第71話 リーザとレイ暴走
お待たせしました。
マルシアス様の許可とマヤの命令を受けた俺とアヤメは騎士団が駐留するワトカ村へとテレポートで移動した。相変わらず、日本庭園は懐かしく感じるなあ。
「よし、テレポート完了だな。日本庭園には誰もいないか。まずは‥‥」
「おやあ、誰かと思えばユウキではないか? 随分と早いご帰還じゃのう。妾が恋しかったかの」
声のする方を見れば、レイが屋敷の縁側に寝転んでくつろいでいた。近くには側仕えの侍女さんがいるが、主の行儀の悪さを諦めた顔で見ているだけ。
あのお、レイさん。シャツの隙間から豊かな胸が見えそうなんですけど。そして、スカートをめくるな!! 赤の下着が見えてる。少しは恥じらいをもってくれ!!
「ほほう、妾の体に興味がおあり? マヤ達もおらぬし、ここは悩殺‥‥ひっ!」
アヤメが剣を向けるや、慌てて身繕いをするレイ。そういえば、前世でも俺にちょっかいをかけてきたな。皆がいる前で抱きついてきたり、お手伝いさんに作ってもらった弁当持ってきて一緒に食べようとしたり。何度も真顔になったマヤとユイに締められてるのに懲りない奴だ。
「レイ様、ご主人様を誘惑しないで下さい。それよりもレイ様がここにいるとは好都合です。大切なお話がありますので」
「やれやれ、アヤメは相変わらず怖いのう。んで、話とはなんじゃ?」
俺はファルディス家の内情と盗賊ギルドで聞いた情報をレイに話す。怒りの表情を浮かべたレイは少し考えた後、侍女を招き寄せる。
「父上に伝令を出してくれ。内容は、『ファルディス家の馬鹿息子が反乱分子として領内に潜伏している。よって、近衛騎士団と妾が共同で討伐するので承諾されたし』とな。ユウキ達はこっちじゃ、付いて参れ」
「かしこまりました、お嬢様」
レイの命令に侍女が一礼して下がっていく。縁側から起き上がったレイは、そのまま領主館の方へと向かう。彼女に付いていくと領主館の隣にある練兵場に入っていったので、俺達も入っていく。そこで見た光景は‥‥。
「‥‥だ、団長。もう駄目です、限界ですう!」
「泣き言を言うな! それでも栄えある近衛騎士か!! 我々はマヤ様の為にいついかなる時でも馳せ参じなければならない。だが、力なくして敵を倒す事は出来ん。この程度の訓練で音をあげるな!」
「ぐはっ!」
リーザの大剣で弾き飛ばされる騎士のおっさん。よく見れば、騎士達が練兵場のあちこちで倒れ込んでいた。リーザさん、下手したら訓練で死んじゃうんじゃないかな?
「おい、リーザ。もう少し加減した方が良いと思うが。戦う前に騎士達が潰れそうじゃぞ? それとも何か。ユウキに会えないストレス発散かの?」
おい、レイさん。からかうのは止めなさい。リーザみたいな真面目なタイプは、煽り耐性が低いから。案の定、リーザの顔が真っ赤になっている。
「な、な、何を言ってるんですか!? そ、そんな事はありませんよ? 一緒に帝都に行きたかったとか、デートしたいなとか。あわよくばキス‥‥えっ?」
リーザさん、欲望が駄々漏れです。確かに彼女とも約束していたしな。そういう意味じゃ、申し訳ない事をした。よし、約束を守ると改めて言おう。
「うん、リーザ。帝都に連れて行けなくてごめん。でも、帝都には必ず連れて行くからさ。その時は一緒にデートをしような!」
「ゆ、ユウキ? え、なんで、どうしているの? は、恥ずかしいいい!!」
俺に気付いたリーザは、顔を真っ赤にしたまま練兵場から全力疾走で逃げ出した。あっ、マヤからの命令書を渡せなかったな。どうしたものか。そうだ、クレスがいたな。疲れてる所悪いがすまない、へばって座り込んでるのに。
「近衛騎士団副団長! 皇女殿下より命令である。『ユウキ達と協力し、ファルディス家の不穏分子を撃滅せよ!』との事だ。詳細は命令書に書いてある。2時間休憩してから出陣したい。行けるか?」
「‥‥はあ、はあ。はい、何とか行けますよ。団長の地獄の訓練よりは、大分ましでしょうから。全員、すぐに休憩しろ。回復魔法や薬も使って構わない。2時間以内で食事と仮眠をとるんだ。騎士団の初陣だ、気合いを入れろ!」
「「「「はっ、かしこまりました!!」」」」
何とか立ち上がったクレスの命令に、騎士団の団員達が笑顔で動き出す。初陣の喜びと訓練解放からの安堵からの表情だろう。騎士団員達が去った後、いきなりレイが抱きついてきた。
「‥‥先生、リーザをすっかり骨抜きにしおって。なあなあ、妾も良いじゃろう? ピチピチの17歳じゃし、マヤやユイと違って夜の逢瀬も問題無‥‥あだっ!?」
「レイ様、今度やったら剣を抜きますよ? とはいえ、レイ様もご主人様の事を好きみたいですね。理由を聞いても?」
アヤメさん。一応、レイは公爵令嬢だから鞘で頭をぶっ叩くのは止めてあげて下さい。ううむ、レイが俺の事を好きか。でも、あまり接点が無かったんだがな。俺が受け持ったのは高校3年だけだったのに。最初は、レイの積極的な行動に面食らったものだ。
