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わたしのオージーさま

 冒険者ギルドの一室で一人、酒を飲んでいたオージーは野武士(Ranger)のクラスを拝命したおっさん――自分ではまだ青年だと思っている――である。


 朝からの仕事で早く終われば、昼から酒を飲んでいても問題とはならないだろう。と自分では勝手に思っている。


 長く続く冒険者生活で、それなりに知識もあるつもりだ。


 レベルは30を超えて冒険者としてはCクラスだ。

 Cクラスといえばベテランで、それで生涯を終える冒険者も多い。


 そのほとんどは引退するか――、のたれ死ぬかのどちらかだ。


 そんな冒険者ギルドでも、珍しい光景にオージーはであった。


 一組の若々しい男女(カップル)が、冒険者ギルドにやってきたのだ。

 この時期というのは珍しい。新しく冒険者になろうとする新人だろうか。


 多くの場合、冒険者ギルドに新しい冒険者が来るのは春の季節である。

 なぜなら、成人の儀式で集団で終えた若者が、そのまま集団で冒険者になるからだ。


 それだけ大量に冒険者が増えるのであれば、古参や中堅のメンバーがちょっかいを掛けるのは難しい。

 要は数は暴力である。

 集団で集まれば大抵の場合なんとかなる。


 だからこそ、なんでこの時期に? とオージーは疑問に思う。


 剣士と思しき少年は、目をキラキラと輝かせて冒険者ギルドの入り口であたりを見回している。

 完全に始めて都会に来ました風の元村人だ。

 そして、後衛と思われる少女は、恰好からして上等なもので貴族のそれを思わせる気品に溢れていた。

 少年とは明らかに不釣り合いだ。それとも少女はイケメンならば誰でも良いのか。


 案の定、少女と少年は他の冒険者ギルドの連中に絡まれていた。

 オージーは興味を持って彼女たちを見守った。


 危なくなったら助けてやってもいい。


 彼女たちを取り囲むザコどもは冒険者としても底辺の連中だ。

 ザコとはいえそれなりにレベルは高いが、ガキ2人連れて逃走するくらいは余裕だろう。


(さて、新人くん。この荒波をどうするかね?)


 様子を守るオージーだが、そこからは怒涛の展開だった。

 少女は名前を名乗ると、ギルド職員のカウンターに向かい、なにやら職員と交渉を始めたのだ。


 スキルでその言葉は丸聞こえであるオージーは、清掃などという不穏な言葉をきき、少女が左手を振り上げえたことで思わず腰を浮かした。


「これだからお貴族さまはよ――」


 あれは上級者が魔法を使うときの予備動作だ――


 オージーは止めに入ろうと思わず駆けだす。

 こんな場所で攻撃魔法を放ち、冒険者を冒険者ギルドごと吹き飛ばそうというのか。


(ばかな、あんな子供が無詠唱スキルだと!?)


 普通であれば十分間に合うはずであるが、しかし術式は一瞬で発動してしまう。

 思わず身構えるオージーは、魔法抵抗を上げてその攻撃に耐えようとするが、それはまったく無意味に終わった。


 まったくダメージがない。


 それどころか、身体が軽く感じる。

 一気に酔いが冷めたかのようだ。実際冷めた。


 止めに入ろうとしたため、オージーはイージンと名乗る少年のすぐそばまで駆け走っていた。そのイージンと目が合う。


 とりあえず、挨拶しておいた。


「やぁ」


「どうも」


 そして、オージーは魔法を放ったシーナ・ヤーマと名乗るお貴族様らしい少女に詰め寄った。

 その形相に取り囲んでいた冒険者たちが後ずさる。


「おぃ! お前! シーナとかいったな!」


「はい。なんでしょう?」


「クリーンナップ系とはいえ、いきなり術式ぶっぱなつな! 攻撃魔法かと思って止めに入っちまったじゃねーか!?」


「――間に合ってないようですが?」


「そうやって煽るな! 本来なら俺はその右手捻ってぶん投げる気だった!」


「はぁ。そうですか……」


「いまから投げようか?」


「やめてください。今度こそ攻撃魔法放ちますよ?」


「だからやめろって言ってるだろうが!?」


 大声で叫ぶオージーの声はギルド全体に響く。

 そんな勢いに乗じて、周りのザコの冒険者たちが、再び勢いづいた。


「おうおぅ、ねえちゃんどうしてくれるんだ」


「ギルド内で攻撃魔法はご法度なんだぜ」


「酔いが覚めちまったじゃねぇか。こっちくて酌してくれよな酌!」


「その後はしっぽり。うへへ……」


 にじり寄る冒険者たち。その男たちは全身がきれいで装備までツルツルしていた。

 そのぬるぬるとした動きさえなければカッコいいかもしれない。


 ちなみに冒険者ギルド内では攻撃魔法は禁止されているが、治癒魔法や清掃系魔法については禁止されていない。

 こんなに広範囲に清掃系魔法を放ち、男たちの汚れまで落とすような魔法は前代未聞ではあるが。


「お前らもやめんかぁ! こんなガキども相手になにやってんだ!]


 それに対してオージーは大声で制止した。


[だってよぉ、旦那ぁ」


「死にたいのかお前ら。今のを見て実力差が分からねぇなら、この少女の代わりに今すぐ俺がお前らをコロシテやる」


「ひぃ……。だけどこいつら……」


「第一、こいつらは依頼されてここを清掃したに過ぎないのだ。綺麗になって良かったじゃねーか。ああん?」


「依頼されてって、その女が首謀者じゃねーかっ」


「はぁん? 話を聞いてなかったのか。冒険者ギルドに対する『匿名』の依頼だぞ。依頼した主の名前は秘匿されている。冒険者ギルドじゃギルド民全員がそれに拘束されるんだ」


「はぁぁー。なんだそりゃ!」


 ザコの冒険者たちは憤慨するが、冒険者ギルドの職員はそれを聞いてシーナの意図を理解した。


「おぃ、ギル! ギルド職員だからギルドの規則にゃ詳しいだろ。『匿名』依頼の場合、依頼主をばらそうというやつはどうなる?」


 ギルと呼ばれた冒険者ギルドの職員は、メガネをクィっとさせながら答えた。


「そのような不心得な人に対しては、冒険者ギルドとしてはペナルティを与えねばなりませんな。例えば降格――、最悪は冒険者ギルド員の免許はく奪でしょうか――」


「分かった、もうぃぃ――」


「覚えていやがれ――」


 ザコの冒険者たちは捨て台詞を放つと冒険者ギルドから立ち去っていく。

 それを遠目で眺めていた周囲の冒険者たちが、ヒューと口笛を吹いた。


「あぁ、アメジストの冒険者ギルドへようこそ。新人君たち、君たちを少なくとも俺は歓迎するよ――」


 こうしてシーナたちは一波乱あった冒険者ギルドではあったが、なんとか事を収めることができたのた。

 冒険者ギルドがまた一つ、綺麗になった――

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