第48話 奇襲部隊に、あ・い・つ
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「ユウキ兄ちゃん、見えてきたよ。本当にいたね、さすがは地元民のリーザにアルメアだ。西の森に兵を伏せてる可能性があるって、すぐに見抜くなんてさ。よし、早速攻撃だね。厄介な芽は早めに摘んでおこう」
俺とユイ、ミズキの3人は西の森を進んでいた。その訳はユイの言うとおり、奇襲部隊の撃退あるいは殲滅である。もし、ここから奇襲をかけられると、正規軍と貴族の私兵の混成軍たる帝国軍が大混乱になる可能性がある。
そこで、少数で敵を打ち破れる俺達が逆に奇襲をかけようと考えた訳だ。森を探索した結果、隠れていた敵が崖下に潜んでいたのを発見したのが現在の状況である。
「ユウキ、どうするの? 私とユイちゃんが仕掛けて貴方が止めを差す?」
「敵は気付いてないようだな。なら俺が先手をとる。ユイとミズキは下がっていてくれ。神帝様からもらった杖のおかげで、使える攻撃手段が増えたからな。ちょうど良い、実験台になってもらう」
俺はオルレアを右手に持ち、魔力を集中する。インベントリ内に収納していた、顔と同じくらいの大きさがあるアイスストーン。それが、100近く森の上へと出現した。どうやら敵が気付いてしまったか。ならば、早めに放とう。
「アイスストーン、目標敵部隊。行けええええ!!」
俺が放った魔法は敵部隊めがけて向かい、見事に着弾した。血反吐を吐き、倒れる者。鎧がへこみ、倒れて動かなくなる者が多数出たようだ。よし、第1段階は終わりだな。見れば衝撃音を聞いた味方左翼、エアリアル公爵家の軍も敵に気付いたらしい。隊列を整え、敵の攻撃に備え始めた。レイ、軍の動きが早いな。
「すごい。もしかして神帝様からもらった杖のおかげ? こんな戦い方を思い付くなんて、さすが私のユウキだわ」
「‥‥さりげなくユウキ兄ちゃんを自分の物アピールするのは止めてくれない、ミズキさん。ユウキ兄ちゃん、すぐに仕掛けよう。逃げられたら面倒だし」
「むぅぅ、私が言おうとしたのに。ちょっと、待ちなさいよ!」
口喧嘩をしながらも敵へと向かう2人。ミズキ、前世の感情と口調にもどりつつあるな。ミューズさんだった頃の口調も良かったから残念だけど、ミズキはこうじゃなくちゃな。2人の後を追い、崖を降りていくと敵部隊の7割近くが行動不能になっていた。‥‥ふむ、まだ制御が甘いな。更なる魔力向上と高精度の魔法操作を身に付けないと。
「ちっ、誰だい! こんな事をする馬鹿は!! 折角の奇襲が台無しさね」
なんだ、なんだ。見るからに体格が良い女性の傭兵が出てきたな。名前はアリー=マキス、騎士団副団長が奇襲部隊を率いているとは恐れ入る。
「どうも、こんな事をする馬鹿ことユウキ=ファルディスだ。あんたが部隊を率いる隊長だな? 悪いがさっさと死んでもらおうか」
俺はファイアーランスを5本作り出し、アリーに向けて放つ。着弾寸前、何者かが盾を構えて割り込んだのが見えた。炎が爆発し、辺りに広がる中で盾を持った騎士が立ち上がる。兜が外れた顔は見覚えのある顔で‥‥。
「ラング! こんなところで何をしている? あろうことか、帝国に弓を引くとはな。あの時、やはり止めを差していれば良かったか」
「う、うるさい! 俺を追放しておいて何を言う!! 俺はナルム王国騎士団の騎士として働いているんだ。ここで活躍して、見る目の無かった帝国の連中を見返してやるぞ。そして、今度こそ英雄になってみせる!!」
騎士? 確かにラングは冒険者として活動していたが、ランクはDーだったよな。普通は一般兵士でしか雇われないはずだが、何らかのコネでもあったか? ‥‥いや、ちょっと待て。
普通に考えれば、マルシアス様の逆鱗に触れてまで奴を使おうとはしないだろう。となれば、考えられる結論は‥‥あれだ。うん、やはり殺しとくべきだったわ。
「おい、ラング。お前は商家の販路の護衛とかしていたな。そこで得た情報を使い、輸送隊を襲わせたんだろう。上手くいったからこそ、騎士なんて分不相応な地位にいるんじゃないか?」
「な、何を言うか。こ、こ、この地位は自らの実力で取ったものだ。そんな事をして‥‥うわああ!!」
気付けば、ユイがラングに近づいて居合を放ったところだった。鮮やかな斬撃の雨により、ラングの鎧は斬り刻まれて残ったのは下着姿の貧弱ボーイ。うん、ユイさん。あなたは、どこの大泥棒の末裔!?
