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指名依頼

「お前ら! 見てて危なすぎ! なんとかしろよな!」


 新人がいろいろやらかすのを見てきたオージーは、さすがにシーナとイージンの行動に思うところがあったらしく、彼らを捕まえるとギルドの一室を借りて『ご相談』をするのであった。


「そうかしら? わたしは普通に対応したけれど?」


「そんな訳があるかぁ! あんな反感持たれて……」


 怒鳴り声をあげるオージーだが、意に介さずにシーナの方は出されたお茶を優雅に飲んでゆっくりしていた。

 一方のオージーは頭を抱えるしかない。


「俺は心配しているのだが。あんなアホどもに目を付けられて……。まったく。道端で囲まれでもしたらどうするんだ? すくなくともそこのイージンとか言ったか……、お前は外を出歩くときはそこの嬢ちゃんから離れるなよ?」


「それはもちろん!」イージスは答える。


 普通は剣士が後衛職を守るモノであろうが、いかんせんレベルの差は大きすぎた。


「そこまでしなくても……」


「お嬢ちゃんさぁ。君はそれなり――どころかかなり可愛い部類なんだからさ。だから何をされるか分からないのだから気を付けろよな。どんなに魔力があろうと、毒とか喰らえばおわりだろ?」


「毒には≪耐性≫がありますから」


「ほう? 魔術には長けているようだな。だが近接はそれほどでもないのだろ?」


「所有スキルの開示は黙秘させていただきます」


 シーナの冷静な物言いに、オージーはため息をつく。

 確かに初対面の冒険者に言うようなことでもない。


 人のスキルを根ほり葉ほり聞くということは、弱点を晒しだすことに他ならないという見方もあるからだ。


「冒険者としてはそれなりの知識はあるわけか。そこは褒めるがな」


「ありがとうございます」


「だがなぁ……。普通に庶民の生活とかしたことあるのか? そこのお嬢ちゃんは? シーナちゃんといったか。お前のその行動は≪普通である≫と確信を持って言えるのか? 実は違うとか言ったことに思いを馳せたりはしないか?」


「ふふ。私は魔性(マッド)の錬金術師よ。常識なんてあるわけないじゃない」


「おぃ」


「だから常識というものを学ぼうと旅にでたのよ」なぜかシーナは自身たっぷりであった。


「誰だこれ輸出したの――」


「お師匠さまは『可愛い子には旅をさせよ』と言うに決まってますわ」


「それ、結局言ってねぇじゃねか」


「なにしろ、今までが酷かったから……」


「よし。興味が湧いてきたから試しにいままでどんな生活して世の常識から逸脱したのか言ってみろ。そうだな――例えば賢者の孫で、魔法ばかり教えていたらすっかり常識を教えるの忘れてたとかか? そうなんだろう?」


「………」


「そこで真剣に悩むなーー」


「煮たよなものね」


「魔法じゃなくて錬金術ってことか?」


「そうね……。私は幼かった頃からずっと、お師匠さまに身体の隅々にまで教え込まれて育ったかな……」


「え……。もしかして聞いたらダメなことだったか?」


「いいえ。そう、例えば周期表。すいへーりーべーぼくのふね……とか、異世界の語呂とか分かるわけないのに」


「なんだそりゃ、呪文かなにかか」


「――で、横から順番に周期表を覚えたら、今度は縦読みを覚えさせられたわ。ふっ[F]くら[Cl]ブラ{Br]ジャーとか、変な[He]ねー[Ne]ちゃんある{Ar]草むら[Kr]でXeを連発[Rn]。」


「Xeを連発……」


 横で話を聞いていたイージンは思わず身体を熱くするのだった。


「そして官能基……、わたくしに対してこれでもかと執拗に教えられたわね」


「官能をこれでもかとか……。シーナは苦労しているのだなぁ……」


 官能基――なお、錬金術で使われる官能基には主に以下の種類がある。


ヒドロキシ基-OH

アルデヒド基-CHO

カルボニル基>CO

カルボキシ基-COOH

ニトロ基-NO2

アミノ基-NH2

スルホ基-SO3H

ニトロソ基R-NO

ジアゾ基=N2

アゾ基R-N=N-R

ヒドラジノ基R-NHNH2


「その甲斐もあって≪鑑定≫スキルに目覚めて、そうこうして、知識を蓄えて≪鑑定≫スキルを習得し、≪鑑定≫で出てきたメッセージをさらに≪鑑定≫し続けることでウィンドウシステム自体を見れるようになったわけだけどね」


「うぉぉー。官能を極めると≪鑑定≫スキルが目覚めるのか。なんかそれスゲー情報だな。他言しちゃダメなやつなんじゃないのか?」


「それだけじゃないけれどね。それから、フィールドでの戦闘訓練もやって、さらに錬金術士(シレー)になってからはアイテムの精錬などの実践を進めていき、気づけば乙女鉱山(バージンロード)の称号を得た子爵になったわけよ」


