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指名依頼

「――でだ。Fランク冒険者の君らに頼みたいことがある」


 オージーは本題とばかり話を切り出した。


「えぇ、なんでしょう?」


「僕にできることであれば……」


 シーナとイージンは頷いた。


「大体、目途は拘束は1週間くらいかな。もちろん受けなくても良いし、受けて失敗してもペナルティは発生させない」


「いいから、中身を言いなさいな」


「実は――。俺が付き合いたい女がいてな。アプローチしても全然なんだ。君らには脈があるかそれとなく聞いてきて欲しい、という依頼だな――」


 シーナは、急に脱力すると侮蔑するような目をオージーに向けた。


「なにそれ?」


「いや、無理言っているのは分かっている。だが、うら若い女性の冒険者なんて数がすくないのだ。そこにタイミングよく現れた初心者冒険者だろう。右も左も知らない風を装って、彼女に接すれば、ついでに俺のことも聞けるだろうという寸法だな」


「採取クエストの方がまだ経験になるんじゃないかしら? イージンに索敵スキルを生やさせるとか」


「剣士のクラスだと≪索敵≫スキルは取っても限定的だぞ。それに生やすなら≪剣術≫スキルの方が先だと思うが」


「確かに……、わたしも≪索敵≫はスキルがあるからいらないわね。レベル5にしても野武士と比べたら性能低いし。取得できたとしてもレベル1か2……、であれば最初に取るなら他のスキルの方が良いわよねぇ」


「もっと言うなら、シーナが街での普通の生活でまずは常識をなんとかする方が先なんじゃないのか? 先ほどは右も左も知らない風を装ってと言ったが、本当に右も左も知らないだろ? 教えてもらえ。さすがに女の常識は俺には教えられないからな。それが経験になるはずだ」


「うーん。でもねぇ……」


「別にそれに掛かり切りになるようなものでもないだろう。剣士クラスであるなら≪剣術≫スキルを伸ばすために剣の道場にも通う必要があるだろうし、なんなら俺が知り合いの師範に頼んでも良い。金も出す。まぁ危険度には見合った額になるだろうが」


「ふーん。ほんとに小遣い稼ぎね。イージンはそれで良い?」


 イージンは特に問題ないと頷いた。


「ごめんね。本当は剣士になったのだから、剣で狩りとかしたいと思うけれど」


「まだまだ早いな、半年は先行して≪剣術≫スキルを伸ばすことだ。先に地力を高めてからの方が良いだろう」


「おじさまは慎重すぎない? そこまでいるのかしら? ――で、ともかく話を戻すとして、その娘って、お店かなにかをやっている娘なの? そうでもないと調査するにしても難しいわよ」


「あぁ、酒場でウェイトレスをやっているな、『みんなの酒場亭』というところだ」


「『みんなの酒場亭』というと――、わたしたちが停まっているところね。そこのウェイトレスって一人しかいなかったから、あの娘か……」


 シーナは思い出していた。

 確かイージンの『成人の儀式』後の打合せで牛さんを『あーん』とか言って食べさせていたシーンを思い出す。

 あの時のイージンは≪成人の儀式≫直後でずいぶんと楽しそうだった……。

 なんだかムカついてきた。


「まずはシーナとしては対人の対話訓練にもなるだろう? イージンはシーナを要人に見立てて警護訓練をしろ。今後『運搬』『護衛』などの任務をするときには役立つだろう。それでどうかな?」


