白のワンピース
リゾートスパの一室。そこには貴族のご婦人方が揃っていた。
「これが話題の――。というか問題の?」
「十六夜と申します――」
十六夜は小さく頷いた。
その後ろにシーナとオージーが立っている。
「まぁまぁ。なんということでしょう。姿形はシーナさんに似ているわね。髪と瞳は――オージーさんっぽいのかしら?」
シーナが魔術士工房で生産した娘、十六夜は御年0歳の女の子である。
それがちゃんと受け答えしているところ見ると、錬金術ぱねぇ、と思わざるを得ない。
一人のご婦人は言う。
「錬金術でこんな娘ができるなんて他の方々に知られたら大変なことになりましてよ?」
「それは――どういう意味でしょう?」
「例えばそうねぇ……、女の子を大量に生産して、戦場に行かせて新たな領地を獲得しようとしたり、多数の女の子を遠征に行かせて金稼ぎに使われたり――」
少女たちが海戦や夜戦を行うシーンを想像する。
魔術による弾幕を張り、前進していく姿を。
彼女たちは暁の水平線に勝利を刻めとか叫ぶのだろうか。
それとも戦いの果てにロマンを求めるものなのだろうか。
「それは……、人数的に難しいのでは? 質を問わないならいざしらず、さすがに数が……」
「――それは極端な例として、例えば子供のいない家庭であったり、その方が高齢であったりしたらどうでしょう? 錬金術であれば別に対象は殿方でも構わないのでしょう?」
「それはまぁ……そうですね」
「あと考えられるのは独身貴族とかで相手がいないケースとか――、いろいろ想像の翼をはためかせることはできるでしょう?」
「そうねぇ。例えば彼女の容姿は相当に可愛いでしょう。そんな高嶺の花が錬金術で作って売れるとなると――」
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「――とか、貴族のご婦人にこの娘を見せたら、――とかなんとか言われながらご婦人方ネットワークで噂が一瞬にして伝搬してシーナは捕まり、どっかの屋敷の奥で一生どこの馬の骨とも知らない男たちのために子づくりをやらされ続ける、そういうことになりかねないぞ?」
オージーは、具体的な例を挙げながらシーナの所業がいかに問題あるかについて説明を続けた。
そのほかには禁呪指定されてどこかに幽閉されるなどだ。
タダでさえ高難度の精錬が行える錬金術士である。
何かの拍子い捕まれば暗くじめじめした部屋で何かを作らせ続けられる、などということは十分考えられた。
場所はさすがに魔術士工房はずっといると魔法陣で目がくらくらするので、彼女の家の、寮舎と呼んでいる部屋へ移動済みだ。
もちろん、十六夜と呼ばれた女の子には、シーナの服を着せている。
白のワンピースだ。その髪色と同じでよく似合っている。
十六夜は長い白い髪に黒の瞳を有する少女で、背格好はシーナと同じ低身長でシーナとかなり似ている。スレンダーでシーナと同様に美形な容姿をしていた。
背格好が同じだからこそ、シーナと同じ服が着れたということだ。
つまりその胸も――それ以上は黙秘ということにしておこう。
「シーナのショウニンヨッキューとかいうのは分かった。きっと初めて作った魔術士工房とやらで浮かれていたのだろう? その後どうなるか考えていなかったのか?」
「いやぁ、まぁ……」
「はいはい。シーナは凄い、凄い錬金術士だ。――で、これどうしよう」
シーナとオージーはその少女十六夜を見る。
彼女は、――震えていた。
「ねぇおかーさん。おとーさん。わたし、捨てられちゃうのぉ?」
まるで保健所に捨てられる寸前の子犬のような目でシーナたちに懇願してくる。
はたまたそれは、市場に売られる仔牛のようだ。
いままでの会話で廃棄される可能性を察したようだ。
「解決方法としては――合成とか?」
シーナの言葉に十六夜はさらに震えた。
思わず引いて、オージーの腕の裾を握るくらいだ。
「――。シーナ。不穏で仕方がないが、その合成とやらの内容を言ってみろ」
「新たに乙女鉱山で子づくりして、同属性のキャラであれば合成するの」
「ふむ、十六夜は居なくなるとして、新たに子づくりした子はどうなるんだ?」
「なんと衝撃の能力値がポイント10倍? 衝撃のポイント10倍セール実施中?」
「わかった、シーナは黙れ」
「えー」
さらにがたがた震える十六夜の頭を、オージーは優しくなでる。
ごつごつした手であったが、しばらくしているうちにその震えも収まってきたようだ。
「あは☆ ありがとう。おとーさん……」
それをひややかな目でシーナは見る。
「こら、こら、嫉妬するんじゃない……」
「だって……」
「撫でて欲しいならシーナもこっちに来なさい」
「いや、そんな子供みたいな……」
シーナはそう言いながらもオージーににじり寄っていく。
「あはは、シーナの体は正直だなぁ」
「おじさまはずるいです。そんな暖かな手で撫でられたら誰だって落ちますからね?」
シーナの頭をなでなですると、シーナも落ち着いたようだ。
「とりあえず。なんとかしないとなぁ……」
オージーは戦略を考えるのだった。




