表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生しても受難の日々  作者: 流星明
邪神と聖女との出会い
73/152

幕間 4 氷の魔女と新邪神

お待たせしました。幕間。ティリュ視点の話です。

「ふむ、戦争の最中ではあるが帝都は平和そのものだな。かつては、弱小と蔑まれたバージニル王国とはとても思えぬ」


我はカフェーなる喫茶店で、コーヒーを飲みながら辺りを見渡す。様々な人種が通りを(せわ)しなく歩き、途切れる事は無い。陽気な商人達が、各国の食べ物を屋台で売ってる様子も面白いな。戦乱に明け暮れた昔とは隔世の感がある。


今日は曇りで良かった。暗黒神の血よりも母のヴァンパイアの血が強いせいか、日光には弱いからな。我が主殿の側は離れたくはないが、身内の呼び出しには応じねば。


「我が主殿が(いわ)く、『ナルム王国との戦いはほぼ決着が着いた。後はビトリア聖国との話し合いだよ』と、言っていたが‥‥奴等は要注意だ。そうであろう? ボルガよ。邪神就任おめでとう」


「‥‥大叔母上、封印が解けたと思ったら何をしているのですか? あ、ありがとうございます」


隣の席に座ったのは、我にとって又甥にあたるボルガだった。人間に変化してはいるが、随分と立派な貴公子になったものだな。会ったのが何百年振りだからか、成長が著しい。自ら封印していた我の場合、姿形がまるで変わらないが。


先代の暗黒神とヴァンパイアとのハーフだからか、あまり老化は進まないがな。せっかく愛しき男が出来たのだ、若々しい方が喜ばれると言うものよ。


「我が主殿とのめくるめく愛の日々を送っておる。年甲斐無く、若い男にのめり込んでしまったからな。それにマイカやマリー、ミルはなかなか愛でがいがある。主殿との逢瀬が無い時は、あぶれた者同士で慰めておるよ」


マリーはサキュバスだけあって、技術も経験も見事だ。マイカとミルは、まだまだ(うぶ)だからか育てがいがある。我と主殿とで立派な女にしてやろう。うむ、気が滅入る戦争や謀略よりも実に楽しい。


‥‥ボルガよ、これ見よがしにため息をつくな。その生真面目さは昔から変わらん。さて、人避けと音声遮断の結界を張るとしよう。どこに帝国等の目があるとしれんからな。


「相変わらず自由人ですな、大叔母上は。私の祖父、先代の暗黒神は頭を抱えてましたよ? いきなり貴女が消えたので、魔族側が不利になったのですから。おかげで人魔大戦は魔族側が敗北。魔族は大陸北西の山岳地帯や荒野に追いやられてしまいました」


「はっ! 全てを我のせいにするつもりか? 占領統治が酷すぎて、各地で反乱が相次いでいただろうに。仮に我が退場しなくとも、魔族側の敗北は確定だったではないか。それにほれ、最近邪神を物理的に首になったオードル。奴が人質としていた人間側の姫達を犯して食い散らかし、彼女達は世をはかなんで自殺してしまった。あの変態の手綱を握って無かった馬鹿兄と馬鹿甥が悪い」


我の眷属(けんぞく)たるコウモリ達からの情報によれば、度重なる失態を演じた邪神オードルは人間に殺されたらしい。しかも主殿の宿敵たるユウキ=ファルディスも事に絡んでいるようだ。とはいえ、あの変態馬鹿野郎を処分してくれたのは実に喜ばしい。


魔族にとっては足手まといだが、馬鹿兄と馬鹿甥が甘やかしてるせいで誰も何も言えなかったからな。ユウキとアルゼナ神には感謝せねばならん。


「‥‥あ、あれは魔族側の痛恨事でした。おかげで魔族側の人間達まで敵にまわりましたからな。しかし、最早あの馬鹿兄はいません。今は私が邪神となりました。これからは私が対人間の指揮官ですから、妙な真似はさせませんよ」


