第55話 宵闇の騎士誕生
お待たせしました。
オードルが作り出した暗闇は消え、現れた光景で目を引くのはピンク色のベッドだった。床には魔方陣が描かれており、立派な調度品の数々からしてローゼリエ様の部屋かな?
「私の城にある私の部屋を再現しました。願いとは簡単です。アヤメを抱いて下さいまし」
あんまりな言いぐさに、俺は頭を抱える。いや、母親が言って良い台詞じゃありませんよね!
「いきなり、直球すぎませんか!! こほん。り、理由は何でですか?」
「うふふ、可愛い方ですこと。冗談ですわよ、冗談。実際は魔力を精力に変えて、アヤメに流して頂きます。今回だけです。しばらくしてから、アヤメとの夜をお楽しみ下さいね」
「お母さん、なんで!? なんでご主人様とさせてくれないの? 私も我慢の‥‥あだっ!」
ローゼリエ様、娘を鞭で叩くってかなりハードなお仕置きじゃありませんか!? ‥‥あっ、中世の世界なら当たり前だったわ。つい最近まで、某国の寄宿学校じゃ、悪さした奴の尻を鞭で叩いてたらしいし。結構、スタンダードなしつけだったのか?
「落ち着きなさいな。アヤメよりも切実な女性が2人いるの。皇女殿下とユイさんよ。あの娘達、精神は大人なのに体は子供でしょう? だから、ユウキ君に抱いて欲しいけど我慢してるの。でも、ここでアヤメを抱いたりしたらどうなるかしら?」
「‥‥血の雨が降りますね」
ガチのサンドバッグ状態で殴られまくっても、文句1つ言えない。しかし、解決策が見当たらないのが現状なんだよな。
「それもあるけど、間違いなく2人がかりで貴方を押し倒すわよ。たぶん、子供が出来ても構わないレベルでユウキ君を求めると思うわ」
サキュバスの女王の言葉は重かった。本当に子供を作ろうとしかねないな、あの2人。ヤバい、ユイもまずいがマヤが洒落にならん。下手したら皇帝陛下に殺されかねんし。だあああ、完全に思考の袋小路に入ったぞ!
「そんなユウキ君に朗報よ。サキュバスの力を使って、君達3人を前世の姿に夢の中で戻せるわ。夢の中でとことんすれば、彼女達も満足するでしょう。魔技サキュバスの夢は、覚醒したアヤメが使えるようになる。だからこその今回の提案よ。分かって頂けたかしら?」
つまり、夢の中で2人とする方法があるのか。‥‥色々思う所はあるが、使わせてもらう。2人は転生してからも俺を探し続けていたし、合流してからは助けてくれた。前世においても、感謝してもしきれない恩がある。そろそろ男の甲斐性を見せても良いだろう。
「分かりました。しかし、いいんですか? 娘さんをそんな男に嫁がせて?」
「‥‥いいんです。今は、ご主人様の隣に入れば私は良いから。でも、いずれは1番を目指します。皇女殿下だろうが、誰だろうが蹴落として見せますよ!」
アヤメさん、争いの種をまこうとしないでええ! 帝都大戦争勃発しちゃうから!! セコンドの方々もとんでもない大人物多いし、どんな地獄が顕現するか‥‥。
「もちろん構いませんわ。貴方を慕う女性達はそれぞれ強い。いかな娘といえど、苦戦はまぬがれません。ならば、ここらで私が力を与えようと思いましてね。サキュバスの夢は、そのおまけです。人間としての力はゴールが限界まで引き上げました。次は私の番よ」
確かにマヤ達は強いからな。しかし、なんだって今なんだ? サキュバスなら、月の障りが始まれば色々出来るはずなのに。
「サキュバスは男の精を奪う事で強くなります。ですが、愛する男の精のみを体に浴び続ければ、更に強くなるのです。効果は‥‥私が身を持って体験していますわ。‥‥ゴールに頼んで7人目をお願いしようかしら?」
「お母さん、もう少し控えて欲しい。‥‥さ、さすがに15歳下の妹がいるのは恥ずかしいから」
うん、確かに恥ずかしいかもしれん。思春期真っ只中のアヤメにとって、両親の性生活を目の当たりにするのは。だが、こればっかりは両親の考えだからな。親が子の人生を縛ったらいけないし、逆に子が親の人生を縛ったらいけないんだから。‥‥まあ、素行に問題があるなら話が変わってくるが。
「何を言ってるのかしら、貴女は。アヤメもそうやって産まれてきたじゃないの。それに、ゴールとは体も心も相性ピッタリだったの。おかげで、長年空いていた心の穴がふさがったわ。さて、じゃあ始めるわよ。まずはお互い、正面に立ちなさい」
ローゼリエ様の指示通りに、俺とアヤメは向かい合わせで立つ。‥‥夜着姿のアヤメも綺麗だな。普段は騎士の姿しか見てないし。あれ、なんか様子が変だぞ?
