Side; 魔王
「ブラボー、これは見事な爆撃! 芸術的だね」
「一撃でこれを成したとしたら、いったいどんな魔法なのでしょうか――」
2柱の魔王がひそひそと話あっていた。
一人は、激情之魔王たる魔王ジャック・ザ・ハートであり――
もう一人は、傲慢之魔王たる魔王フアトロである。
ジャックは黒い服に黒いマントをなびかせ、ギザギザの歯が特徴のいかにも中二といった感じの魔術師系魔王であり、フアトロの方はふわふわの金髪に白い仮面を付けた大尉っぽい軍服の女性である。
そんなジャックたちが訪れているのはアメジスト王国の国境線であり――、かつてはウェスタン男爵の砦であった場所でもあった。
彼らは砦徒歩5分くらいの場所で、地面に落ちた黒ずみなどを拾っては何かを調べている。
それは破壊の力がどれだけなのか、どんな魔法を使ったのか――などの調査であった。
検証の結果判明したことは、この破壊現象はいままでの既知の魔法のいずれとも違う何かであるということだ。
「純粋な物理の破壊力としか思えませんね――」
「これがか? 俺の最大火力には及ばないとはいえ――」
「魔術の残滓を感じさせない爆発か――、よほども効率が良いか、それとも――」
「炎属性を付けた龍派魅核闘陣であれば、範囲が広すぎますし。
闇炎系であるならば縁断つ猛将か――? それにしては無指向性すぎます。
考えられるとすれば、火炎系の超悲惨・朴燃陣くらいですが、あれは燃焼しかしません。この破壊は音速を超えた衝撃の後に燃えています。燃焼によって発生した気体が音速を超えて爆燃だけでなく、爆轟(detonation) を起こしていると思われます。いったいどうやって――」
熱核爆裂弾と呼ばれる炎闇系の最終奥義を習得しているジャックであるが、さすがにここまでの地域破壊系魔術はたやすく出すことはできない。
「うーむ。分からん。さっぱり分からんぞーー」
魔王であっても分からないのは当然のことであった。
なにしろガソリンプールは異界の技術である。
しかも異界ですら想像上の概念にすぎないのだ。
密閉されていない場所にガソリンを垂れ流すこと――。それは消防法によって固く禁じられた狂気の沙汰だ。
「しかもシステムメッセージには特に何も出ていないんだよな?」
「はい。たまたま近くで観測した魔人がいうにはそうです」
あきらかに規模は地域破壊系魔法のそれであるナゾの爆発。
それがウィンドウシステムのシステムメッセージに出てこない。
その事実にジャックは驚愕した。
「始めは俺のせいにされてちょっとムカついたが、ここまでの破壊力であるのであれば、俺のせいにするのであればちょっと気持ちがいいなぁ」
「いや、それは――」
「始めは俺の名前を語ってこのような魔術を放つは不届きなヤツだから討伐してやろうと思っていたが、興味が沸いた。これはぜひとも――」
「ぜひとも?」
「わが物にせねばなるまいて――」
ジャックが手を振ると数多くの蝙蝠が出現し飛び去って行く。
それはジャックが扱う偵察用の手の者だ。
ジャックはこの爆発を引き起こした術者に思いを馳せる。
爆発の爪後は最大で約1km。黒い爆発の後はどこまでも続いていた――