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転生しても受難の日々  作者: 流星明
山積する諸問題を解決せよ
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第68話 セシルの昔語り

お待たせしました。

「ここがアヤメ。あんたの叔母にあたるリオの墓だよ。普段は変な奴が入って来ないように鍵がかかってるんだ。生きてたら、年は私より少し下だったね」


俺達がセシルさんに案内されたのは、墓地の1番奥にあった石造りの建物の中だった。ふと、盗賊ギルドのギルドマスターや貧民街を治める親分達に言われていた事を思い出す。


『墓地の奥にある建物に勝手に入ったら、言い訳も聞かずに容赦なく殺す。‥‥お前ら、命が惜しかったら入るんじゃねえぞ!』


そうか、傭兵王の妹さんの墓があったから皆が守っていたんだな。しかし、随分と豪華な墓というか、何というか。墓石は大理石だし、隣の慰霊碑に書いてある人の名前がヤバすぎる。裏社会の大物やマルシアス様等の名士、軍関係の重鎮とかが書いてあるんだからな。


「すごいな、叔母さんの墓は。セシルさん、叔母さんはどんな方だったんですか? 両親は彼女の事を教えてくれませんでしたから」


「そうだね。病弱で家に籠りがちだったけれど、明るく社交的な娘だったね。あのゴールを正面から叱ったり、なだめたり出来るのは彼女だけだった。帝都の貧民街で暴れまわってたあいつのブレーキ役として大活躍したっけ」


えっ? あのゴールさんを止められたの! ローゼリエ様以外にもいたんだな、そんな人が。しかし、やはり貧民街では有名人だったか。俺達若い世代が知らないだけで、彼の関係者は多いんだろう。


「でもね、リオが15歳になった頃に病状が悪化した。ゴールは必死になって治療法を探したんだ。帝国はもとより大陸諸国を巡ってね。留守中のリオの看病を頼んでいたのが、アイラ。あんたの父親だよ」


「わ、私のお父様が?」


突然、話を振られて驚くアイラ。ゴールさんとマルシアス様がそこまで親しかったのに、俺も驚いたけどな。だが、セシルさんは更に驚くべき事を話してくれる。


「ああ、当時のマルシアスはファルディス商会を立ち上げて順調だった時期だ。自分の家にリオを入れて、多忙の中で使用人や仲間達と頑張って看病してたよ。もし、リオが生きてたらジェンナは結婚出来なかっただろう。それ位にマルシアスはリオが好きだった」


「‥‥そうだったんだ。お父様は、お母様と最初から結婚を考えていたと思ったから。少しショックですね」


そのまま結婚してたら、マルシアス様はゴールさんの義弟になっていたのか。だから、マルシアス様が未だに兄貴と慕うんだろうな。


「あんたの場合は初恋を実らせたからねえ。白馬の王子様よろしく、ユウキが助けに来て惚れちまったんだろう? 時空魔法を惜しげもなく教える、自分が請け負った仕事を手伝わせる。好きな男と共に過ごす時間を作る為に、必死に頑張ってたものねえ」


「うぅっ、止めて下さい! あの時は必死だったんです。ユウキを他の女性に盗られたくなかったから。ユウキとの交際を認めてもらうには、彼の能力向上と実績作りは必要だった。だから、私はファルディス家の仕事を手伝いだしたの。ユウキがいなかったら‥‥たぶん、家に引きこもってましたよ?」


確かにアイラには、あちこち連れ出されたなあ。俺だけでも帝国の都市はほとんど行けるし。それはそうと、セシルさん。俺も過去を暴露されて恥ずかしいんですが? ユイとアヤメが興味津々なのも嫌なんですけど!


「そういう純情な所は父親似だねえ。まっ、ユウキを落とした策士の部分はジェンナの血か。既成事実作って、子供まで出来たんだから。あの娘とリオはバチバチにやりあってたからね。ただ、ジェンナの偉い所はリオが病気で倒れた時は看病してた点だね。普通だったら、これ幸いにマルシアスを落とす算段をつけても良かったのに。なあ、ジェンナ?」


「ちょっと、セシル。何を勝手に過去の話をしているのかしら?」


後ろを振り向くと怒った顔のジェンナ様が、花束を持って立っていた。喪服姿という事は、リオさんの墓参りに来たのかな?


「恋の鞘当てをしていたジェンナが看病していると聞いて、マルシアスも怖がってたからね。おろおろしたあいつは、本当にかわいそうだった。ジェンナ、リオにマルシアスを託されたんだろう? だから、家を飛び出してでもマルシアスと結婚したんだ。違うかい?」


「‥‥そうよ。自分の命が短いと知っていたあの娘が私に言ったの。『マルシアスをお願いね。私の代わりに、彼を絶対に幸せにしなさい』って。彼女の言葉があったからこそ、実家との戦争にも勝てたわ。リオ、ありがとう」


ジェンナ様は花束を墓の前に手向(たむ)ける。そして、静かに祈り始めた。俺達も彼女にならい、祈り始める。しばらくして、祈り終わったアヤメが墓に語りかけた。


「叔母さん、初めまして。ゴールの娘のアヤメです。ようやくお墓参りが出来ました。帝都でも相変わらずのお父さんだったみたいですね。お母さんと同じ事をしてくれた事に感謝しています。私はこれから帝都に住みますから、定期的に墓参りに来ますね」