「見られてる、ご主人様に私の夜着姿を。うぅ、我慢しないといけないのに」
背中から再びコウモリの羽が広がり、瞳が赤く染まっていく。顔は真っ赤に染まり、激しい呼吸のせいか胸が大きく上下していた。それを見たローゼリエ様は、右手に強大な魔力を集中させていく。
「もう、堪え性がない娘ね。ユウキ君、今から貴方の魔力を使わせてもらうわ。脱力感が半端ないけど覚悟しなさい。えいっ!」
「ぐっ。お、おい! 魔力が洒落にならないレベルで吸われている。大丈夫なんですか、ローゼリエ様!?」
魔力を吸われた俺は、すぐに膝をついてしまった。俺から離れた魔力は白い光となってアヤメに注がれていく。アヤメはどうなってしまうんだ?
「‥‥驚いたわ。予想以上にアヤメの器が大きいみたい。今回の成長で、私の実力を軽く越えちゃいそうね。アヤメを孕んだ時に、暗黒神様へ願ったかいがあったものね。私達の子供達の中で、間違いなく最強の存在になれるわ」
「そんな事になるんですか、神眼発動! ローゼリエ様、アヤメのランクがS+になりつつありますけど!? このまま続行したら、アヤメがまずいんじゃあ‥‥」
「ち、力がみなぎってくる。凄い、こんなに強くなるの私?」
「アヤメ、貴方には宵闇の騎士の称号を与えるわ。目を覚ましたら、新しい鎧や騎士の証たる指輪が横に置いてある。かつて、ゴールが使っていた鎧をモチーフにしたものよ」
アヤメを見れば、光の中で成長と変化を始めていた。夜着を押し上げる程に膨らんだ胸、白く美しい肌は男を狂わせる輝きを放ち出す。瞳は魅了と服従の能力を持つ魔眼へ変わり、背中に生えたコウモリの羽が黒い羽毛に覆われて堕天使のような羽へと変化していく。あっ、魔力が完全になくなった。ここまで使ったのは初め‥‥もごっ!
「はい、お疲れ様。ユウキ君のおかげでアヤメが成長出来たわ。あの聖女もこれで貴方に手を出せないでしょうね。それでは、お別れの時間です。私の娘をこれからもよろしく。あと、マヤさんとユイさんも満足させなさい。分かったわね、ユウキ君?」
俺にドリンク剤みたいな物を飲ませ、人の悪い笑顔を浮かべたローゼリエ様は姿を消す。城の部屋は消えて、暗闇にアヤメと2人きりになった。ますます美人度が上がった彼女を見ると緊張してしまう。
「ご主人様、ありがとうございます。貴方によって、私は更なる高みに達しました。と、申しましても、普段は今まで通りの姿で過ごしますけれど。他の男にちょっかい出されるのは嫌ですので」
そう言って、アヤメは姿を元に戻す。ちょっと残念だけど仕方ないか。あの姿で戻ったら、絶対に突っ込まれるからな。女性陣からの追及とか怖すぎるから、これで正解だろう。ま、まずい、想像したら体が震えてきた。
「うふふ、安心して下さい。夜は先程の姿で奉仕させて頂きますから。とはいえ、まずはお母さんの助言通りにしましょう。マヤ様とユイさんの中にある不平不満を解消しなければ」
「そうだな。戦争が終わってからお願い出来るか、アヤメ? 今はまだ戦いの最中にあるからな。そうだな、場所は‥‥」
俺はアヤメと話し合い、マヤとユイとの逢瀬計画を考える。話終わってから、再び俺達は眠りについた。うん、かなり濃いい夢だったな。ボルガさん、ゴールさんにローゼリエ様。大陸でも最強レベルの方々が登場したし。
オードルが倒れたのとアヤメが強くなったのは良かったのかもしれない。だが、聖女が危険人物か。宗教は時に人を容易に狂わせる。聖女も狂信者の類いかもしれない。行動と言動には気を付けねば。
次回、帝都にてティリュとボルガの密会。