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転生しても受難の日々  作者: 流星明
山積する諸問題を解決せよ
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第67話 墓参りの道中で

お待たせしました。

朝食後の修羅場を(くぐ)り抜けた俺達は、ユイの件を解決すべく貧民街に根城がある盗賊ギルドに向かっていた。途中、アヤメの叔母にあたる女性の墓参りにも行く予定だ。しかし、朝から疲れたな。


「‥‥ふう、何とかマルシアス様の言質がとれて良かった。しかし、まさかロウ様とルーがラング討伐に出るとはな。ケビンさんがいるから大丈夫だとは思うが」


俺がマルシアス様を抑えると、ロウ様が我々兄弟でラングを討つと宣言した。ルーの奴が驚いた様子を見せていた事を(かんが)みると、ロウ様の独断だったようだ。ケビンさんら腕利きの部下達を連れ、朝の内に帝都を旅立っていった。


即断即決はロウ様らしいと思うが、気になる事がある。俺やアイラの助力を一切拒否したのだ。下手をすれば、ラングに温情を与えた皇帝陛下に泥を塗りかねない事態。ここは協力して対応しようと説得したが、無駄に終わる。


『ユウキ叔父上。ファルディス家の跡取りとして、ラングの愚か者を許す訳にはいきません。奴が道を誤ったのは私にも責任もありましょう。なれば、自らの手でラングを処断する! ファルディス家の後継者として命じます。既に分家となったユウキ叔父上方は手出し無用に願います』


‥‥完全に焦ってるよな? マルシアス様の激怒はファルディス家全体を揺るがしてしまった。ルパート様やナージャ様も全力で支援し始めたし。ケビンさんはかなり困った様子だったな。


「ご主人様、当然の事です。もし私達がラングを討ったとしましょう。そうなると、騒動を収めたのはアイラさんの功績となります。それは助力して解決しても同じ事です。なぜならば、ご主人様を引き入れ、私達を連れてきたのは彼女ですから。自分達で事を収める事で、ロウ様は何とか現在の状況を守るつもりなのでしょう」


「いや、それを俺は危惧しているんだ。ロウ様とルーの職業は商人だぞ? 実戦慣れもしていない。対して、ラングは弱くはあるが冒険者だったんだ。しかも、少なくない仲間がいるらしい。ケビンさん達がいるとはいえ、足手まといになって命を落としかねない」


例えるなら、テロリスト相手に民間人を連れて戦いに行くようなものだ。護衛の人数を割きつつ、敵の襲撃(しゅうげき)にも備えないといけない。普段の仕事と違い、ケビンさんの負担がかなり大きくなってしまうのは間違いない。


「私がユウキの子供を宿したばっかりに。こうなるなら子供‥‥ひゃい!」


「ア・イ・ラ! 変な事を言おうとするのはこの口かな? 今回の失態は明らかにナージャ様達にある。ラングの暴走を止められる立場にあったのに何もしなかったんだからね。アイラと子供に罪なんてないよ。お母さんになるんだから、しっかりしなきゃ!」


ユイがアイラの口を抑えながら、心を込めて言い聞かせる。親友の言葉に落ち着いてきたのか、アイラの表情の暗さが消え始めた。俺も何か言うべきだな。


「そうだよ、アイラ。俺との子供がいなくとも、マルシアス様の決断は変わらなかったはずだ。だから自分を責めないで欲しい。俺はファルディス家のアイラが欲しかったんじゃない。心優しく俺を導いてくれたアイラが欲しかった‥‥わっ!!」


気づいたらアイラが俺の胸に飛び込んできた。まずいな、貧民街の皆さんがかなり見てるんですけど。ふむ、とるに足らない小事か。俺はアイラの体に手をまわし、優しく抱き寄せる。アイラの心を(いや)すのが俺の役目だろう。と、思ったら‥‥。


「どう思われますか、ユイさん? ご主人様の口の上手さを」


「‥‥天然ジゴロなんだよね、昔からユウキ兄ちゃんは。これで恋しちゃった女の子を何人追い払った事か。まっ、アイラは追い払わないけど。ただし!」


ユイがアイラを優しく俺から引き剥がす。昔だったら、女の子の首根っこ(つか)んで無理矢理引き剥がしていたからな。なんだか隔世(かくせい)の感がある。引き剥がされたアイラの顔は真っ赤になりながらも、どことなく不満そうだった。


「うぅっ! も、もう少しだけ抱いて欲しかったのに」


「機を見るに敏な所は両親譲りなんだよねえ。アヤメさん。アイラは大人しい顔してかなり大胆だから、油断したら駄目だよ?」


「分かっています。そうでなければ子供を作らないでしょうに。昨夜も最後まではしてないでしょうが、ご主人様に優しく奉仕を‥‥」


「ちょ、ちょっと何を言い出すの!? 恥ずかしいから言わないで」


慌ててアヤメの口をふさぐアイラ。アヤメさん、なんで夜の営みがばれてるんですかね? 彼女は1階の客間に寝泊まりしてるんだけど。これがサキュバスの特殊能力なのか。


『簡単な事です、通信魔法で盗聴してましたから。しかし、アイラさんはなかなか攻めますね。ご主人様を何度も果て‥‥」


『ちょっとおお! アヤメさん、何してくれてんのおお!!』


『えっ? なんで、どうして!? ち、違うの!! 安定期になるまでは出来ないから、代わりに‥‥』


『‥‥ユウキ兄ちゃんとアイラの変態。そんなに溜まってるんなら私もしてあげようか? あと、アヤメさん。盗聴のやり方を詳しく教えて?』


『『な、なんでユイまで通信魔法を使えてるの!?』』


アヤメさん、どこぞの諜報機関並みに盗聴してやがった。俺とアイラの魔力探知にかからないなんて、盗聴慣れしてるよな。色々と筒抜けになりそうで怖い。


「残念ですが、ユイさんは魔力が低すぎます。通信魔法は私達と魔力を共有していますから使えますが、盗聴魔法は魔力をかなり消費しますからね。サキュバスに目覚めた私がようやく使える代物ですし。あっ、悪用はしないのでご安心を。そろそろ、墓地に着くようですね」


