第70話 ラングの居場所
お待たせしました。
「ユイも大した胆力を持っていやがる。ゴールの兄貴の娘たるアヤメと言い、ユウキ。お前は帝都でも指折りの戦力を持ってるんだな」
何とか事を収めた俺達は、ニムザさんの部屋に移って話を続けていた。部屋の中は、派手ではないが重厚な作りをした調度品が置かれているだけ。質実剛健のニムザさんらしい。
今、俺の側にいるのはユイとセシルさん。ニムザさんの隣には、副ギルドマスターたるドックさんが控えていた。彼が話をしているのを見たことが無いんだよな。ただ無口だが腕は確かで、ニムザさんの懐刀と言われている人物だ。
ちなみにアヤメは、年配の親分方に引き留められて酒場で話をしている。涙を流しながら、懐かしそうに話をする人が多いのを見ると、アヤメはリオさんにかなり似ているんだろうな。
「やはり、アヤメの素性を知ってるんですね。ニムザさんはゴールさんとはどのような関係なんですか?」
「俺とゴールの兄貴は、まだ彼が貧民街にいた頃からの昔馴染みだ。舎弟たるマルシアスにリオを託した兄貴と一緒に大陸を巡ったりもした。リオの病気を治せそうな物や人物を片っ端から探してたからな。おかげで盗賊ギルドに入った時は重宝されたぜ」
ニムザさんは、ゴールさんとの旅を終えると帝都に残って盗賊ギルドに入ったらしい。大陸中に様々な分野の知己を持った彼は、何年かでギルドの幹部にまで登りつめた。傭兵団を作ったゴールさんとは道は別れたものの、今でも交流があるらしい。
「兄貴から『腹の立つ事だが、娘が男と一緒に帝都に行く。何かあったらよろしく頼む』と頼まれているぜ。しかし、ユウキだと知った時は驚いた。皇女殿下とマルシアスの娘、ブレスク伯爵の庶子にビリナム男爵の娘に加えてのアヤメだからな。‥‥お前、巷じゃ命知らずの魔法使いとか言われてるぞ。よく誰からも刺されねえよな」
うん、自覚は充分にあります。女性陣全員が、戦争にならない程度に対立を抑えてくれているからな。俺の甲斐性だの、手綱さばきが見事とか世間で言われてるが、正直恥ずかしい。実際は彼女達の度量に救われてるんだからな。
「ニムザさん、そこは女性陣が折り合いをつけてますから。私とアイラ、リーザさんが中心になって女性達の秩序を守ってる。そこでアヤメも手伝ってくれるから、今の所は暴走しないんだよ。‥‥マヤとミズキさんは、もう少し自重して欲しいな」
ユイの言うとおりですね。6人中、4人が自分を律してくれてるからトラブルが少ないんだ。問題が片付いて、全員揃ったら色々としてあげないとな。食事に買い物、観劇とかに誘ってみるか。
「女の私から見ても、よく纏まってると思うね。ユウキ、これからも感謝を忘れるんじゃないよ。そう言えば、聖国の連中ともやり合ったんだって? あんたを拉致した聖女を倒したそうじゃないか。くっくっく、頭の硬い連中が苦悩する様は傑作だね!」
歓楽街を聖職者連中が嫌っているからか、セシルさんは極めて嬉しそうだ。‥‥あいつら、こそこそ隠れて利用してる輩もいるのに非難するなんてどの口が言うのやら。偉い人によるダブルスタンダードは世の常だよなあ。
「あれは疲れましたよ。聖女は絶対に結婚したくない類いの女性でしたし。しかも、ラーナ様から新しい女性を宛がわれましたからね。まだ会っていませんが、帝都にいるみたいです」
「まだ増えるのか! 神様案件じゃあ仕方ねえがな。ユウキ、そのうち男連中にも刺されかねんぞ。まあ、嬢ちゃん達に返り討ちにあいそうだがな。はっはっは!」
‥‥自覚はあるな。最初は男連中が怖い目で見ていたり、殺気を垂れ流したりしていた。だが、しばらくすると全員が俺から逃げ出すんだよ。たぶん、女性陣によるお話があったんだろうなあ。内容は想像するだけで怖すぎる。
