第49話 さあ、惨劇の幕開けだ
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「があああ!! アリー様、助けてええ。熱で鎧が、鎧が脱げないよおお」
「がぼごぼっ、ぐぶっ! ‥‥‥‥」
「痛い、痛い、痛いぃぃ! あちこちかまれて、毒が‥‥。ぐばああ!!」
「骨があ、骨が溶けるぅ。鎧もぜん‥‥ぶ」
恐怖でアリーは青ざめているな。部下達が次々と死んでいくんだ、当然だろう。俺は奴等の重装鎧の中に、テレポートで色々な物を送り込んでいるからな。炎、大量の水、毒虫に硫酸だ。確実に死に至らしめるものばかり、さあ、アリーさん。どうする?
「き、きしゃまは悪魔、悪魔なの!? こんな、こんな殺し方あんまりじゃないか!! せ、正々堂々剣で‥‥」
「ぎゃあああ! 針が針が身体中に刺さってええ!!」
「なんか変な事を言う凡愚がいるなあ。盗賊稼業が正業たるナルム王国騎士団が正々堂々? 頼むからこれ以上笑わしてくれるな、小娘!」
「ぴぃ! わ、私を小娘とよ、よ、よ」
とうとう恐怖で声が裏返ったな。ナルム王国騎士団副団長と言えど、所詮この程度。まだ帝国8騎士や皇帝陛下、学院長の方がはるかに怖い。さて、更に地獄を見せようか。
「ナルム王国騎士団の諸君、俺の力はご覧の通りだ。君達の生殺与奪の権利は俺が握っている。だが、俺は慈悲深い。チャンスをやろうじゃないか」
「ち、チャンスですか?」
1人の騎士が恐る恐る尋ねてきた。素直な事は良いことだぞ、君。俺はあえて優しい口調で語り出す。
「簡単だ、そこのアリーとかいう女を殺せば良い。いかに強い女でも100人単位で襲いかかれば、楽に殺せるだろう?」
ふん、アリーの奴の顔が青を通り越して白くなってるな。だが、これで終わりじゃない。彼らにはもっと働いてもらう。こんな馬鹿を部下にしている親玉も潰してやる、徹底的にな!
「アリーを血祭りに挙げたら、次は騎士団団長だ。俺やユイ、ミズキと共に本陣を攻めてもらう。逆らっても構わんよ。ただ、その場合は今見た通りの死に様を迎える事になる。さあ、選択の時間だ! 服従か、死か!!」
怯えながらも右往左往する騎士達。恐怖だけじゃ従わせるには弱いか? ならば、次の1手だ。鞭の次は飴と相場が決まっている。
「‥‥なお、従うなら功績に応じて報償金を渡す。更に俺が認めた者はマヤ=ヴァンクリーブ第1皇女殿下の騎士団に推挙しよう。正騎士の資格だ、欲しくはないか?」
「だ、騙されるんじゃないよ! 10歳の少年にそんな権限がある訳がない。夢のような話で私達を騙そうと‥‥ぐはっ!!」
アリーの言葉を遮り、1人の騎士が彼女の体を剣で差し貫く。質問してきた騎士君だな、名前はクレス=バード。バード騎士爵家の長男で、許婚が騎士団団長の性的暴行により死亡か。殺る気が分かる理由だ。俺も恋人を侮辱されて、現にそうしているしな。
「お前らが‥‥、お前らが来たせいでネイは死んだ。騎士団の誇りも失われた。あげく、聖女様の怒りを買って、逃走だなんてうんざりだ。だったら‥‥いっそ!」
「わ、私を殺しても‥‥貴方達が助かる理由は‥‥無い! 聖女は騎士団を滅ぼすつもりよ。ねえ、ユウキとやら。怒れる聖女を貴方は止められるかしら?」
死にそうになっているのに、ふてぶてしいなアリー。だが、それなら打開策はある。いかに聖女も全員は殺せまい。行おうとしても、周りの人間が止めるだろう。聖職者も外聞を気にするからな。ならば‥‥。
「指揮官連中の首を差し出せば良いだけの事だ。特に団長、副団長の首は喜んで欲しがるだろうよ。残念だったな、アリー」
「そ、そんな。‥‥あ、あんた達何をしようとしているの!? 止めて、止めてええ」
クレス以外の騎士の剣が次々と刺さり、アリーの口からは噴水のごとく血が吹き出す。軽く30本近く刺さっているな。どれだけ恨まれていたかがよく分かるぞ。
「さて、アリー。残念ながらお別れの時間だ。恨むなら自分の迂闊さを呪うがいい。ユイ、頼む」
「はあい。じゃあね、アリーさん。獣風情に殺されたの、あの世で自慢すれば良いよ」
「ま、待って、謝るから。謝るから殺‥‥!」
