赤にしてその白い冷たい指を受け入れていた。

 くすぐったい。だが我慢する。


 そして、シーナは一言、つぶやいた。


「《鑑定》」


 イージスは真剣なまなざしでそれを見つめる。

 シーナはイージスの服を元通りにすると、すくっと立ち上がった。


「――で、どうかな?」イージンは行為に興奮していた。


「えーっと、イージンは『ウィンドウ』は見えないか。成人の儀式を受けるくらいだから当たり前だね、ちょっと待ってね……」


 シーナは自身のキャミソールに手を突っ込むとおもむろにノートとペンを取り出した。


「アイテムボックス!」


 イージンはそれを見て驚く。思わず自分でも変な声が出てしまった。


 異空間に大量のアイテムを保存することが保持することができるそれは、上級クラスでしか持ちえないスキルである。


 やはり、錬金術士(シレー)って上級クラスですごいんだなぁ、とイージスはスキルを間のあたりにして思った。


「えーっと、イージンのステータスはこうね」


 さらさらと白い紙に黒のペンで何かをシーナは書き込むと、それをイージンに手渡した。

 おそらくは、《鑑定》の結果であろう。


 ごくり、とイージンの喉が鳴った。

 ノートは、なぜだか暖かみがあった。


「あ、あぁ……」


 こういったステータス値は冒険者ギルドで高いお金を払うか、成人した後に冒険者として登録しない限り見ることはできないものだ。


 当然、ただの村人であったイージンには見ることはなかったものだ。


 震える手でイージンは自身のステータスを初めて、見た。


名前:イージン

種族:人族

性別:♂

クラス:ノービス(novice)

レベル:1

HP:10

MP:10

SP:10

STR:10

VIT:10

DEX:10

MAG:10

INT:10

LACK:D

スキル:なし

状態:普通

称号:未成年


「普通だ」


「普通だねぇ……」


 すべての能力が10であり、どこをどうみてもやっぱりイージンはThe村人だったのだ。


 シーナはイージンの称号欄に『(しも)の世話係』というものがあったのを発見したが、さすがに記載するのはやめておいた。


「もうちょっと、なにか違っていてもいいと思うのだが……?」


「いや、それをわたしに言われても……」


「ははは……、それはそうだけど……」


 乾いた笑いとともに落ち込むイージンをシーナは慰める。


「いや、これからだって! クラスチェンジすればいろんなスキルも取れるし!」


「そうだ。僕の能力値じゃなくて、知りたいのはどんなクラスになれるかだよね」


 そう、シーナの「大人にしてあげる」発言。あれはクラスチェンジの手伝いをしてあげるという意味であったのだ。


「《鑑定》で得られるのは現時点でなれるクラスだからね。タイミングによって変化するから、ここで今クラスチェンジしなくてもいいし、嫌なら保留にして、王都で成人の儀式を受けてもいいから――」


「あぁ。で、何になることができるの?」


 イージンは期待したまなざしをシーナに向けた。


「では発表します。イージンがいま選択できるのは――、どるるるーどん」


「いいから早く!」


「『剣士(Swordsman)』【野武士(Ranger)】『執事(Butler)』『村人(Villagers)』以上の4つですー」


「おぉぉぉーー。剣士になれる! 剣士一択じゃん!」


「じゃ、剣士(Swordsman)にするね……」


 そういうと、シーナはイージンに再び身体を寄せた。


「えーっと、人様のクラスチェンジをするときは、人様のステータスをいじることになるから、普通はできないの。だから、わたしたちは一旦、師弟関係になって《師弟》スキルで同期を取る必要がある。分かる? イージン。いまだけでいいから、わたしのことを師匠だと強く思ってくれないかしら?」


「あ。そういう仕組みなのか?」


 言われ、改めてイージンはシーナを見た。


 小柄な彼女はとても可愛らしい。


 村には存在しなかった、いや街にいってもめったにお目にかかることはできなさそうな美少女だ。

 ショートヘアの金髪もめずらしいし、鮮やかなすみれ色の瞳もここらでは見かけない。そして肌はきめ細かく、透き通るようだ。


 イージンは結論づけた。


(こんな可愛い子が師匠とか、無理……)


 彼女や恋人としてなら100%、いつでもOKだ。


 だが、どうしても。


 どうしてもイージンにはシーナが師匠であるという認識を持つことができない。


「師匠として、認めてくれないの?」


 シーナは目をうるうるさせて訴えかける。

 だが、それは師匠ヅラをするには完全に逆効果である。


「ごめん、無理……。もうシーナが少し大人になれば間違いなく師匠と見なすことはできるだろうけど……」


「むぅ? 大人ねぇ。身長かな? 胸かな?」


 ずぃ、と寄ってくるシーナを、イージンは両手で押しのけた。


「いや、見えるからやめて……」


 イージンの視線は、シーナのキャミソールにくぎ付けだ。

 イージンはシーナより背が高い。

 だから上からキャミソールの隙間を見ることができる。


 正確にはその谷間――


 視線に気づいたシーナが両腕を自身の胸にあて隠す。


「もう、そういう目で見ないでよ。お師匠さまじゃあるまいし……」


「なぁ、《師弟》スキル以外に、他に人のステータスをいじる方法はないのか? それをしようぜ」


「え? 急にそんなことを言われても……」


 シーナは急にもじもじし始める。

 何かあるのだろうか。


「なんか変なこと言ったか?」


「ウィンドウを共有するんだったら、他には『結婚!術式(かっこかり)』をすればいいけれど……。それはちょっと……」


 言われ、イージンの方が赤くなった。

 その要求は、ほとんど告白したようなものだと気づいたからだ。


「すまん。それはなしで……」


 気まずい雰囲気が二人に満ちる。


 ――と、不意に。


 シーナが荷馬車の方に振り返った。


「ん――。なにあれ?」


「どうしたんだ?」


 イージンも馬車を見る。

 赤き牛が、ドナドナと鳴いた。


「《索敵》になにか引っかかったわ! 馬車がすごい勢いでくる――」


 シーナは、キャミソールに胸に手を突っ込むと、大きなオーブが付いた魔杖を取り出す。

 水色のオーブからは、「Stand by……」といった異国風のサウンドが出力される。


 それは、異世界産の魔杖――≪安全なトドメ刺し器≫だ――

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