「理由か? 中学生の頃に妾が助けてもらったからじゃよ。許嫁とデートしておったが、不良に絡まれての。許嫁は妾を置いて逃走。人気の無いところに連れてかれ、もう駄目かと思った。そこにユウキがやってきてな。奴等を追い払ってくれたのじゃ」
「‥‥あっ、思い出した。不良に河川敷の橋下へ連れてかれた中学生を助けた事があった。レイがあの娘だったんだな」
あと少し遅かったら、ひどい目にあっていただろう。俺は即座に警察に通報。取っ組み合いの末、不良達は全員捕まった。あの後、事情聴取やら色々あって忙しかったな。結局、中学生とは会えず仕舞いだったがご両親がお礼に来たっけ。
「お礼を言いたいと思っていたが、対人恐怖症になった妾は家から出れなくなった。まあ、何とか克服して中学を卒業出来たがな。貴聖学園の入学式でユウキを見た時は嬉しかった。‥‥まあ、すぐに絶望したがの」
じと目でにらんでくるレイ。当時の俺は婚約者がいたからな。親しいユイとマヤの告白も断っていたんだ。レイも無理筋だと思ってたんだろう。‥‥あの時の俺は幸せだったなあ。しばらくして地獄に落ちたけど。
「しばらくして先生は休職。ユウキの婚約者が妾の担任だったんじゃが、行方不明になるし。原因が分かって驚きと怒りがあった。そして、チャンスじゃとも思ったよ。ようやく妾が隣に行けると思って行動したら、怖すぎる夜叉が2人もおったがの」
「ああ、マヤ様とユイさんですか。ですが、よく諦めなかったですね。あの2人相手は並の人間では勝てなさそうですが?」
前世の2人はハイスペックだったからな。マヤは美人で頭脳明晰の才女だったし、ユイは男子生徒はもとより女子生徒からの人気が高かった。‥‥バレンタインの時にチョコレート大量にもらったからって、俺の所に持ってくるのは止めて欲しかったが。
「ま、まあマヤは美人で、ユイはかっこ良かったからの。妾が勝てる所は家柄だけじゃったし。なあ、ユウキ。父上の許可も取ってある。こんな妾でも貰ってくれぬか?」
ちょっと待て、父上ってエアリアル公爵の事だよな。涙目見せてるが許可取ったって事は、これって決定事項じゃないか? 確かレイの祖母がバージニル皇帝家出身だった気がする。これって、まさか‥‥。アヤメが俺の推測を読んだかのようにうなずく。
「ご主人様、どうやらエアリアル公爵にしてやられましたね。おそらく皇帝陛下もこの件をご承知のはずです。たぶん、ご主人様の事を利用出来ると踏んだのでしょう」
確かにアヤメの言うとおり、エアリアル公爵俺に利用価値を認めたのだろう。だが、妙なのだ。エアリアル公爵家は旧ナルム王国内では名門中の名門。俺は男爵になったばかりだ。釣り合いが取れないと反対意見が多く出るはず。なのに認められたという事は‥‥。
「おい、レイさん。泣き真似は止めい。エアリアル公爵家当主をお得意の闇魔法で操ったな? 俺との結婚、しかも側室でなんて認めないはずだ」
「くっくっく、さすがは先生じゃな。そうじゃよ、妾が公爵家全員を魔法で操らせてもらった。反対する愚か者が多くてのう。前世の二の舞はごめんじゃ。祖母を通じて皇帝陛下にも許可をもらったのだ。せっかく先生を夫に出来るチャンス、逃す道理はあるまい?」
今まで見せた事の無い邪悪な笑みを浮かべるレイ。なんか黒い妖気まで体から出てきてるんですけど! もう俺は逃げられなくないか? と思ったら、巻物からチャイムが聞こえてきた。恐る恐る開けてみると‥‥。
『‥‥残念だが、レイ=エアリアルからは逃げられぬ。どうも、新しく邪神に就任したボルガです。ラーナが君の下に女性を送るなら、俺も送りこむぞ。なあに、彼女が君を裏切る事は無い。ただ、こちらにも色々と便宜をはかってくれ。では、良き逢瀬を楽しむが良い。グッドラック!」
なに、このフランクな文面。本当にあのイケメン邪神が書いたのか? やべえ、ますます断れないやんけ。たぶん、マヤ達も知らされてないだろうな。知ったらまた怒り狂いそう。
「‥‥どう説明したものか。うっ、ストレスで胃が痛くなってきたんだが!!」
「ボルガ様も動きが早い。どうやらエアリアル公爵ではなく、ボルガ様が利用価値を見出だしたようです。ご主人様、断れる縁談ではありません。これは受けるしかないようですね‥‥はあ」
「あれ、皆どこに行きました? まだ訓練の途中ですのに。ユウキにアヤメ、何を困っているのです? よ、良ければ相談に乗りますよ」
ようやく戻ってきたリーザさんは、少し顔を赤くしながらも心配そうに尋ねてくる。その優しさが心に染みるなあ。対してレイさんは満面の笑みを浮かべて俺にしなだれかかる。
「リーザ、妾もユウキの妻になるのじゃ。よろしく頼むぞ!」
「はい? ‥‥‥‥ええっ、一体全体なんでそうなるんですか!? レイ説明しなさい、ていうかしろおお!!」
次回、ルー外伝。ロウ達はリーキッド領に着いたが‥‥。




