第76話 コウタの処遇
お待たせしました。
「さて、この愚か者をご主人様はどうしますか? 私は処断すべきと考えますが」
コウタを見たアヤメは、剣呑な顔付きで俺に進言する。俺もコウタを雇う気はない。神眼で見てみれば、手元に置くのは危険極まりないからな。
『コウタ。ファルディス家に仕える両親の下に産まれた。金と女に目が無く、ありとあらゆる手段を使って手に入れようとする。現在はロウ=ファルディスの側近。神様コメント。金に汚いから裏切り易いよ~~。もうユイちゃんに執着してないから安心してね。女囲いまくりだし』
アルゼナさん、なんつうコメントだよ。だが、金に汚いか。上手くしたら使えるかも知れないな。俺はコウタに優しく尋ねる。
「なあ、コウタよ。君が仕えるロウ様は、現在リーキッド候爵家に捕らわれている。なんでも関所で剣を抜いて突破しようとしたらしい。さて、そんな事を仕出かした孫をマルシアス様が次期当主として認めると思うか?」
「な、なんだと! いや、嘘を言ってるんじゃないか? ロウ様にはケビンが付いている。下手な事は‥‥」
「あいにくだが、ユウキの言っている事は事実だ。ロウとルーにケビン達も捕まっている。リーキッド候爵家の我が言っているんだ、間違いない」
俺とネリスの言葉を聞き、呆然とするコウタ。しばらくすると、乱雑に髪をかきむしりだした。イライラした時の癖は前世と変わらないのか。まあ、分からなくもない。これで次期当主の側近の座が失われたからな。下手したら一生不遇になりかねないし。
「あのすかした坊っちゃんがああ!! 何が『自分に任せて安心して待っているが良い』だよ! くそ、早くファルディス家からはおさらばしねえと。マルシアスの爺が当主に戻ったら、女に使い込んだ金を横領したのがばれちまう」
‥‥こいつ、ナチュラルに横領してやがった。ふむ、普通だったら突き出すが、コウタを逃した方がロウ様にダメージを与えられそうだな。そもそも、アイラ暗殺を企てたのが彼だという証拠は無いし。コウタ等の取り巻き連中の仕業という可能性もある。
「コウタ、取引をしようじゃないか。君は帝都から速やかに離れるんだ。俺は君の横領を告発し、ロウ様を追い込む。代わりに幾ばくかの逃走資金と俺は追手を出さないと約束しよう。断ってくれても構わないぞ。その時はマルシアス様の御前に突き出すだけだ」
俺の提案を聞いて、しばらく考えていたコウタ。頭を右手でかきむしりながらも提案を受け入れる。どうやら、何とか上手くいきそうだ。
「‥‥ちっ、分かったよ。不死鳥の言うとおり帝都を離れる。命あっての物種だからな。あーーあ、折角美味しい地位に近づけたと思ったのによ」
ふて腐れるコウタを横目に見て、クイナさんに向かって黙ったまま首を縦に動かす。了承してくれたのか、彼女は牢屋の鍵を開けた。コウタは嬉しそうに鉄格子の外へ出てくる。
「これで俺は自由の身だな。不死鳥さんよ、約束通り金をくれ」
「ああ、金貨10枚ある。さっさと持っていくが良い。早くしないと君が俺達に捕まった事がばれるぞ。口封じで消されても構わないなら、無理に急がなくてもいいが」
俺は腰に下げた袋から財布を取り出し、金貨10枚を渡す。今月分の貴族俸給だ、もってけ泥棒!
