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冒険者チーム「赤い靴」

 村はずれの日当たりの良い斜面に、小さな岩がいくつも並んだ場所がある。

 そこは火葬された人が埋まっている場所だ。

 墓にはシキミの木が白い花を咲かせていた。


 水桶と花を持ったオージーは、そのなかの一つに水を掛け、そっと花を添える。


「なかなか来てやれなくて済まないね……」


 両親がそろって他界して、オージーが村から出て約8年くらい経っている。

 実家の家は、村から出るための旅費として家財含めてすべてを売った。


 両親が他界したのは、流行(はやり)の疫病であり、他の住民も何人かお亡くなりになった状況だ。家を売った金は安かったが、そんな状況で村を離れる若者によくお金が出せたものだと後になってオージーは思う。


 そしてまた、オージーは生活のためにこの村を離れなくてはいけない。


 オージーとしても≪隠蔽≫スキルが3になった以上、イージンという剣士のことが心配だというシーナの意見には賛成だった。


「墓があるだけいいわよね――」


 その小さな墓石ともいえないものにしゃがんでお祈りをするシーナが呟いた。


「失礼だが、シーナのご両親は?」


「さぁ?」


「さぁって、名前も知らないとか――」


「お師匠さまが言うにはね。知らない方が良いって……」


「ずいぶん酷いな。それは――」


「酷いと思ったのよ。でも、そんなのは≪鑑定≫スキルを取れば、わたしを≪鑑定≫すれば分かるんだよね――」


「なら、なぜ分かるのじゃないか?」


「『いいえ』。『分からないこと』にしたわ。それでも知りたくて?」


「知りたいが怖いな。であれば俺もいいえだ。であるならば、そんなのどうでもいいじゃないかと続けよう」


「え?」


「シーナはシーナだろう? 今、俺と付き合っているという設定になっている。俺の彼女だ。それでいいだろう? ところでなぁ、この設定はまだ続いているのか?」


「……。続いていますよ? べつにおじさまのことわたしは嫌いじゃないもの」


「おぅ、俺もシーナのこと好きだぜ。それでいいじゃないか」


「――」


 顔を赤らめて押し黙るシーナに対し、オージーはしかし悩んでいた。


(言えないような両親のナゾというと、普通に考えりゃ貴族のソレなんだが、どいうことだ?


 シーナの本名はシーナ・ヤーマ・コーフ子爵だったはずだ。

 すでに子爵位でさらに貴族の問題?


 紫華鬘(むらさきけいまん)のすみれ色の瞳だが、紫華鬘(むらさきけいまん)といれば色は紫――。そして紫といえばアメジストだ。


 アメジスト王国の王族がそんな瞳の色だったはずだが、まさか――


 いや、王族とかはさすがにないよな? そんなのがぶらぶら街を歩いてるはずがない――

 だが、貴族であればそれに近いということはあり得るのか――


 そうなると――問題は俺が普通の農民の子供だったということだな。


 プロポーズとか――して大丈夫なのだろうか……)





  ◆  ◆  ◆  ◆






 シーナたちが王都へと戻り、冒険者ギルドに戻ると探す対象のイージンはすぐに見つかった。


 その恰好はすっかり変わっていたが――


 一言で言うと――黒ずくめだった。


 黒いトレンチコートを身にまとい、腰にさしていた剣は肩に担いでいる。

 コートから漏れ見えるズボンやシャツも黒く、靴まで黒色という徹底ぶりだ。


 そして、イージンの周りには2人の冒険者の女性。どちらも美女である。

 イージンはそんな彼女たちにイケメンスマイルを振りまいている。


 その二人の女冒険者がいて、じっとシーナのことを眺めていた。

 一人は女騎士、もう一人は女魔法使い。

 まさに、お前が主人公か、といいたくなるようなハーレムパーティだった。

 アニメであればかつて主役級であったCVが当てられるに違いない。


「やぁ、シーナ。どうしたのかーい?」


 心配していたシーナは元気そうな姿に安堵するだが、その姿がイージンを誤解させたようだった。

 もしかしたら気があるのではないかと。


「あぁ、急に俺のことをシーナが探すからなんだろうと思ったが、つまるところ俺のパーティ、チーム『赤い靴』に入りたいと言うことだな! そうに違いない」


 ぽんと、手を叩くと理解したとばかりイージンは頷いた。


「いや、違うのよ。わたしは心配したのよ?」


「こっちの女騎士がホワイト・キャッスルストーンで、女魔法使いがフォーレストだ。仲良くしてくれ」


 呼ばれた女騎士と女魔法使いは、これ以上女が増えるのは嫌だとばかり、シーナを睨みつける。


「――な、彼女たちは可愛いだろう?」


「まぁ、イージンったら……」


「こんなところで……」


 イージンは公衆の面前である冒険者ギルド内であるというのに、両腕で女騎士と女魔法使いを抱きしめた。

 いわゆる両手に華の状態である。


「――で、剣士、女騎士、女魔法使いだろう。回復役が不足しているんだが、シーナはどうだろう? 錬金術士(シレー)ってポーションとか作れるのだろう?」


「――それは回復系の錬金術士(シレー)ね。わたしは攻撃系だから、クラス特性は女魔法使いさんと被るかも?」


「さすがにフォーレストはさすがに手放せないな!」


「もう、イージンってばぁー」


 呼ばれた女魔法使いのフォーレストは勝ち誇ったようにシーナを見下した。


「……。そうじゃなくてーー。もう、心配して損したわ! イージンが魔王に――」


「おっとー、その話を今しちゃうのかい! 激情之魔王たる魔王ジャック・ザ・ハートと戦い、数々の難関を打ち破って生き延び、魔王をも認めさせて≪魔王の加護≫まで受けたこのイージンの英雄譚をぉぉ!」


「いいえ、結構です」


 話は、とんでもなく長くなりそうだった。


「いやいや、ぜひ聞いてくれ。話を始めれば魔王がこのチタンコートされた黒剣に注目したころから始ま――」


「あぁ、そういえばわたしへの借金はまだ――」


「おぉそうだ。見てくれこの魔笛(ホイッスル)を! この笛を使えば魔王ジャックを召喚できるという優れもの! それ即ち! 魔王ジャックを封印したも同然というものであろう! 魔笛(ホイッスル)を吹かなければ出てこないのだから」


 イージンは急に話題を変えた。

 イージンは胸にぶら下げていた魔笛(ホイッスル)を取り出す。

 借金の話はしたくないようだった。

 その魔笛(ホイッスル)の色もまた黒色だった。


「(いえあの、この前その魔王に会ったのだけれど)」


「何か言ったかね! シーナ!」


「いえなにも」


 そんな風にイージンがシーナと話し合うのは気に入らなかったのか、女騎士と女魔法使いが話に割り込んできた。


「そんなことより、私との馴れ初めの方がいいんじゃない?」


「あぁん。私の方がぁ……」


 女魔術師と女騎士はイージンといちゃつき始める。


 話はさらに長くなりそうだ――


 ちなみに、オージーはシーナと一緒に来ていたが関わらないように空気になっている。

 あの女だらけの空間には入りたくなかったようだ。≪隠蔽≫スキルはばっちりと効いていた。本心からレベルを上げておいてよかったと思う。


 要するに、この女集団には男はイージンしかいるように見えず、イージンは周囲のギルドメンバーからはさらなる嫉妬の視線をイージンは受けるのである。

 ≪主人公特性≫スキルの女難の相は、とどまるところを知らないようだ。


「あれは、俺が――流派:刀劍神聖域を覚えたときだった……」


 話はまだまだつづくようだった――

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