「お、おぅ。なんだかおめでとう」


「いえいえ、どういたしまして」


「さて、ではどうしようかな……」


 話をひとしきり聞いたオージーは、ひとり考え込んでしまう。

 そんなオージーにシーナが声を掛ける。


「さて、それで? 若者2人を呼んでおじさまはこれからどうするのかしら?」


「そうさなぁ……」


 オージーが自分で考えを纏めながら答えた。


「一つは、どうにも死に急いでいる若者にもう少しうまくやれと忠告をしようと思ってだな――。答えは天然で直ぐにはどうにもならんということだけは分かった」


「天然って……。常識くらい、教えられれば覚えることくらいできましてよ?」


「ふむ。ならば冒険者にお前らが慣れるために少しばかり冒険者としての生活のサポートでもしてやろうか? 先輩として。むろんタダじゃないが」


「おぉ先輩……。なにか冒険者っぽいですね。そしてわたくしとイージンが後輩ですの? 響きが良いですわね」


「……。まぁそうるな。少し照れるが」


「もちろん教えていただけるなら喜びますが?」


「――と思ったんだが……、どうしてくれようかと―― 冒険者としての生活といってもいろいろあるからなぁ」


「例えば討伐とかですの?」


「いきなり討伐とかはまずいだろ。シーナはともかく、そこの剣士くんは経験もろくに無いのだろう?」


 イージンが申し訳なさそうに頷く。

 オージーは話をつづけた。


「――とはいえ、定番の薬草とかの採取とかは錬金術師だと不要か? 薬草の見分け方とかであればさすがに分かるだろうしな」


「まぁ、それなりには」


 シーナは鉱物の方が専門だが薬学もスキルポイントを振っているのでそれなりの知識はあった。

 異世界の化学について自助努力によって習得しているくらいなのだ。この世界の薬学など、初歩の初歩にすぎないのである。


「だいたい、そもそも金には困ってなさそうだしな。採取は周囲の森の様子とか知るには打ってつけなのだが……」


「それは良いかもしれないですわね。でも採取だとわたくしの独壇場になりそうだから、イージンを育てるという意味では……」


 オージーはイージンをちらりと見る。


 イージンはどうみても剣士クラスだ。先ほどもそう名乗っていた。

 オージーの野武士(Ranger)と違い純粋に戦いに赴く方向には強いだろうが、反面、採取系は辛いだろう。


 しかも成人の儀式を超えた直後であるためレベルは低い。

 もう少しなにがしかやらしてレベルを上げさせないことにはどうにもならない。


 シーナは考えながらオージーと話し続ける。

 最初に案を出したのはシーナだ。


「なら護衛任務とかは? 経験を積むという意味なら良いでしょ?」


「経験を積むことはできるが、そんなの新人じゃ受けられねーよ。ある程度ギルドでも信用を見るからな。ある程度冒険者として活動して、EかDランクくらいないと受けさせてくれないぜ」


 オージーが言うことはもっともなことだった。

 信用できない冒険者なんて、護衛がそのまま盗賊になるなんてこともありかねない。


 シーナに限ればそんなことは無いかと思うが、かつて護衛任務でそう言ってごり押しして護衛を行って問題になったケースがあり、冒険者ギルドでは冒険者ギルドが独自に設けたランクによってある程度の制限が付けられている。

 これが鉱業ギルドや商業ギルドになると、そのギルドに収めたお金(ぜいきん)の額によって、優遇される範囲が変わる。世の中は金なのである。


「なら他には何がありますの?」


 シーナは、討伐、採取、護衛以外の冒険者ギルドの任務など知る由もなかった。


「例えば、地域の奉仕活動だな。荷物運びとか、土木工作とか、いろいろあるだろ」


 その手の奉仕活動は、商人などが自前の人を用いて行うことが一般的だが、忙しいときは外注することもあった。

 その外注先の受け皿という側面も冒険者ギルドではあった。

 もちろん、安全な場所での活動であるため、得られるお金というものはそれなりの程度のものであったが。


「それで経験が積めます? わたくしが初心者だったころは、まずはパーティを組んで高レベル者と一緒に大量の魔物狩りに行きましたけれど……」


「養殖か。そりゃ大量の金かコネがあれば可能だろうが……。身になるかね? レベルが上がるとして」


「痛いところを突きますね……」


 パーティを組んで低レベル者を守りながら高レベルの冒険者が強い魔物を狩り続け、低レベル者の経験点を強制的に増やす方法を冒険者ギルドの世界では養殖法といった。

 だが、養殖はレベルがあがるもののスキルが身につかないという問題があり、また、よほど身内に高レベル者がいない限り、高レベル者を確保するために高いお金が必要であったりして、非常にハードルが高いものであった。


「ともかく、まずはおじさまは街とかで経験を積んでスキルを習得させるべきと?」


「ぶっちゃけ言うとそうなる」


「うーんどうなのかしら?」


「お前ら二人で一緒に何かやらせとけば、少しはシーナは常識が身につくし、そこの剣士もスキルが身に付けばレベルもあとからついてくるだろ?」


 オージーはシーナとイージンを見ながら考えた結論をいった。

 それにシーナが頷く。


「なるほど、そういう意見もあるわけですね。先輩――。というか、どうにもおじさまって感じだけれど……」


「できれば先輩でお願いします」


「まぁおじさまってば――」


「……」


 どうやら、先輩案はシーナに却下されたようだ。


「なんだかすみません……」


 恐縮したようにイージンは頭を下げた。


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