「分かってるよ、善は急げってね。じゃあな、不死鳥! せいぜい頑張りやがれよ。ハーレム羨ましすぎだぜ、ちくしょうが!」
そう言い残し、コウタは足早に階段を駆け上がって去っていった。逃げ足は相変わらずの早さだな。さすが、マヤのお仕置きから1人逃げ延びた男だ。まあ、後で更にきついお仕置きを食らったらしいが。
「ほう、なかなかの策士だな。これでロウは困った事になろう。自分の側近が、あろうことか横領して逐電したのだからな。我は評価するぞ、ユウキよ」
「ご主人様、よろしいのですか? 後々災いにならなければ良いのですが」
2人の意見は分かれたな。ネリスの言うとおりの狙いだが、アヤメの懸念も分かる。だから安心させるとしよう。
「アヤメ、心配しなくて良い。俺は追手を出さないと言ったが、マルシアス様は確実に出すだろう。つまり、コウタはいずれ殺されるのが目に見えている」
助かったと思ったら大間違いだ。今は利用させてもらうが、いずれ報いは受けさせるからな。そんな俺を見てクイナさんは笑みを浮かべていた。
「さすが、ユウキさんです。すっかり、異世界に順応なさって何よりですわ。中には前世の法律等に縛られて、死んでいく方々もいますので。何も出来ない善人が生きられる程、この世は甘くはありませんからね」
「世知辛い世の中だよな。クイナさん、コウタを捕らえてくれて感謝する。お礼として金貨を‥‥2枚寄付致します。手持ちがもう無くなってしまいましたので、いずれまた寄付を行います」
ちなみに、その2枚はアルゼナの貯金箱から出てきたものだ。早速使わせてもらうぞ。報償金とか貰ったら改めて寄付をしよう。
「そこまでせずとも構いませんわ。その代わり、ミューズとミズキをよろしくお願いしますね。2人とも、ユウキ様が最近構ってくれないと不満を申しておりましたから」
「‥‥お母様、そんな事を言わないで下さい。恥ずかしいですから」
あれ? ミズキの口調が変わったな。言葉も視線も穏やかになっているし。まさかと思うが。
「もしかして、ミューズさんか? 話すのは随分と久しぶりだ。大丈夫だったかい?」
「そうですよ。アルゼナ様の力が強く得られる教会に戻った事で、私も表に出られるようになりました。ミズキは彼を殺そうとしていましたから、慌てて出てきましたよ。いつの間にか、ご主人様の周りは強い女性が増えましたか。‥‥ミズキともども油断が出来ませんね」
ミズキとは違う静かな闘志、間違いなくミューズさんだ。怖さもあるが嬉しさもあるな。そう思っていると、クイナさんがミューズさんを優しく撫でる。
「ミューズ、そしてミズキ。ユウキ様の力におなりなさいね。ですが、まだ謹慎中ですから教会で仕事を頑張りなさい。ユウキ様、敵を追い詰めるならばログレス修道院にいる彼女を使うと良いですよ。ウフフ、若くお盛んな修道女は醜聞が多いでしょうからね」
‥‥おい、それってリアの事だよね。あいつ、修道院で何をしてやがるんだ? 醜聞となると男女のあれしかないよな。クイナさん、アルゼナと話が出来てそうだ。情報目当てに、教会に来るのも悪くないかも知れん。お金要りそうだけど。
「それは良い情報を得ましたね。私の力で操るのは容易そうです。ログレス修道院はラーナ神の管轄でしたね。ネリスさん、ラーナ神と連絡取れますか?」
「たぶん、ラーナ神の加護を持つ我が居れば入れると思う。しかし、リアか。あの女にあまり関わりたくないんだがな。我の親戚が金を根こそぎ奪われて捨てられた結果、修道士になってしまったからな。優秀な男だったのに残念でならん」
自分の事じゃないけれど、居たたまれないのは何故だ! リーキッド候爵家に連なる家にまで迷惑かけてんじゃないよ、リア。こうなったら、この際だ。出せる膿は全部出すとしよう。ファルディス家を強くする事に繋がれば、俺達の行いを世の中が認めてくれるはずだ。
「よし、次の目標はリアだ。アイラに、ロウ様の側近による横領疑いありと報告。そのまま、俺達はログレス修道院に向かうぞ。リアの醜聞を暴いて、ロウ様達を更に追い込む」
次回、ユウキ達がログレス修道院へ。