「‥‥つまらぬ物を、斬ってしまった。1度やって見たかったのよね、これ」
「ひっ、ひい。俺の俺の鎧がああ!!」
「無粋な物を見せないで、ユイちゃん。こういう輩は‥‥はっ!!」
駆け出したミズキの槍の動きは速く、あっという間にラングの胸を貫かんととする。だが、それを剣ではね除けた奴がいた。副団長か、たかが1騎士の為に何故そこまでする?
「はっ、勝手に殺してもらっちゃ困る。こいつはファルディス家の次男だ。上手くすれば金を巻き上げられるからね。まだ利用価値があるんだよ」
「そ、そんなアリー様。あなたは俺の力量を見込んで騎士団に入れたのでは無いんですか? だからこそ、俺はあなたの為に‥‥」
「はっ、世辞を真に受けるのかい? あんたの実力なんか、そこらに掃いて捨てる程にいる兵士と変わらないじゃないか。人質として使えるから囲った、それだけの事だ」
絶望するラングを見て、俺はつくづく思う。女運悪すぎだろう、と。弥生といい、アリーといい。ただ利用するだけの女になんで近づくのかね。‥‥でも、待てよ。俺も人の事は言えないのか? ユイと師匠、リーザは何とか上手く御する事が出来そうだが。マヤとミズキは‥‥ひっ!
「ねえ、ユウキ。今、私を面倒臭い女だと思って無かった?」
「いえ、いえ! 何をおっしゃいますやら。ミズキさんは素敵な美女でいらっしゃる。容姿も良いし、スタイルも抜群。頭も良ろしいし、最高の‥‥あだっ」
「‥‥ミズキさんを褒めすぎ、ユウキ兄ちゃん。正直面倒臭い女でしょうに。記憶戻ったら私と決闘沙汰。話し合いでは恋人を前面に押し出すウザい女だよ。安心して、私はユウキ兄ちゃんの言う事はどんな事でもするからね」
うん、ユイの狂信的な目が怖い。俺が命令したら、どんなに偉い奴だろうが殺しにいきそうなくらい。まあ、そんな事をさせないがな。ユイ、そしてマヤのおかげで前世で自殺せずにすんだんだ。恩義は愛情で返さないと。
「‥‥ユウキ。私と言うものがありながら、なんでユイちゃんと!」
「おい、ミズキ! 怒りの感情でラミアになってるぞ。落ち着け!!」
「痴話喧嘩は他所でやりな! 成る程、あんたらが帝国で噂になっている連中か。少年魔法使いがハーレム作っている噂は本当だったんだねえ。しかし、ラミアと獣人も囲うなんて根性あるのか馬鹿なのか。卑しい獣相手でも欲情出来るなんて、あんた変態かい?」
‥‥異世界でも人種差別があるとはな。人種や身分よりも実力を重んじるバージニル帝国はそうでもないが、他国はひどいところだと奴隷扱いされるらしい。全人類に差別するなとは言えん。俺は神様ではない、だがな!
「‥‥おい、そこのアマ。今なんて言った? どうやら、余程に死にたいらしいな。てめえの部下もろとも地獄に招待してやるぞ」
俺の愛する女性に対して言うからには、命のやり取り以外無いと思うな。おや、少し本気出しただけで震えるなんざ、なっちゃいないな。アリーさんよお。
「ひ、ひぃ。な、なんだよ。なんで餓鬼の癖に、こんな殺気を出せるんだい。おい、ラング‥‥。ラング、何処に行った!?」
いつの間にかいなくなってやがる。ラングの奴、逃げ足だけは速くなったな。まあ、分からなくはない。俺と戦って、ラングとルーの取り巻き連中は恐怖で俺に逆らわなくなったからな。あの時の記憶が戻って、逃げるしかなくなったんだろう。
「ちっ、相変わらず逃げ足だけは早い野郎だ。まあ、いい。まずはてめえからだ、アリー。今からたっぷりと恐怖を味あわせてやる。覚悟するんだな、10分位は‥‥持たせろよ?」
次回、奇襲部隊殲滅。