言葉空しくアリーの首はユイに斬られ、鮮血が吹き出した。‥‥ようやく怒りが収まったな。副団長を倒せたのは大きい、伝令で本陣に伝えるとしよう。
「カーチスをリーザ=ビリナムが討ち取ったり! ウィルゲム卿とリーザ殿が本陣より出陣された。目標は敵本陣である。全軍、後に続き本陣を目指せええ!!」
と思ったら、伝令兵が戦場を走り大声で触れ回っている。そうか、リーザの奴やったのか。敵がいると言っていたが、まさか向こうから来てくれたとはな。どうやら、戦局の流れはこちらに傾いてきたらしい。
「ま、まさかカーチス様が討たれたとは!」
「あのリザ=ビリナムが帝国についたのか? エアリアル公爵家も裏切り、ロボック公爵家も破れた今、我々は帝国に降るべきだ。聖女様に殺されるよりはましだろう」
「も、もうダメだ。俺達は負けたんだ、降伏しよう」
おっ、戦う気力が見事に折れたな。これなら全員を戦力に使えそうだ。悪いが、使える奴か人格的に優れた奴以外はいらない。残りは存分に捨て駒として使わしてもらう。俺は神眼スキルを使用し、生き残った300名を調べる。巻物に人材リストが作成され、振り分けされていく。ふむ、使える人材筆頭はクレス=バード君ともう1人‥‥。
「アヤメ=ルビアスはいるか? クレス=バードと共に選抜した中核部隊50名を統率して欲しい」
「‥‥はっ、私はここに。拾って頂きました恩、必ずや功績にてお返し致しましょう」
黒い短髪にスレンダーな体、整った顔立ちを持つ彼女は無表情のまま一礼する。あまり人と喋るのは好きじゃないのか? ただ、ランクはリーザを越えるAなんだよな。なんちゃって副団長アリーはB+だ。役職無しの正騎士のままなのは、なんでだろう?
「君の実力はリーザすら越えている。そんな実力者が、どうして役職無しに甘んじているんだ?」
「‥‥今の騎士団で出世したくないから。粗暴な輩を殺していたら、アリーの下に付かされました。監視目的でしょうね。元傭兵団の幹部連中30人を婦女暴行の罪で斬りましたから」
大人しい顔してやる事が過激だわ。しかし、何だろうな。かもし出す雰囲気が男を寄せ付ける。男の心をざわつかせるんだよ。現に騎士団連中の男達が見とれているし。
「ある時、アヤメは団長に呼び出されたんですよ。そして、帰ってきたら副団長の隊に異動になっていました。女性騎士の比率が多いから、これ以上の犠牲者は出ないと思ったのでしょう」
クレス、処断しようにも強すぎて見逃したパターンだと俺は思うぞ。斬ろうにも腕利きを何人も失うか知れないし。女性であるアリーの下に置いて、人的被害を抑えようとしたのは賢明な判断だ。
「‥‥リーザ殿のように嘆いてばかりでは変わらない。現状を変えたいなら行動あるのみです。‥‥それに、無理やり女を抱こうとする男が、私は大嫌いなもので」
「珍しいな、アヤメがこんなに喋るなんて。普段はほとんど喋らないのに」
クレス君、やはりそうなのか。しかし、さっきアイスストーンで攻撃した時に部隊内にいなかったよな? これほどの強さを持つ騎士、神眼スキルで見逃さないんだが。
「なあ、アヤメ=ルビアス。君はさっきいなかったが、何処にいたんだ? 偵察任務でもしていたのか?」
「‥‥大きな音で目が覚めた。馬車が揺れて、荷物が落ちてきてとても痛かったです。馬車の外に出たら、阿鼻叫喚の地獄絵図でしたね」
「「「「寝てたんかい!!!!」」」」
すげえ、これは大物だわ。戦のただ中でサボタージュしてやがった。とはいえ、腕は確かだから採用するけどね。そうだな、リーザと一緒に行動させよう。彼女なら、アヤメのサボり癖を矯正出来そうだし。
「‥‥話はとりあえずここまでだ。クレス! エアリアル公爵家の軍に伝令。『降伏したナルム王国騎士団300名と共に敵本陣に突撃しましょう』と伝えてきてくれ。ユイは俺の側に、ミズキとアヤメは部隊指揮を頼む。クレスが戻り次第、行軍を再開する! 分かったか、諸君!!」
「「「「「了解しました!」」」」」
俺達も加わり、敵は3方向からの攻撃にさらされる事になる。普通なら詰むが、ダルザは歴戦の傭兵だ。何かしらの策は用意しているだろう。気を付けないとな。
次回、敵本陣崩壊。