第41話 その剣に宿りしは
お待たせしました。
「不本意ではありますが、彼らを捕まえられては困ります。ここを通りたければ、私を倒してから行きなさい」
大剣を抜いて身構えるリザ。その剣には揺るぎない殺気が込められていた。例え不本意な仕事でもやり抜くか。誇り高い騎士なのに、かわいそうな事になっているな。しかし、奴らを逃がす選択肢は無い。全員あの世行きにして、ナルム王国が行った悪行として喧伝しないといけないからだ。となれば‥‥。
「マヤとミズキは逃げた敵を追って殲滅してくれ。師匠は盗られた物資や証拠品の確保を頼む。ユイ、抑えを頼んだぞ!」
「「「「了解!」」」」
「えっ、ちょっと待って下さい。テレポート!?」
3人はすぐさま行動を開始。師匠のテレポートでリザの後方へ跳んだ後、彼らの追跡に入った。急展開にリザが慌てるも、すぐにユイが仕掛ける。
奇襲に近い居合斬りを間一髪でかわしたリザ。かわし終えるや、大剣をユイめがけて振り下ろす。地面が砕け、砂煙が舞い上がる。だが、そこにはユイはいなかった。大剣から逃れたユイは、リザに続けざまに斬撃を放つ。大剣を持ち直し、攻撃を受けるリザ。映画やアニメのような戦いぶりだが、現実なんだよな。平和な前世も遠くなったものだ。
「どうしたの? 相手を知らない時点で勝敗は五分五分になってしまう。って、昔の偉い人が言ってたよ? リザさんは油断が過ぎるんじゃないかな」
「くっ、このままだとナルム王国の秘密がばれてしまう。そこを退きなさい、ユイとやら! 私はあなた達と戦っている時間はありません」
「やれやれ。焦ってちゃ、大局を見誤るよ。私にとっては好都合、だけどさ!」
達人同士の戦い、もはや目が速さについていけていない。おっと、見物している場合じゃなかった。去就が定かでないのが、1人ここにいるからな。ここは敵か味方か立場を鮮明にしてもらおう。
「なあ、レイさんはどうするんだ? このまま、何もしない訳にはいかないだろう?」
「そうじゃのう。まあ、奴等は逃げても無駄じゃ。既に妾の率いる兵が山を囲んでおるからな。安心せよ、妾はユウキらと敵対する気はない。今も、そしてこれからもな」
意味ありげな笑みを浮かべるレイ。駄目だ、神眼スキルが効かない。性格や言動から推察するに、暗黒教団とは関係なさそうではある。ただ、底が知れないのが怖い。敵には絶対にしたくないから、方策は友好一直線だがな。女性陣が操られて、大戦争とか本当に勘弁してほしいし。
「妾は外にいる者達に連絡をつける。間違ってマヤ様やミズキとやり合ったらまずいからの。ここはユイで事足りよう? 後でまた会おう、不死鳥先生こと立野先生。相変わらず、苦労性じゃのう先生は」
「ちょっと待てい! 絶対に教え子だろ!? おい、無視していくなって」
頭を使っても思い出せないんだよな。あんな時代がかった話し方する奴はいなかったし、グラビアアイドル並の体型していた女子生徒もそうはいなかったしなあ。うん、あの大きな胸は至高。ミズキは究極‥‥のわ!!
「ユウキ兄ちゃん、なあに鼻の下伸ばしてるのかな!? 後でお仕置きするから、覚悟して」
「わ、私と戦っているのに他の心配ですか。私の相手をするのは、片手間でも出来ると言う気なの!?」
ユイさん、怒りのナイフ投げが炸裂。いや、顔スレスレなんですが!? 後少し軌道がずれてたら死ぬっつうの。あと、リザさん。残念ながらユイとは実力が違うから。
ユイはA+に対し、リザさんはAーだ。ランクは同じでも、A以上になれば実力に天と地程の差が出てくるからな。ユイとミズキはそろそろSランクに到達しそうだが、リザさんは最近Aーに上がったばかりみたいだし。
「実力だけじゃないけどね、リザさん。貴女の剣は迷い、魂が入っていない虚ろな剣だ。そんな剣じゃあ私には勝てないよ、絶対に!」
「ま、迷ってなんかいません。私の剣には誇り高い騎士たらん心が‥‥あっ」
ユイの刀がリザの大剣をバターのように切断。返す刀で首筋に刀を突きつける。って、おい! こっちに大剣が飛んできたぞ。なんとかかわしたが危なかったよ、ユイさん!
