第54話 邪神の後ろに‥‥
お待たせしました。
「ふっふっふ、見事なりユウキ。我を倒すとはな、さすがああ!」
「オードル様、いい加減にしないと本当にあの世にいきますよ?」
アヤメさん、神様の顔面を足で踏み抜きますか。まあ、俺もアルゼナに色々やらかしてるから注意出来ないけどな。しかし、理由ってなんだろう。気になるな?
「はい、アヤメ。そこまでよ。オードル様、貴方は偉大なる暗黒神様のご長男。それ故に、暗黒神様は人間界での行動を一任して参りました。‥‥これまでは」
「これまでは‥‥? 待て、これからは違うと言うのか!」
いや、オードル様。ここまでやらかして現状維持は無いと思う。ここまで負けっぱなしだからな、アルゼナと俺達に。というか、普通なら指揮官交代だよな。
「残念ながら、暗黒神様はオードル様を見限りました。以後は次男であられるボルガ様を邪神として任命されます。という訳で、ボルガ様どうぞ」
「うむ!」
ローゼリエさんの声と同時にやって来たのは、同じく肌の色が灰色の魔族だ。ただ、かなりのイケメンだったよ‥‥。うぅ、前世の記憶が思い出される。怨敵と一緒に行った飲み会。参加者はイケメンぞろいで、俺には女性が誰も来ずにボッチとなった悲しい思い出。
あの時は情けなかったなあ、今はまだ幸せなんだろう。その分、女性達をまとめる苦労はあるけど。まあ、ユイや師匠、リーザが助けてくれる分は楽になってる。彼女達には感謝しないとな。
「ボルガ、お前は何をしに来たんだ。じ、邪神の地位は渡さないぞ」
「兄上‥‥、ここまで堕ちてしまわれたか。実力を過信し、地位にすがり付く愚か者に。父上が呆れるのも分かりますな。『最早、子とは思わぬ。故に地位剥奪の上で処刑とする』と父上からのお言葉です。兄上、どうか安心してこの世を去って頂きたい」
兄の情けなさに頭を抱えるボルガさん。暗黒神が本来の神様であり、オードルは尖兵だったのか。それが失敗続きでボルガさんに交代という訳だな。正しい人事だ。しかし、処刑までするとは驚いたぞ! 魔族も人命が軽すぎじゃないか?
「パパが!? あり得ないぞ、我に優しくしてくれたパパがそんな事を言うなんて。何かの間違いだ、ボルガは嘘をついている。そうだろう!」
ええ! オードルの奴って、父親をパパ呼びなのかよ!! 大の大人が、しかも男でか。‥‥ねえ、オードル。アヤメが必死に笑いこらえてるぞ。信者に馬鹿にされて、どんな気持ちだ?
「兄上! まだ分からないか。アルゼナに負けたのは、仕方ありません。かの神は、神帝を除いた神の中では最強ですから。しかるに、ここにいるユウキ=ファルディスという人間に負けたのは看過し得ません。努力家で神帝にも認められる稀有な存在ではありましょう。しかし、彼以上の人々は大陸に多くいます。彼に負けて、どうしてその上にいる者達を倒せましょうか。いや、倒せる訳がありますまい!!」
ぬう、恥ずかしいやら悔しいやらで感情がおかしくなる。確かに俺以上の存在なんて諸国に大勢いるだろうしな。まあ、努力が認められたので良しとするか。しかし、オードルが哀れすぎるな。家族とかに、ここまで言われたら立ち直れないかもしれん。
「う、うるさい、うるさああい!! 我は暗黒神の長男にして、邪神オードル様だ! 我がこれより人間界を攻略し、その力をを!?」
「その力でなんだ、小僧? この俺に言ってみるが良い」
いきなり現れて、オードルにアイアンクローをかます男。す、すげえ。蒼〇航〇の董卓ばりの威圧感と迫力。そして、戦場で鍛え抜かれた鋼の肉体から放たれる殺気も尋常じゃない。‥‥駄目だ、ズボンが濡れちまった。くっ、足だけは、足だけは膝をつくものか!