「その心意気は良いがな。早速、暗黒教団の残党どもがやらかしてるぞ。我の封印を解いて旗頭に祭り上げようとしおった。この分だと変態馬鹿野郎のやらかした事案は数多い。まずはそれらの精算からせねばなるまい」


大陸各地にいるコウモリ達からの報告では、ラクシュアなる麻薬の製造と販売にも関わっていたとか。金と女は際限無く欲しがる奴だったからな。親族たる我も後始末には協力してやろう。我が主殿にも関わってきそうな案件だからな。


「ただでさえ、ビトリア聖国の勢いが強いと言うのに。暗黒教団に関しては、私の指示に従うよう命じました。バージニル帝国支部は壊滅しましたが、他を動かしてラクシュアについては調べるつもりです。なにせ、下手をすれば魔族人間関係なく国が滅びますので」


「ラクシュアは依存性があって禁断症状が地獄の苦しみ。それだけなら普通の麻薬と変わらん。しかし、匂いが食欲を強烈に刺激し、Sランクモンスターを呼び寄せるのは危険極まりないからな。オードルは効能について知らなかったのか?」


何でも、サキュバスの錬金術師が失敗作としたレシピを盗んで作らせたらしい。製造と販売には、数多くの天命人も噛んでいると聞く。相変わらず、マイカやユウキ達のように真っ当な仕事をしている者が少ないな。異世界だからと言って、はっちゃける馬鹿たれどもの多き事よ。


「‥‥あの兄がそこまで考えるとでも? 大方、女を従わせられるのと金になるから使っていただけでしょう。麻薬販売組織の影響力は凄まじく、人間の国々の中には彼等の意向に沿う国もあるのだとか。ただ、そのまま使うのは害が大きいので処断する方向で動いていますが」


「当たり前だ! これが魔族側の仕込みだとばれてみろ。ビトリア聖国の奴等が躍り上がって喜ぶわ。聖戦と称して仕掛けてきかねんぞ。我も奴等の撲滅に協力する。主殿達との生活を守らねばならん」


「分かっておりますよ。私としても早急に動きますので。そういえば‥‥ルー=ファルディスに関連する事で、大叔母上のお耳に入れておきたい事があります。ラング=ファルディスが、ナルム王国騎士団に加担して略奪や強姦、殺人に手を染めているのですが‥‥」


ラング? ああ、主殿の不肖な兄だったか。その不行状、聞けば聞く程にオードルと似ている。やはり人間魔族問わず、愚か者がする事は変わらぬらしい。捨て置く事は出来そうにないか。主殿が連座して罪人になったら堪らぬ。


主殿の祖父たるマルシアス殿は、そういった事には厳しい方だ。下手をすれば主殿の家族全員がファルディス家を追い出される可能性も出てくるか。貴重な情報をもたらしたボルガには感謝せねばな。


「ボルガよ、感謝するぞ。我は主殿を路頭に迷わせるつもりは無いからな。打てる手は全て打つ積もりだ。ラクシュアの件も平行して追う。オードルが残した問題を1つ1つ解決していかねばな」


「ラングの件は、私が仕掛けた案件の中で分かった事ですから気になさらずに。まあ、ナルム王国とは手を切りますがね。沈み行く彼等より、ユウキ=ファルディスの方が手を組むに相応しい相手ですから。では、大叔母上。これで失礼します。どうか体にお気をつけて」


そう言って、ボルガはテレポートで去っていった。冷めたコーヒーを全て飲み干すと、我はテーブルに代金を置いて立ち上がる。


「ナルム王国の連中も哀れなものだ、踊らされた挙げ句に捨てられるとは。数えきれぬ愚行を繰り返した国だから同情は出来ぬがな。さて、ビトリア聖国がどう動くかな? 今後の事を考えれば、大きな失態を演じてもらいたいが」









次回、聖国騎士団との小競り合い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