リオさんは、ローゼリエ様のようなブレーキ役だったんだな。あのゴールさんを止められるって、相当な覚悟がいりそうだ。そう考えると稀有な人だよな。俺も墓参りに来よう。アヤメとは家族になるからな。‥‥越えるハードルが高い気がするけど。


「はあ、貴女は本当にリオそっくりね。顔も声も雰囲気も似ていて驚きだわ。ところで、アヤメさん。孫の教育係をお願いしていますが、貴女にはアイラとユイさん、それとユウキの教育もお願い出来るかしら? もちろん、私も教育に参加しますが」


「? はあ、構いませんが。ユウキ様は年齢の割には、かなりの水準の知識と教養をお持ちです。学問も礼節もそちらのお2人に比べて弁えていますよ?」


「「えっ! 私達って同レベルなの!?」」


アイラは男性言葉で威圧しながらでしか、話が出来なかったからな。ユイは口よりも剣で語り合うタイプで礼儀は苦手だもんなあ。学問関連は‥‥2人とももう少し勉強しようか。


アイラは数学や魔法学、芸術関連は得意だけど歴史や商売関係は弱い。ユイさんは、体育と美術、家庭科は5だったな。後は彼女の名誉の為に言えない。ただ、定期テスト後にふてくされながらも補習していたとだけ言っておく。


「ユイさん、貴女はファルディス男爵家の騎士となります。礼儀作法や教養を身につけておかないとユウキの恥になりますよ。学院での勉強と並行して学びなさい! そして、アイラ。ロウ達の結果に問わず、貴女の子がファルディス家を継ぎます。これは、覆らない決定事項です。私が今まで学んできた全てを貴方に教えるから覚悟なさい!」


ジェンナ様は本気で2人を教育する気だ。あの2人が緊張する位の気迫だし。しかし、こうなるとナージャ様達の立場が無いんだよな。アイラの身と心を守る為にも出来れば避けたいんだが。


「‥‥ジェンナ様、やはりそれは確定事項なんですか? 俺はともかく、アイラに重荷を背負わせたくないんですが」


「ユウキ、貴方がアイラにしてくれた事は感謝しています。おかげでアイラは立ち直り、仕事も出来るようになりました。ですが、貴方はアイラに対して過保護になっていますね。もちろん、アイラの心を守りたいと言う気持ちは親としてありがたいですけれど」


「ふふっ、確かにねえ。だけど、ユウキ。これはあんた達だけの問題じゃない。ファルディス家は帝国で大きな歯車の1つになっている。それが上手く動かないのは、帝国の人間からするとまずいのさ。ユウキ、覚悟を決めな。あんたは歴史すら動かす存在になっている。かつてのゴールみたいにね」


アルゼナ、聞こえているか? どうやら君の言うような展開になりつつあるぞ。まったく、平穏で静かな生活なんて送れやしないな。うん? 巻物にメッセージが来たぞ。文面を出して読んでみるか。


『ようやく気づいた? 君は優し過ぎるからねえ、色々と気を回しすぎなんだよ。アイラを手に入れた時点で、君はファルディス家の内部抗争に巻き込まれる運命だった。何かを得れば、何かを失う。誰も傷つけないで何かを得ようなんて虫が良すぎない? ナージャ達をどかすか、ファルディス家から去るかの2択だね。ここまで来たら、もう答えは決まってるでしょ?』


アルゼナ直々の神託を見て、ジェンナ様とセシルさんが驚いている。ふう、ただの駄女神じゃないな。要所要所で覚悟を決めさせてくれるぜ。分かったよ、やればいいのだろう。俺はアイラの両肩を手を置いて、真っ直ぐ顔を見つめる。


「‥‥情け容赦ない神様だ。俺に修羅になれと言いやがる。分かりました、ジェンナ様。アイラの子をファルディス家後継者にする事を了承します。アイラ、すまないが一緒に戦ってくれるか?」


「ユウキ、分かったわ。貴方が戦うと決めたのなら、私は身内の情を捨てる。私達の子供の為にも、一緒に戦いましょう」


俺の覚悟を見てとったのか、アイラも力強くうなずく。すると、右側からユイが、左側からアヤメが抱きついてきた。


「ユウキ兄ちゃん、私も戦うよ。もし、ケビンさん達と戦う事になったら守ってあげるからね。アイラに逆らう連中は、1人も生かしておかないよ」


「ご主人様、私も共に戦います。まずは盗賊ギルドを味方につけ、ロウ様を出し抜きましょう。ラングを我々で仕留めるのです。さすれば、ロウ様達を追い込めます」


「うぅっ、2人が怖いよお。で、出来るだけ人を殺さないでね。家を守る為には人材が必要だから。やりすぎは駄目、絶対!」


‥‥2人とも、ノリノリでとんでもない事を言ってきたな。さて、となれば盗賊ギルドを味方につけるか。上手く事を運ばないとナージャ様達にばれてしまう。慎重に事を運ばないとな。


まさか、異世界で権力闘争をする事になるなんて思わなかった。だが、これも家族を守る為だ。恩人であろうとも蹴落としてやるさ。‥‥い、胃が痛い。






















次回、盗賊ギルドへ。

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