「ぐうっ、残念だな。まあ、通信魔法使えるだけでもありがたいし。ユウキ兄ちゃんとアイラとも話が出来るから嬉しいな。おっと、私が先に言って索敵するね。アヤメさんは2人の護衛をお願い」


ユイが墓地の中に入って俺達は待機する。これはユイとアヤメが決めた事だ。魔法使いである俺達を剣士と騎士である自分達が護衛する。普段から心がけとく事で、突発的な事態に対応出来るようにする為のようだ。しばらく待つとユイが戻ってきた。


「特に変わった所は無かったよ。奥の方に1人女性がいた位かな?」


ユイの報告を聞いて、俺達は墓地に入る。墓石で作られた墓は無い。石か木で作られた墓が所狭しと並んでいるだけだ。


「ここが貧民街の墓地だけど、俺は傭兵王の妹さんの墓なんて見た事無いな。昔はよく来ていたんだが」


俺は簡素な墓の多い墓地を見て懐かしく思う。昔は墓参りによく来たが、最近は忙しくて来れなかったからな。彼らの墓にも挨拶しないと。


「えっ? ユウキ兄ちゃんが何で墓地に?」


「‥‥弧児院にいた頃は栄養失調や病気、仕事中の事故なんかで亡くなる仲間が多かった。だから墓地に埋葬の為に来てたのさ。遊び助け合った仲間の死とは(こた)えるものだったな」


昨日まで生きていた仲間が今日になって死んでいた。なんて事はよくある事だ。冬の寒さで凍え死んだ仲間もいる。仕事で橋を作る土木作業した時は辛かった。身を切る寒さと水の冷たさに何人もの仲間が倒れたからな。幼年期保険無ければ、俺もああなっていただろう。


「ユウキ‥‥。もっと早く私があなたと会えれば良かったのに」


「気にするな、アイラ。苦しくも辛かった生活だったが、楽しかった事もある。孤児院の先輩達には色々教わったしな」


「ふん、ユウキも随分と立派になったじゃないか。あのマセたガキが、ハーレム少年魔法使いとして有名になるとは思わなかったよ。しかも、マルシアスの娘を孕ませるなんて大した男だね」


声のする方を振り向けば、懐かしい顔を見た。帝都の歓楽街を守護する守り神、セシルさんだ。元々は踊り子だったらしく、多くの男を魅了し手玉にとった傾国の美女だったらしい。皇帝陛下やマルシアス様もファンだったらしく、ジェンナ様の前で名前を口にしたら怖い顔でにらまれた。


年は50近いが、褐色の肌や赤く長い髪は艶やかで若々しさを保っている美魔女だ。今日は珍しく黒の喪服を来ていた。誰かの墓参りかな?


「お久しぶりです、セシルさん。しかし、アイラの妊娠はどうして知ってるんです? まだマルシアス様辺りにしか知らせてないんですが」


「はん、簡単だよ。ファルディス家にいる使用人の中に、盗賊ギルドに繋がっている者達がいる。そこから私の所に情報がきたよ。ラングの馬鹿をロウが締める為に帝都を出たのも知っている。ユウキ、いかに天命人でも油断したら駄目だ。こっちの人間も強かな連中は多いからね」


‥‥俺の素性もばれてました。盗賊ギルド怖すぎだろ! アイラも顔を青くしてるな。使用人が盗賊ギルドと繋がっていたのがショックだったか。まあ、俺はある程度マルシアス様から教えてもらっていたけどな。


こちらの情報を与える代わりに、向こうの情報を得る。そんな関係を長い間、マルシアス様は盗賊ギルドと続けていたようだし。


「マルシアスの考えには賛成さ。ド変態ラングが大チョンボをやらかした以上、ナージャの血筋に継がせるのはリスクがでかい。それに、ロウの器量に疑問符もついたしね。あんた達に頭を下げて助力を乞う気概も見せず、自分で解決しようと必死だもんねえ。ぬるま湯に浸かっていたボンボンが、尻に火がついて慌ててるのを見て裏社会の連中は笑ったものさ」


駄目だこりゃ。情報筒抜け過ぎて本当に怖すぎる。セシルさん、昔から怖かったもんなあ。特に女性を道具としてしか見ない連中を許さなかった。ラングも確か歓楽街を出禁になって、叩き出されたって聞いたし。


そんなセシルさんがアヤメを見て、随分と穏やかな笑みを浮かべている。もしかしたら、ゴールさんを知っているのかな?


「‥‥なるほど、貴女がセシルさんでしたか。かつて、お父さんの恋人だった。初めまして、ゴールとローゼリエの娘のアヤメです」


「そんな事は知っているよ。あんたはゴールの妹に生き写しだからね。裏社会の連中が、幽霊を見たかのようにたまげていた。そうか、ローゼリエの奴め。私が出来なかった事をしてくれたか。私はゴールの子を産めなかったし、心の穴をふさげなかった。ふん、あんたの母親には感謝しているよ。妹を失ったあいつが‥‥家族を持とうって気になったんだからねえ」






次回、セシルによる昔話。

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― 新着の感想 ―
[一言] アイラってロウと似たような年齢だし有能なところを見せた時点で後継者争いは必須だったな 後継者になりたくないならロウより目立っちゃいけないのに何も考えずと言うか状況的に仕方なく能力も人の繋がり…
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