「上手く斬れたな。もし、リザさんが十全の力を出せたなら容易くは斬れなかったはずだ。ねえ、貴女は何の為に戦っているの? 今のていたらくを見れば、信念が揺らいでいるのが丸分かりだけど」
「っつ、ええ、そうですよ! 騎士たる私が山賊に身をやつし、守るべき民を傷つけている。諫言しても騎士団上層部も実家も取り合ってくれず、誰も助けてはくれなかった。わ、私は何の為に戦っているのか分からなくなって‥‥」
大粒の涙を流し、力無く膝を折るリザ。これは精神が限界に達するよな。ナルム王国騎士団はブラック企業か何かか? 騎士団長含めて酷すぎだぞ。よし、だったら‥‥。
「そこまで酷い所に留まる意味は無いじゃないか。だったら帝国に来ない? 暴走気味の姫様の抑え役が欲しかったんだよね。環境を変えれば、傷ついた心も治せると思うよ」
ユイさん、説得が早いよ。まあ、俺も同じ気持ちだがな。
「言いたい事を全部言われたな。リザさん、どうだろう。帝国に来てくれないか? 俺も色々と手伝うし、悩み事があれば相談にのるからさ」
「‥‥ですが、ナルム王国を裏切るのは」
「君の価値を正しく評価出来ない国に尽くす意味はあるのか? 本来なら騎士団にあるべき騎士を山賊にするような国に。1番許せないのは、リザさんが泣いている事だ。美人に絶望の涙は似合わないよ。君の笑顔を見てはいないが、美しいの‥‥痛い! ユイさん、話の途中でほほをつねらないでくれ」
「ユウキ兄ちゃんが口説いてるのが悪い、この女ったらし! そうやって、また‥‥うっ」
「ごめんな、ユイ。だが、リザさんもほっとけないんだ。昔の師匠やマヤ、何より大好きなユイと同じ境遇だからな。だから、頼む」
俺はユイを抱きしめて説得を試みる。壊れかけた3人の心も救えたんだ。リザさんも救いたい。と、顔の赤いユイがじっと顔を見つめてきた。不満もあるが、何とか気持ちを受け入れてくれたようだ。
「はあ、分かったよ。ただし、休みの日にデートしてね。言葉だけじゃなく行動で示して欲しい。あと夜の添い寝もよろしく」
「うっ、善処します。と、という訳でリザさん。どうだろう、帝国に俺達の所に来てくれないか?」
「仲が良さそうで何よりです。そう‥‥ですね。ナルム王国に対する忠誠心も無くなりましたし、よろしくお願いします。まさか、帝国の人達に救われるなんて。これで私も自由に」
そのまま、倒れこんだリザを慌てて抱える俺。張っていた気が切れたか。随分と苦労していたんだな。よく見れば顔にも疲労の色が濃い。休ませてあげないと。
「ユウキ兄ちゃんはリザさんをお願い。私は師匠さんの護衛にまわるよ。ちなみにだけど、リザさんが5人目の奥さんかな? 出会い頭、マヤとユウキ兄ちゃんの顔色が変わったし」
「そうだ。まあ、そうじゃなくても助けたがな。明らかに心が限界だ。俺も経験しただけに、あれを若い女性にさせたくない気持ちがある」
「だから師匠さんも助けた訳だ。相変わらずお人好しだよね。まっ、そんなユウキ兄ちゃんだからこそ好きなんだけど。じゃあ、後は任せるね。約束はお忘れなく」
ユイはそう言って、師匠のいる洞窟の奥へと向かっていく。さて、俺はリザさんを外に出して治療するか。出る頃にはマヤとミズキも仕事が終わっているだろうし。
次回、ユウキとレイによる幕引き。
リザ(リーザ)=ビリナム 16歳
ナルム王国騎士団生え抜きの中では1、2を争う実力者。しかし、そのせいで元傭兵団の騎士からは煙たがられている。盗賊活動の統括という心が折れそうな仕事をしていたが、ユウキにより救われた。
性格 四角四面の真面目な性格。仕事を生き甲斐としており、少々ワーカホリック気味。規律にうるさいが、厳しさと優しさを兼ね備えているからか部下には慕われている。ただ、上層部とは意見の対立もあり、険悪。
趣味 恋物語や官能小説の読書 妄想
スキル 大剣術 長剣術 馬術 指揮官 威圧 士気高揚 重装 カリスマ