「対話訓練ねぇ……。意思疎通はできると思うのだけれど?」


「そうかな?」オージーは訝しむ。


 イージンがそれに同意した。


「シーナは敵対する人にはかなり厳しいから……」


「そうかしらね?」


「――なんなら、自分が先にウェイトレスの子から話を聞きましょうか?」


 いままでの経験をイージンは走馬燈のように思い出していた。

 ガソリンプール。冒険者ギルドでのやりとり――ハッキリ言おう、危なすぎる。


「お、イージン。それはいいね」


 faceb〇〇kやy〇utubeでボタンがあったら激しく押しそうな勢いだ。


「おいおぃ、そりゃーねな。シーナであれば多少は問題るとしても、女の子同士で突っ込んだ話もできるだろうにとか思って依頼したのに」


「イージンはほら、見てよ。剣士でイケメンよ。まるで物語の主人公みたい。だから話をすればイチコロだって」



「イチコロって、お前なぁ……。まぁ確かに。なんといってもイージンは花形クラスの一つである剣士でからな。だが、そうなると、女の子だったら声を掛けただけでホイホイついていきそうで怖いぞ。そうなったら、わざわざホイホイされるように依頼した俺がバカみたじゃねーか」


「ホイホイって……、王都にホイホイ連れてきたのはわたくしですけどね」


 来るまでに大爆発があったり酷かったが、シーナがイージンを連れて村を出たのは事実ではある。


「でも、こんな話をしていて、こんな美少女もいるのにいきなり別の女にデレてベットに直行とかありえるのかしら?」


「自分から美少女ってなぁ。まぁ確かに黙ってれば120%超絶美少女なんだろうが……」


「わたしは喋ってても美少女よ?」


「……。よし分かった。シーナは抱腹絶倒の美少女な。言わされた感があるがそれは間違いないとして」


 イージンは心の中で(まぁ、中身は残念だけれども)と付け加える。


「ありがとうございます」


 それに、シーナはどや顔で喜んでいた。


「――でもまぁー男ならあるだろ。剣士とかになっちゃう夢見がちな少年だぜ。最後はハーレム作ろうとか、まるで物語の主人公のようなことを言いだすに決まっているぜ」


「さすがにそれはないわよ? 無いわよねイージン? わたしを捨てたりしないわよね?」


 ないないと、イージンはぶんぶんと横に首を振る。


「ほらぁ。イージンも無いって言っているし。掛けても良いわ」


「また盛大なフラグを立てて……。掛けるんだったら、何を掛けるんだ?」


「フラグって……。そんなに急にイージンに彼女ができたりするものですか。いいわ。もしイージンがその娘に連れ去れたりなんかしたら、わたしがおじさまの彼女(ひしょかん)になってもいいわよ?」


「じゃぁ、依頼は受けるということで成立だな!」


「えぇ良いわ。ただし2一人分の冒険者ランクに見合った報酬2週間分でどうでしょう? その娘にアプローチを掛けるのもイージンにやらせるから。イージンもいいよね?」


 イージンは嫌も応もなく頷いた。


「OK。それでいこう。明日からでいいよな」


「分かったわ。ただし、そこまで掛からずとも報酬は変わらずってことで。それから言い忘れていたけれど、冒険者ランクはイージンがFランクで、わたくしはCランクよ」


「おぃおぃ。ちょっとまて。冒険者ギルドに加入していきなりCランクはねぇだろ」


「あぁ、言い忘れていたけれど、わたしは商業ギルドにも入っているから――」


 シーナはどこか自慢げだ。


「あー。商業ギルドからの斡旋か……。錬金術士は生産系職系なんだな」


 それならばあり得るだろう。その言葉でオージーは納得した。

 錬金術士が生産系職であるならば、冒険者ギルドが優遇しない理由はない。冒険者ギルド経由でものを落としてもらえば、それは冒険者ギルドの利益になるからだ。

 そしてオージーは知らないが、シーナは商業ギルドのブラックカードを有していた。商業ギルドをわざわざ敵に回すようなことはない。


「あぁ、Fランクはともかく、Cランクの2週間拘束か……、俺の金が……」


 オージーは天を仰ぎ見る。

 言ってしまった以上、先輩として撤回するのは気が引けた。


 Fランクの1つ上のEランクは、Fランクの報酬の2倍であり、

 Eランクの1つ上のDランクは、Eランクの報酬の2倍であるのだ。


 報酬額は基本的にランクに応じて倍倍で増えていくのだ――


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