ルー立志伝 1 夜の作戦会議?
お待たせしました。ルー視点の外伝です。
何とか仕事を終えて、夕方には帰宅出来た。いきなり、お爺様と各所の挨拶回りとかに連れてかれて恐かったな。そして、皆が僕を影で笑いやがる。泣き虫ルーの悪名は世間に浸透しているようだ。悔しい、悔しいな! いつか、ファルディス家の当主になって見返してやる!! とはいえ、そうなるには大きな問題が出来た。
「なんで、なんでユウキがファルディス家に入ってくるんだよお! 僕の、僕の立場がますます無くなる‥‥うわっ!!」
気づけば、隣で寝ていた裸の女性が僕の急所を優しく握ってきた。彼女はマリー=ゴーディンといって、ファルディス家執事の孫娘で僕達とは幼なじみ。ロウ兄さんと同い年の18歳でお姉さんとして僕達の面倒を見てくれていた。そして、不思議な事にアイラ叔母さんとも仲が良い事でも知られる。
アイラ叔母さんとよく仲良く出来るよなあ。今朝、僕は殺されかけたんだけど!?
「もう、ルーったら。いけない子ね、お姉さんとの逢瀬中に考え事なんて。まっ、ユウキ様は優良物件だからね。使用人の女の子達の間でも大人気よ。でもアイラ様を相手にするのは無理だから、皆が遠巻きに見ているだけだけど」
マリー姉さんにそう言われ、ため息をつく僕。ユウキが羨ましいな、僕なんてマリー姉さん以外見向きもされないのに。彼女を抱きよせて豊かな胸に顔を埋める僕。‥‥マリー姉さんの胸って落ち着くな。悲しい事や嫌な事も忘れられるよ。
「アイラ叔母さんと同じ時空魔法使いだからね。しかも、叔母さんと同程度の魔法も使えるし。はあ、ファルディス家当主を狙う強力なライバル登場だよ」
「しっかりしなさい! このマリーお姉さんが付いているんだから。とりあえず、ルーは商人の下働きを始めるんでしょう? なら、まずは使用人や職人達の掌握に力を注ぎなさい。下からの支持が有るのと無いのとでは、当主になってからかなり違うわよ」
僕を抱きしめながらも、叱咤激励するマリー姉さん。全く敵わないなあ。僕が弱音とか吐けば、必ず叱ってくれるんだから。両親との交流が薄い分、マリー姉さんは母であり姉であった。そして今や恋人なんだ。仮に結婚したとしても、僕は彼女を手離す気はない。
「分かっているよ。僕を侮っている奴等を見返してやるんだ。でも、マリー姉さん。僕なんかで良かったの? ロウ兄さんやラング兄さんの方が力はあるのに」
マリー姉さんは美人だからね。艶やかな青い髪と瞳が印象的な上に、何より胸が大きい。男性使用人達は鼻の下を伸ばしまくりだし、女性使用人達からは嫉妬と憎悪の対象になっている。性格も悪くないし、優しいのになあ。仕事もしっかりするし、お爺様とお婆様からの評価も高いんだよな。
新人だった昔はともかく、今はいじめとかされてない。マリー姉さんをいじめた主犯格の女性使用人がいたけど、急な病で亡くなったんだよな。それ以後、女性使用人達がマリー姉さんを怯えた様子で見てるんだ。‥‥うん、分かってるよ。マリー姉さんが毒殺したんだよね!
