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転生しても受難の日々  作者: 流星明
ナルム王国騎士団の落日
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第43話 報告即行動

お待たせしました。

「ほう、さすがだ。エレンス山の山賊どもをわずか1日で制圧するとはな」


「皇帝陛下、私達をおとりにしましたわね。どういうおつもりなのか、説明願いますわ!」


マヤさん、怒り心頭だな。確かに、何も言われずにおとりとされたら腹が立つぞ。俺達が派手に暴れたせいで、ナルム王国の国境警備兵とレイ率いるエアリアル公爵家の軍をエレンス山に集める事に成功。


後は手薄になった国境から8騎士含む帝国軍が侵攻した。と、言うのが現在の状況らしい。事前に考えていた作戦に俺達を放り込んだ訳だ。結論を言えば大成功だよ。


「ナルム王国の加担は、もとから分かっていたからな。マルシアスや騎士団などの代表者には既に補償等は済ませてある。しかし、ビトリア聖国は補償等は必要ないと言ってきた。『我々が罪深き者を浄化します。つきましては、バージニル帝国には検分の為に兵を出して頂きたい』と、それはそれは怖い笑みを浮かべた使者が来たゆえ、兵を出した訳だ」


「「「「「うわあ!」」」」」


浄化って、絶対に粛清コースだよなあ。宗教関連のそれが、えぐい事案になるのは歴史が証明しているし。火あぶりか、串刺しか、生き埋めか? 相手にするのが怖いな、ビトリア聖国は。出来れば避けたい相手だが、そうも言えないからな。


「皇帝陛下。レイ=エアリアルより書状を預かっております。まずは、こちらをご覧頂きたく存じます」


マヤから侍従へ、そして皇帝に渡される。皇帝は書状を読み進めると感心したかのようにうなずいた。そして、臣下達を見渡して話を始めた。


「レイ=エアリアルは大した人物よ。家の危機と見抜いて、譲れる条件は全て譲ってきたわ。我が帝国軍に対しての全面協力に加え、王都までの道案内までしてくれるらしい。更には、エアリアル公爵家所有の金鉱山まで譲渡するようだ。さて、どうしたものか?」


皇帝の問いかけに臣下達が応じる。いざとなれば俺達も参戦しよう。レイは教え子みたいだし、悪い人物じゃなさそうだしな。


「皇帝陛下。エアリアル公爵家はナルム王国でも指折りの名家です。かの家が降るのなら、多くの家の去就に影響を与えましょう。ここは取り込むべきです」


「はたして、そうでしょうかな? むしろ、エアリアル公爵家を除いた方が占領統治がやりやすいのでは? 影響力があるとなれば、かの家の意向をいちいち確認せねばならなくなりますぞ」


「しかり。エアリアル公爵家を除けば、広大な領地を得られる。新たな領土は、領地を持たぬ貴族らの不満を解消するだろう」


「待たれよ、皆様! かのエアリアル公爵家の先代の奥方は、皇帝陛下の叔母にあたられます。皇帝家と血縁関係にある家を安易に潰すのはいかがなものでしょうか?」


‥‥まさか、こういう場に混じるとはな。国家の舵取りをする会議なんて、映画にゲーム、漫画にアニメとかでしか見ていない。会議の経験なんて職員会議位だ。さて、上手く出来るかどうか。


「現場の意見も聞こう。マヤよ、そなたはレイと直接会っているからな。何か言いたい事があるか?」


まずはマヤか。確か彼女は芸術家方面から攻めるとか言っていたが、どうなる? 賛否拮抗しているが、何とか流れをこちらに引き込んで欲しい。


「皇帝陛下、私はエアリアル公爵家を残すべきと思います。理由は私事ではありますが、かの地の木材ですね。皆様が使われる家具や楽器等が、私が庇護する職人の手によって作られています。しかし、最近は最高級の物を提供出来ておりません。何故ならエアリアル公爵家産出の木材が輸入出来て無かったからです。もし、ここでエアリアル公爵家を取り潰せば、木材を産出する森に住む新緑の民との交渉が出来なくなるでしょうね」