「‥‥う、あ、なんで。な、なんでお前がここにいる! 恐怖の死神、殺戮の悪鬼、伝説の傭兵王ゴール=シュタイン!!」
伝説の傭兵王? ‥‥ま、まさか、大陸全土を駆け巡った傭兵団デスサイズシックルの元団長か!! 数多の人間や魔族、竜に神を倒した生ける伝説。団を解散した後は姿を消していたけど、まさかアヤメの父親だったなんて。
「お前の処刑人に俺が呼ばれたからだ。改心するならまだしも、自己弁護に徹するお前は生きる資格が無い。よって、これより処刑を行う」
「ま、待て。なんで人間のお前が我を殺す! 魔族にならまだしも‥‥」
いや、そしたら貴方の恥がばれますから! たぶん、失態を揉み消すんだろうな。魔族って誇り高い人が多そうだし。
「分からぬか? もし魔族が処刑を行うなら、お前の処刑理由を示さねばならない。神と人間に負けっぱなしという恥が世に出ててしまう。だが、俺が殺せばどうだ? 俺はお前を殺したと喧伝はせぬ。何故なら、弱者を叩きのめした所で何の価値もない故な。暗黒神からのせめてもの温情だ。心置きなく死ぬが良い!!」
「い、嫌だああ! 我は死にたくない、死にた‥‥」
そのまま力任せに顔を握り潰し、オードルを殺したゴールさん。だ、駄目だ、膝が折れちまった。頭はトマトのように潰れ、大量の血が吹き出す凄惨な死に様を見たら、異世界に慣れた俺でももう‥‥。
「ご主人様、大丈夫ですか? 私の胸を貸しますから、落ち着いて」
倒れそうになる俺をアヤメが背中に手を回して抱き止めた。柔らかいな、師匠やミズキとは違う柔らかさだ。サキュバスなのは驚いたが、肌を重ねると温かな血が流れている。アヤメも同じ人間なんだと安心するな。
「‥‥おい。そこのユウキとやら? 俺のアヤメに何をして、いだだだ!」
アヤメの肩越しから見えたのは、俺に近づこうとしたゴールさんがローゼリエさんに耳を引っ張っられているところだった。
「はい、はい。娘の恋路を邪魔したら駄目よ、ゴール。それに大したものじゃない。貴方の本気出した殺気と威圧を受けて気絶しない人間なんて、かなり珍しいでしょ?」
「ぐっ、確かにそうだが。しかし、娘は16歳だ。まだ女になるのは早すぎよう」
「やれやれ情けないわね。天下無双のゴールともあろう男が、娘の彼氏を潰そうとしないの」
夫婦漫才の様相を呈してきた2人に代わり、話しかけて来たのはボルガさんだった。疲れた顔をしているのを見ると、なんか苦労人っぽい気がする。これからが大変だろうな。
「ユウキ=ファルディス君、君に頼みがある。ここで起こった事は内密に願いたい。邪神オードルは傭兵王ゴールの怒りを買い、倒された。そういう筋書きで進めるからな。そして、私は人間界に裏から影響力を使う方策を取るつもりだ。暗黒教団など、いたずらに耳目を集めるだけだからな」
ふむ、教団による実力行使はせずに裏から支配する態勢に移行する訳か。まずいな、魔族の影響力が人間界に広がれば、いくつかの勢力がどう動くか予測出来ない。今は表面上穏やかだろうが、いずれ乱世になりそうだ。
「それに、ビトリア聖国の危険人物どもを動かすのに都合が良いからな。ユウキ君、君はナルム王国で聖女と会うだろう。その時、思い知るが良い。魔族以上の邪悪がこの世にいるとな。ローゼリエ! 私は父上に報告しにいく。後はまかせたぞ!」
そう言って、ボルガさんは去っていった。脅威とかの問題はさておき、邪神は彼の方が似合うな。そこで死んでるオードル何かよりは。
「はい、分かりました。さて、ユウキ君。私達とお話しましょう。おっと、その前に‥‥」
ローゼリエさんは、オードルの死体を炎の魔法で燃やし尽くした。うわあ、見事に骨すら無くなってる。敵だったとはいえ、なんかかわいそうになったな。ローゼリエさんは炎を消すと、次はゴールさんに手を当てる。
「おい! ローゼリエ、止めろ。俺を転移させ‥‥」
「ふう、ここからは母親と娘だけで話します。ユウキ君、貴女をアヤメの夫として認めるわ。ついてはお願いがあるの」
ゴールさん、すまぬ! しかし、お願いね。いったいなんだろうか。少し怖いが、アヤメの為だ。その願いを聞いてみるか。
次回、アヤメの能力向上。