「論っっ外!! ラングは性欲馬並みの力馬鹿で、ロウは頭でっかちの知識馬鹿よ! 何が悲しくて、あんな2人に抱かれないといけないのかしら? 実際、ラングは金貨3枚出してきたけどね。『これで姉さんを抱きたい』って」
「えっ‥‥ええ!! ラング兄さんにマリー姉さんが抱かれ、あだっ!」
思い切り頭を叩かれた。相変わらず、マリー姉さんの拳骨は痛いよ。僕はあまり叩かれなかったけど、悪さをしていたラング兄さんとリア姉さんはよく叩かれていたな。『『あれは痛すぎる!!』』って泣きながら言ってたっけ。
「この馬鹿ルー! ‥‥その、貴方と初めてした時にちゃんと血が流れたでしょうに。きっちり断りました。金だけはもらって、思い切り顔面を拳で殴ったわよ。『お姉さんは高いの。抱きたいなら金貨100枚位は持ってきなさい。これは迷惑料としてもらっとくわね』って言ってね」
ああ、何年か前にラング兄さんの顔に殴られた跡があったの、それが原因か。本人は『酒場で冒険者と喧嘩になった。まあ、勝ったがな』とか言ってたけど。何故かアイラ叔母さんが笑いを堪えてたけど、理由知ってたんだろうな。
あと初めての時って、そんな事を気にしてる暇なかったんだけど!? マリー姉さんが持って来たジュース飲んだら、僕が貴女を押し倒してしまったから! 媚薬を入れたのは間違いないよな。でも、後悔はしてないよ。マリー姉さんを昔から好きだったし、いつか奥さんにしたいなと思っていたから。
「も、もちろんマリー姉さんの事は信じてるよ! でも、ロウ兄さんはなんで嫌なの? ファルディス家次期当主様だし、将来有望じゃないか」
「確かにロウは優秀だけど、人を道具としてしか見てないわよ。女性もそう。ロウが婚約した娘は、帝国第3位の商家の娘。いずれ、2位のファルディス家と吸収合併させるのが、ナージャ様達の魂胆でしょうね。目標は第1位たるハーダル家を押し退ける事だろうけど、見方が甘い。マルシアス様も心配していたわ。『逆にファルディス家が吸収されかねん』って』
愚痴るマリー姉さんから聞いたのは以下の通り。第3位のティナート家は野心旺盛で、ファルディス家乗っ取りに興味津々。ロウ兄さんの嫁になる女性は、表向き穏やかだが裏の顔は策謀家らしい。香水や化粧品を売って儲けている女商人で、皇帝の妃達にも顔が利く。うん、ロウ兄さんじゃあ、確実にもて余しそうだ。
「道具としてもらった妻が、いつの間にか当主になっていてもおかしくはないわ。私に至っては利用価値が無いせいか、全く見向きもされなかったしね。だからルーが良いのよ。もしかしたら、ファルディス家当主の芽もあるし、お姉さん育てがいがありそうだわ」
そう言って、僕に強く抱き付いてくるマリー姉さん。あの、胸が。大きな胸が僕の体に当たってる。そんなにされるちゃうと僕は、僕は‥‥。
「あら? さっき、あんなに求めてきたのに。元気で何よりね。さすがは精力絶倫スキル持ちは違うわ。じゃあ、お姉さんも本気にならなきゃ」
マリー姉さんは、俺から離れると体から黒い霧を吹き出させた。青い瞳が赤く輝き、背中からコウモリの羽が生えてくる。僕は変化した彼女の正体を理解してしまう。性欲を食らう魔族であるサキュバスだ。でも、マリー姉さんが魔族? 両親は人間だったはずだよな。
「ええと、マリー姉さんって拾われた子供なの? だから、両親が人間なのに魔族なんだ。驚いたな」
「‥‥もう少し危機感とか持ちなさいよ。私、サキュバスよ? ルーの精力を吸ってミイラにしちゃうかもしれないのに」
凄みを込めた笑顔を見せるマリー姉さん。肉食動物が草食動物を狙う時の顔って、こんな感じなのか。まあ、マリー姉さんなら食べられてもいいかな?
「マリー姉さんなら良いよ。落ちこぼれだった僕を助けてくれたのは、マリー姉さんだけだったし。サキュバスだろうが、なんだろうが構わない。愛してるのは変わらないからね」
実の兄弟に見切りつけられたの早すぎたからなあ。昔みたいに、ロウ兄さんもラング兄さんも仕事に連れていってくれなくなったし。リア姉さんは‥‥うん、見切られて良かった。あんな色情魔には身内でも近づきたくないから。サキュバスだったマリー姉さんの方が、性欲方面で真面目なのは驚きだけどさ。
「‥‥‥‥‥‥馬鹿。食べる訳無いじゃない。いじめられてた私を助けたり、仕事の愚痴を聞いてくれるのはルーだけだったし。そんな貴方だから好きになったのよ。ちなみに、私がサキュバスなのは先祖返りしたかららしいわ。親切なサキュバスのお姉さんが教えてくれたの」
「同族と話したの!? しかも、先祖返りってマリー姉さんの家系に魔族がいたんだね。だったら、その美貌は納得かな? それとマリー姉さんの力になるのは嫌じゃないよ。いじめてる使用人とかの方が、余程嫌いだったし! あいつら、俺も泣き虫ルーと影で言ってるからな」
「昔はそうだったでしょうに。木から降りられず泣いたり、女の子に大事な物を取られて泣いたり、あとは‥‥むぐっ!」
僕はキスをしてマリー姉さんの口を塞ぐ。思い出される苦く悲しい思い出をこれ以上聞きたくない。それに、僕の理性も限界に近いし。
「もう! いきなりキスするなんて。ふふっ、でも強引な貴方も嫌いじゃないわ。さあ、いらっしゃい。私を抱いて、明日からも仕事を頑張りなさい。ルーが立派な男になれるよう、お姉さんも頑張るから、ね?」
僕はマリー姉さんを押し倒して激しく求める。彼女の為ならユウキにも負けてやらない。絶対に大きな功績を挙げて、ルー=ファルディスここにありと見せつけてやる。こんな僕を愛してくれるマリー姉さんを幸せにしないと!
次回、観劇後に教え子再会。