冒険者ギルドで絡まれる
とりあえず、黒剣は作ってもらうことにして、レンタルで普通のロングソードを手にした剣士イージンは、ようやくドンちゃんという女のドワーフから解放された。
ドンちゃん。名前からして鉱業ギルドのドンである。
ドンちゃんという名前からして、女性である。
女性のドワーフというのは、大抵において身長が低く、人間でいえばロリ体形であった。でもって成人だ。
シーナよりも身長が低いのだからロリ巨乳の名を欲しいままとすることだろう。
当然ドワーフからも大人気である。
ドンちゃんは剣士として名乗るイージンをしげしげと眺めると、肉付きやら何やらを試すためとべたべたとお触りし始めた。
「あぁ、若くてイケメンの剣士――、ええのぉ~、ええのぉ~」
欲望むき出しのドンちゃんに、イージンはどん引きしながらもなんとか耐えきり、黒剣を入手する算段を釣りつけることができたのだった。
そんな感じで、今手にしているのは普通のロングソードである。
黒剣を入手するまでのレンタル品だ。
腰に差すそれはある程度重いが、ようやく剣士になれたのだとイージンは満足げだ。
いわゆるドヤ顔である。
例えドヤ顔であっても、主人公補正スキルのイージンはかなりのイケメンだ。
まるで鈴蘭の花のような華やかさがある。
さて、そんな清楚な雰囲気を持ったイケメンの剣士が、シーナのような美しい花を連れて冒険者ギルドに入ったらどうなることだろう。
答えは、「当然絡まれる」だ。
「おうおぅ兄ちゃん、見ない顔だなぁ」
「昼まっから女づれかよ。いいご身分だよなぁ」
「おぉー。この娘かわぃぃーー」
「ひゅー。ひゅー」
いけすかない男どもがイージンに集る。
その背後にいたシーナも巻き込まれた。
集ってくる男たちの身なりはかなり汚い。
村人から見て冒険者といえばかっこいいイメージであるが、街の冒険者ギルドにたむろする冒険者などはそこらのゴロツキと大して変わりがないのだ。
いや、戦闘能力が高い分だけ余計に質が悪いとも言えた。
酒の臭いが辺りに漂う。
「どうもこのたび成人しまして、剣士のクラスを拝命しましたイージンと言います」
そんな男たちに対して、これは洗礼だな、と感じつつイージンは普通の受け答えをした。
きらーん☆
芸能人ではないが、イージンの綺麗な八重歯が光る。イージンはイケメンなのだ。
それは汚らしい冒険者と違い、清々しく、眩しい。
「こんにちは。錬金術師のシーナ・ヤーマ・コーフです!」
そんなイージンの腕を取り、小悪魔風な表情でシーナははきはきとした声を出す。
その恰好は薄いシアン色のキャミソールだ。
実に可愛らしいことこの上ない。
(シーナ。ここで煽りを入れるなよ)
(いいじゃない。最初が何事も肝心よ)
ひそひそと話し合うシーナとイージンであるが、周囲から見たらいちゃいちゃしているようにしか見えない。
しーん。
いちゃこらするシーナ達に、冒険者たちは思わずイラっと来てしまう。
売り言葉に買い言葉だ。
「おぃこら、聞いてんのか!」
「お子様が来るような場所じゃねーんだぞここは!」
冒険者の一人が掴みかかろうとするが、ここは冒険者ギルドである。
このようなことは日常ではよくあることであり、そして、冒険者ギルドの職員が大声で止めるのもよくあることだった。
「やめなさい! そんなお子様によってたかって何しているの! ギルド内では揉め事は禁止よ!」
そこで、冒険者の男は手を引っ込めるが、シーナはさらに煽りを入れるのだった。
「アメジストの冒険者ギルドってこの程度なのね――、ガッカリだわ」
「なんだと、このあまぁー」
冒険者の男が怒りの声をあげるのを無視し、シーナは先ほど制止をした受付の職員のいるカウンターまでいくと、胸元から金貨2枚とカードを1枚を取り出した。
そのカードを見て思わず職員は目を見張る。
こんな年若い女が、商業ギルドの最高峰地位だと――
カードの色は黒。
正真正銘の商業ギルドのブラックカードある。
「この子はイージンというのだけれど、この子のパーティが冒険者ギルド員になったら、指名依頼をしたいのだけれど、よろしいかしら?」
「はぁ……」
職員はただ美しい少女シーナに見ほれるかのように呆けた顔つきで答えるのみ
金貨はその報酬で、カードは――彼女の信用を示すものと言いたいのだろう。
カードに記載された文字を見て、職員は思わずシーナを2度見してしまう。
そこにはカンストを示すレベル110の記載があったのだ。
「失敗しても違約金はなし。期間は1か月。あぁ、依頼人は秘匿でお願いするわ」
「なるほど、依頼人は秘匿ですか……」
この少女は何を言っているのだろうか。
目の前に指名依頼をされるがわの少年がおり、周りには冒険者たちが複数いる。
秘匿もなにもあったものではないではないか。
こんな一触即発の状況で、シーナが何を言い出すのか、カードに記載された内容と共に、職員は興味を持った。
「えぇ、極めて秘匿でお願いします。内容は、この冒険者ギルドの清掃よ――」
「それはそれは、実に冒険者になりたてのビギナーの仕事ではありますね。冒険者ギルドとしても喜ばしいことです」
清掃――
その響きが粛清という意味に聞こえた冒険者たちが色めきたつ。
その多くの者がいったん体を引くと身構えた。
シーナたちを取り囲んでない冒険者も、一瞬腰をあげる。
様子見している冒険者たちは、取り囲むザコの冒険者たちとは違い、それなりに腕が経つ。
その中に、オージーという名前の一人の野武士がいた。
(こいつら、この人数を相手に戦う気なのか?)
一瞬冒険者の排除に乗り出すのかと思った職員だが、違うだろうと被りを脱ぐ。
なにやら凄みのあるシーナはともかく、まだ剣士に成りたてでレベル1であろうイージンと名乗る少年は相当のイケメンではあるだろうが弱弱しく見える。
「えぇ、そうでしょう? 楽しい清掃よ」
「報酬は金貨1枚でよろしいでしょうか」
「イージン、それでいいよね?」
「何を始める気かは知らないが、シーナがやるならどこまでも付き合うよ」
イージンはどことなくきらきらした目をシーナに向けた。そしてウィンク。
シーナは、頷くとショートカットのF1に設定したボタンをクリックする。
「冒険者とは、冒険をする人々から憧れの存在――。それなのにこんなに汚いだなんて、わたしは見過ごせないわ――。さぁ行くわよ――」
シーナは広い範囲スキルをその場所に仕掛けた。
「《浄化》!
冒険者ギルドは白い光に包まれ、そして――