天井に数えられるようなシミは無かった
さて、天井のシミの数を数えるうちに終わるものはなんだろうか。
天井にはシミの代わりに魔法陣が所せましと描かれている。
シーナの魔術士工房たるその場所は、天井だけでなく足の踏み場もないほどに魔法陣が散りばめられていた。
ここで、シーナとオージーは子づくりをするという。
「なんにしようかなー
今日のレピシわぁ――
水 (燃料力) 4000
火 (ボーキ) 2000
金 (資金GP) 5000
土 (弾幕MP) 7000
風 (オーブ) 20
――の組み合わせね。おじさまもそれでいいよね?」
何のことはない。
錬金術で何かを一緒に作るということなのだろう。
それをもってわたくしたちの子供です。とか言うに違いない。
オージーは膨らんだ期待にがっかりするが、しかし安堵もしていた。
「――ねぇ、おじさまってば――」
オージーは考えていたが、シーナの声に我に返る。
「あぁ、俺は錬金術で何ができるかさっぱり分からんからな。シーナの言う通りで言いぜ」
「じゃぁそうする。能力値は――人形姫の呪いを付加して設定でできる最大値までもっていくとして、レベルは――」
何か不穏なことを言っているが大丈夫なのだろうか。
「おい、呪いとか大丈夫なのか?」
「お試しだからね。条件が揃わないと一定時間経過で消滅する代わりに能力を増加させることができるの。容姿も向上するんだよ?」
「消滅って――」
「さてさて、おじさま。そこの魔法陣の中央に体液を一滴垂らしてもらえないかしら」
「なんでも良いのか?」
「おすすめは唾液ね。痛いのははじめだけよ?」
「それは血だろう?」
オージーは自分の口に手を突っ込むと、指に濡れ付いた唾液を言われた通り一番大きな魔法陣の中央に塗り付けた。
「ふふふ。初めての共同作業♪」
「何言ってんの?」
「一人ではダメだったけれど、二人なら大丈夫よきっと」
シーナは祈るように魔杖≪安全なトドメ刺し器≫を手にもって掲げ、そして振り下ろす。
「それでは行くよー。
流派、錬金術士が最終奥義ぃぃ!
乙女鉱山!」
そんな名前を叫ぶと、シーナは右手で何かをクリックした。
乙女鉱山といえばシーナの二つ名だ。
そんな二つ名の名を関する術式で、いったい何が起きるのか。
しかしオージーの見た目には何も起きなかった。
目がちかちかするような魔法陣がその場所にあるのみ。
いや、何か蠢いたか?
人っぽい、何か?
だが、シーナとしては違ったようだ。
ものすごい興奮している。息が荒い。
そしてドヤ顔をオージーに見せてくる。
「やった! おじさま! 待ち時間は06:40:00ですって。SSR確定じゃない!」
どうやら、その何かが完成するまでには6時間以上かかるらしい。
「どうする? 先にご飯にする、スパリゾートに行く……、それとも……」
「そういう意味深なことを言うのは止めなさい」
オージーはごつりとシーナの頭を叩く。
シーナは痛がる振りをするが、そこまで強く叩いたわけではない。
だが、オージーにとって本格的な錬金術を見るのはこれが初めてだ。
オージーもなにか感動していた。
そこに感動できる要素はなにも無かったにも関わらずだ。
「ちょっと何が起きるか見てみたいな……。どこか座るところある?」
「じゃぁ椅子持ってくるわね。わたしも初めての魔術士工房での初めての最終奥義だもの、見ておきたいし……」
そういうと、シーナは部屋から出て行ってしまう。
椅子を取りに言ったのだろう。
(て、何ができあがるのやら……)
だが、その興奮もすぐに冷めた。
あまりにも変化がないのだ。
ナニカがうごめているように見えるが、そうでもない気もする。
そして、それはシーナも同様だったようだ。
シーナとオージーは必然的に雑談モードになった。
「暇ならおじさま、わたしの肩でも揉む?」
「なぜそうなる? まぁシーナの肩は揉みごたえがあっていいけれども、風呂上がりの上気した感じの中で揉んだ方がより効果は高いと思うぞ?」
「お風呂は――。これが終わってからね。それにしても暇ねぇ……」
「真の錬金術見たさに興奮したのがいけなかったか。――で、何ができるんだ?」
「子づくりなんだから子供?」
「そこでなぜ疑問形?」
「わたしも初めてだからねぇ……」
「知らずに錬金術使っているのかよ」
「いや知っている。子作りよ、子作り」
「だからなんなんだ?」
「わたしは錬金術士の最終奥義が子作りっていうのもなんだかな、って思うわけよ。乙女鉱山とか、都市鉱山とか、偉そーな名前が付いている割にね。子作りなんて若い男女が二人いりゃ作れるってゆーの。――でも出来上がるのはどんなのか事前に分からないでしょう? それと一緒よ」
「何言ってんだかさっぱり分からないが――、要約すると使い魔か何かなのか?」
「まぁ、そのようなものね? ペットみたいな?」
「ハッキリしないな」
「おじさまもそうじゃない」
「俺ははっきりしているさ。いつも好きなことを言っている」
「ほんとに?」
「あぁ?」
「じゃぁ、わたしのこと、好き?」