「なっ、それは困る! 新しい楽器が欲しいのに」


「ぬう。今度家具を新調したいのだが、エアリアル産の木材を使えば映えるだろうなあ」


「むむっ、難題になってきたぞ。もし、木材の提供と家具や楽器の製造が滞れば大陸中の趣味人の怒りを買いかねん。逆に帝国の首を絞めかねんな」


‥‥あれ? 流れが明らかに変わったぞ。マヤさんって、想像以上に影響力あるんじゃないか? 皇帝は苦笑を浮かべてるな。こうなる事を予測していたようだ。


「ユウキよ、そなたはどう思う? マヤの意見で流れは決まりそうだがな」


ここで俺かい! くっ、緊張してきた。下手な事を言えば首が飛びかねないからな。会議の場が文官の戦場とはよく言ったものだ。よし、俺の意見を述べるとしよう。


「はっ、では申し上げます。私はエアリアル公爵家を残すべきと愚考致します。理由は3つ。1つ目はナルム王国出身の人材集めの為です。遠からず、ナルム王家はビトリア聖国の鉄槌を受けましょうが、仕える者達も処断の対象になりかねません。そんな時にエアリアル公爵家が残っていれば、彼らの受け皿となりましょう。上手くすれば有用な人材を帝国に連れて来れる可能性が出てきます」


や、ヤバい。冷や汗と動悸が止まらん。もともと俺はしがない一般ピープルよ。三国志とかの軍師みたいな意見具申は荷が思いっての!


「ふ、2つ目は分断統治の観点からです。エアリアル公爵家を厚遇すれば、他のナルム王国貴族はどう見るでしょう? かの家だけ豊かなのは何故だと不満を持つはずです。そこを利用します。有用な家にはエアリアル公爵家と同じ待遇を与え、無用な家、あるいは害をもたらす家は冷遇致します。そうすれば、元ナルム王国貴族内部でもめましょう。団結して反乱という危険性を減らせるかと」


分断して統治せよ。欧米列強が植民地支配でやってた方策を使わせてもらう。これなら、現地人の対立を作り出せるからな。占領統治が楽になるというものだ。ふむ、皆の反応は悪くないか。


「最後はマヤ様と同じ意見です。かの地は宝の山ですが、そこまで行くには我々では難しいようです。ならば、慣れている担当者を継続して使いましょう。その方が皆様の不安や焦りを解消出来ると考えますが」


つ、疲れた。これを荀文若や郭奉孝、諸葛亮に陸伯言なんかは日常的にやってたのか。胃に穴空きそう。酒とか飲まないとやってられんの分かるなあ。後でマヤ達5人を抱きしめよう。そうでもしないと精神がまずい。


「なかなか聞かせてくれるわ。良かろう、エアリアル公爵家は取り潰さず残そう。少し待て、勅命状を書く。それをエアリアル公爵家を攻めるウィルゲム卿に渡すが良い」


皇帝が書いている間に俺は巻物を広げ、ウィルゲム卿とエアリアル公爵家の軍がいる場所を地図に写し出す。突然現れた地図に皆が驚く中で、俺はある事に気づく。


「なあ、リーザ。この橋は狭いのか? 両軍が川を挟んでにらみあっているんだが」


「いえ、この橋はエアリアル公爵家の中心を走る街道の橋です。幅は広く、材質も硬い石材を使用していますから大軍でも渡れますけど」


ナルム王国人のリーザが言うなら間違いないな。となると‥‥。


「ふむ、だったら何故ウィルゲム卿は攻めない? 公爵側5000対帝国側20000の戦力差だから、ある程度の強攻策もできるだろうに‥‥。待てよ、レイ=エアリアルの居場所を示せ!」


案の定、両軍が陣取る岸の間にある橋の上にレイが居た。これが停戦状態の原因か。おそらく、俺達を信じて待っているんだろうな。ならば、俺達がする事は1つだ。


「ほう、面白い物を持っているな。この戦争が終わってから見せよ。さあ、余が書いた勅命状だ。テレポートで向かうとよい。吉報を期待しておるぞ」


「お任せを。師匠、一緒にテレポートを使って欲しい。2人で後1回が限界だろうから」


「分かったわ。では、マヤ様とユイにミズキさんとリーザさん。しっかり捕まって、ナルム王国に戻るわよ。あの場所は何度か通った事があるからすぐ行けるはずよ」


勅命を受けた俺達は再びナルム王国へと向かう。後から考えてみれば、これが大陸に広がる大戦争の始まりだったんだよな。この時は誰も気づかなかったけど。










次回、ルー外伝。戦争の影での企み。

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