「そこも興味があるけれど、本題に入ろうかね。ユウキ、馬鹿ラングの居場所が分かったよ。帝国と旧ナルム王国国境付近にある廃城だ。もともとはエアリアル公爵家の城だったが、老朽化が原因で放棄されて久しい。あんたはエアリアル公爵家とも関係があるし、すぐに行けるんじゃないかい?」
「ユウキ兄ちゃん。レイに話を通せば領内に入れるかも。あとワトカ村に待機しているマヤの近衛騎士団動かせない? マヤとしても、ファルディス家の問題は素早く解決したいだろうし。‥‥マヤの仕事を邪魔すると後が怖いからね」
セシルさんが地図を出して、ラングの居場所を指し示す。あの馬鹿、エアリアル公爵家領内に潜伏してやがったか。レイはああいう手合は嫌いそうだし、話は通しやすそうだな。それと、ユイさん。よく分かっていますとも。
文化祭とかの手伝いを一切せず、ただ遊び呆けていた奴等を鉄拳制裁しましたからね。しかも全員壁際に並ばせて無言で。俺も注意はしていたが、耳を貸さなかった連中だったからな。それ以降、クラス全員が必死に手伝い始めたのを覚えている。もちろん、やり過ぎだから後でマヤを叱ったけど。
「ファルディス家の問題に皇女殿下の騎士団を使う気か!? ‥‥ああ、そうだった。皇女殿下の劇団に関係があるものな。マヤ様は劇団関係の邪魔をする奴を容赦なく叩き潰す事で有名だ。俺達も妙な因縁はつけないで、交渉して利益を得ているし」
「ニムザ、それが正解だね。劇団が絡んだマヤ様は、ユウキが絡んだ時と同じくらいに怖い。ユウキ、馬鹿ラングは廃城に元ナルム王国騎士団の連中と一緒に隠れている。ロウはそこに向かっているが、テレポートが使えるあんたらの方が早く着くだろう。獲物を奪いたかったら、すぐに動くんだね」
確かにワトカ村からなら、ラングのいる場所まで1日で着くな。ロウ様が帝都を出て廃城に着くまで3日はかかる。しかも、エアリアル公爵家から通行許可を得るのにも時間がかかりそうだ。ならば、こちらに勝機はある
「ニムザさん、セシルさん。今回はありがとうございます。必ずやラングを討ち取り、ファルディス家を俺達のものにしますよ。これからもよろしくお願いします」
「期待して待ってるぜ、ユウキ。ロウも優秀だが、乱世を生き抜く才は無さそうだからな。これからは大陸もきな臭くなる一方だ。その時、ファルディス家をお前が掌握していれば、時流に乗り遅れる事はあるまい。しっかりやれよ!!」
「ユウキ、ラングの件で終わりじゃないよ? あんたはこれからナージャ達とも戦う事になる。アイラに常に護衛をつけとくんだね。権力が絡むと人は鬼にも悪魔にもなれる。妹だからって、反旗を翻す旗頭を潰すのを躊躇する女じゃない。気合いをいれな!!」
ニムザさんとセシルさんの忠告に俺はうなずく。アイラに何かあったら、俺達は終わる。信頼出来る護衛となれば、1人しかいないな。そう思った俺は隣にいるユイを見つめる。ユイも気付いたようで、力強くうなずく。
「ユウキ兄ちゃん、アイラは任せて! 大切な親友を失う訳にはいかないからね。その代わりラングは任せるよ。リーザとアヤメを連れて行けば、余程の事が無い限り対応出来るだろうし。私は護衛と‥‥勉強頑張るよ」
勉強を嫌そうに言うユイを見て、少し笑ってしまった。ジェンナ様は、これ幸いとユイに教え込みそうだもんな。さて、そうと決まればマルシアス様に許可をもらいにいこう。しかし、貧民街の少年がファルディス家を乗っ取りか。随分とスケールの大きな話になったもんだ。
次回、近衛騎士団出陣!




