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乳児ボツリヌス症


「そりゃ好きさ――、いちおう付き合っているんだろう。俺たちは……」


「そうよね……。で?」


「で? って――」


「あーー。だからか。分かった。わたしの行動原理が」


「なんだよ、自分で頷いて――」


「ちょっとわたし、承認欲求があったかもしれない」


「ショウニンヨッキュー? なんだそりゃ? 難しい言葉を使うんだな」


「人に承認されたい、認められたいって気持ちね。特にわたしは錬金術士(シレー)だから錬金術で認められたいーって思ったかも? 好きなおじさまに」


「だから、錬金術で鉱業ギルドにモノを卸しまくって、スパリゾートも作ったと」


「衣服ギルドにいろんな繊維を卸したりもしたね。ポリエステルとか……」


「そしてコレか。いいよ、みんな認める。すごいなシーナは……」


「ふふふ……、ありがとう」


「ならばシーナ自身についても認めてあげないとな?」


「え?」


「そうだなぁ……、そのショートヘアは蜂蜜みたいで綺麗だよ。だとか?」


「ふふふ。大人の味よ」


「へー。どの辺が?」


「だって、蜂蜜には乳児ボツリヌス症を起こす毒性があって、乳児が食べたら死ぬもの。おじさまとわたしの子供でもきっと死ぬわ」


「なるほど。じゃぁ次はその瞳かな。紫華鬘(むらさきけいまん)のすみれ色の瞳はとても鮮やかできれいだよ。さぁこっちを見てごらん」


「さっきから毒物ばかりね――、確かスミレの毒性はサポニンだったかしら? 経口毒性で蕁麻疹とかを引き起こす。だったかしらね?」


「そりゃぁ意図的に言っているもの。俺は野武士(Ranger)だからね。フィールドにある毒物であれば多少は知識がある。俺にもシーナに認められたいというショーニンヨッキューとやらがあるのだよ」


「あら? それなら毒草だけでわたしをどこまで褒められるか試してみる?」


「あぁ、頭のてっぺんから足の先まで褒めてあげようじゃないか」


「じゃぁ、わたしを褒めるたびにおじさまのことを認めて、わたしのおじさまに対する好感度を上げてあげる。もっとおじさまのことも隙になるわね。おじさまの彼女(ひしょかん)を超えて、好きになるかもよ?」


「好感度ってシーナおまえなぁ、パラメータじゃないんだから……」


 そしてずっとシーナを褒めたたええている耐久レースをしていると、いつの間にか時間は過ぎていていった――







  ◆  ◆  ◆  ◆







「いやぁ、最後の方は酷かったね――、ナツメグはまだ良いとして、なによジャガイモの新芽とか、チョウセンアサガオの茎に接ぎ木したナスとかって……」


「いや、さすがにネタが尽きて……」


「まあいいよね。時間が潰れたんだからさ」


「さあ、何ができあがるのかなー」


「じゃぁ時間経過して出来上がったみたいだから、いよいよクリックするねー」


 えぃ、とシーナは空間にあるなるかを押し込んだ。


 オージーには見えなかったが、それが上級術士が使用するウィンドウシステムだということに、いまさらながら気づく。


 すると、あぁなんということでしょう。

 急に魔法陣が空中に浮かび始め、回転しながら光始めたではないか。

 その色は青白く、とても美しい演出だった。


「これはいったい……」


「さぁ現れよ! 固体名:|十六夜(1341)!」


 貧しいくらいの光に目がやられ、一瞬瞼を閉じると、目を開けたときにはそこに――全裸の女の子が、いた。


「おとーさん!」


「!!?」


 その女の子はオージーを見るなりいきなり抱きついてきた。


「あは☆ おとーさん! おとーさん! おとーさん!」


 目鼻立ちはシーナにそっくりである。

 違うのはその髪の色だろうか。



「よぉし、成功!」シーナは大喜びでガッツポーズまでしている。


「おぃ、どうすりゃいいんだよこれ?」


 オージーは裸の女の子をガッツリ見る訳にもいかず、女の子から目を背けた。

 そして強引に引きはがして怪我をさせるわけにもいかず、途方にくれるしかない。


「おぃ! シーナ。この娘なんとかしてよ」


「≪鑑定≫――。ふむふむ、なるほどなるほど――」


「話聞けって――。まず服! 服を――!」


「おとーさん! おとーさん! 聞こえないのぉ!」


「おまえ、おとーさんしか言えないのか!」


「あは☆ おとーさん! しゅきぃーー」


 ぴきーん。


 周囲の温度が一気に下がったような気がする。


 その温度が下がった忠臣ではシーナが怒りを滲ませていた。

 これは、嫉妬なのだろうか? オージーとしてはそれは嬉しいがこの場ではやめて欲しかった。


「お・じ・さ・ま?」


「シーナ、助けて?」


「もしかして、裏切る気?」


「あー。可愛いよ。超絶さいきょーにシーナ可愛いから。だから助けてってば」


 むにゅ。


 シーナをなだめている間にも、女の子は抱きついたままだ。


 オージーとは身長差があり、ちょうど女子の頭のあたりが、オージーの首の高さになる。

 すると抱き着いたとき、柔らかなソレは、むにむにとオージーの腰に当たることになる。


「あは☆ 見てみて! おとーさんがたった! おとーさんがたったぁ!」


 十六夜(いざよい)はアルプスで可憐な少女が車いすから立ち上がったのを見たようなことを口走った。


「なにやってんだ、お前!」


「お・じ・さ・ま?」


 さらにシーナの声が低くなる。こんなのどうすれば良いのだろうか。


「こんなの不可抗力だって、シーナみたいな可愛い容姿の女の子に密着されたらそりゃ生理現象も起きようというものさ」


「お・じ・さ・ま?」


「もう、どうにでもなれ――」


 オージーは思考を放棄するのであった。

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