第40話 暗き洞窟の中へ
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「‥‥ねえ、ユウキ? どうしてあなたは行く先々で女性を捕まえてくるのかしら? しかも、私より胸が大きい女性ばかり。当て付け? 私に対する当て付けなのね! 仕方がありませんわ。こうなったら、私が開発した貧乳になる薬を‥‥」
「マヤ、危ない薬は没収する。それともう諦めよう。ユウキ兄ちゃんは無自覚な誘蛾灯みたいなもの。女性が寄ってくるフェロモンとか出してるかもしれない。私達で近づく蛾を排除しなきゃね」
「見せしめに再起不能にまで追い込みましょう。そうすれば、うかつに‥‥」
「だああっ、止めてくれ! 俺もこうなるのは不本意なんだ。神帝様でも変えられないのを変えるのは無理なんだよ!!」
やべえ、3人とも危険な兆候が出始めてる。食事だけだと駄目かもな。1人1人とデートして気晴らしさせよう。アルゼナの奴め、後で絶対に締めてやるぞ。
「アイラ、彼女達は?」
「‥‥私の恋敵です。説明しますと、ケルベロスを召喚して暴れさせた魔法使いがマヤ=ヴァングリーブ様です。刀も服も血塗れな獣人が、三族狩りたるユイ=リンパード。そして、血塗れの槍を持ったラミアがミューズ=アルセですね」
「「「ちょっと、紹介の仕方がひどくない!?」」」
絵面はひどいけど、3人とも傷ひとつ受けていないんだよなあ。しかし、明らかに過剰戦力ではあったが、山賊達が弱すぎないか? 被害を受けた中には、ファルディス家の商隊や騎士団、貴族の輸送隊もいた。彼らを倒せる傭兵なり、魔法使いなりがいると思ったんだが。
「ほう、暗黒教団を殲滅した強者ぞろいではないか。初めてお目にかかるレイ=エアリアルじゃ。よろしく頼む」
レイが自己紹介すると、ミズキとマヤが目を見開いて驚いていた。どうやら、彼女を知っているらしい。
「レイ? あの闇魔法の達人たる魔法使いなの! まさか、このようなところで会えるなんて」
「ちょっと、ユウキ! とんでもない人を連れてこないで。レイ=エアリアルは、人を操る魔法を得意とする人物。ナルム王国で最も警戒すべき‥‥」
突然、言葉が途切れたマヤ。近づいてよく見てみると目に光彩が無く、表情が消えていた。ミズキは慌ててレイから離れている。ふむ、これがそうなのか。
「フォッフォッフォ。皇女殿下よ、警戒する相手の前で喋りすぎじゃのう。どれ? ちょっと遊んでみるか。そなたの好きな男を好きになったきっかけを話してみよ」
「‥‥ゆ、ユウキを好きになったのは、学校で私が孤立してた時に親身になって話をしてくれたから。私はあまのじゃくで言葉使いが悪かったから、皆と上手く付き合えなかったわ。本当は皆と‥‥。くっ、やめて! 私の心に入って来ないでよ!!」
強大な魔力がマヤの体から発現し、魔法が解ける。レイは薄く笑みを浮かべながらも優雅に頭を下げた。
「誠に申し訳なかった。だが、皇女殿下は自覚しているからこそ成長が出来ておる。貴聖学園の女帝も存外かわいいところがあるの。そうであろう? 剣道部の鬼に、不死鳥先生」
「「「なっ!!」」」
「さて、話をしすぎた。早く洞窟の中へ入ろうぞ。恐らく、真の黒幕は中にいるはずじゃ。いくらなんでも、表の連中は雑魚すぎじゃからの」
おい、そのあだ名は止めろ! うつ病諸々の復活劇から生徒に呼ばれるようになったが、恥ずかしいにも程があるから。とはいえ、俺とマヤ、ユイをレイが知っている。
だれだ? 可能性としては、教え子か先生としか考えられない。そんな俺達を尻目に、レイは洞窟へと入っていってしまった。
「ねえ、ユウキ。彼女、もしかして私達と同じ天命人なの? マヤさんとユイちゃんを知っているなら、あなたの事も知っているわよね」
ミズキも気づいたか、これはややこしい事になったぞ。敵国に俺達の知り合いがいるんだからな。俺達の素性が漏れたらまずいのは、同じ飛行機に乗っていた連中に利用されかねんからだ。
善意を持つ者だけなら良いが、悪意や自分の利の為に利用しようとする輩もいるだろうからな。災いの芽は早めに摘むべきか。
「どうする、ユウキ兄ちゃん? 今だったら山賊に殺された事にして殺れるけど」
「私もユイに賛成ね。彼女の力は危険だわ。ここで会ったのは、千載一遇の好機。仕留めましょう」
「私もマヤさんとユイちゃんに賛成」
「ま、待って! レイは信頼出来る女性よ。手紙でやり取りしてますが、心優しい女性なの。‥‥それに、私の数少ない親友の1人だったから」
師匠以外の殺る気がすごいな。確かに殺せば簡単に片付くだろうが、問題は彼女の余裕だ。俺達と敵として対峙するなら恐れがあるはず。それがまるでないんだからな。もしかしたら、俺達以上に強いのか?
考え込んでいると洞窟の奥より、悲鳴と怒号が響いてくる。おい、レイの奴戦い始めてるじゃないか。まずい、出遅れたな。
「て、てめえ。この魔剣使いたるシーザー様を敵にまわすなんて良い度胸だ。相手になってやるぜ、勝った後も色々とな。ぐっへっへ、良い胸と尻をしてるじゃねえか」
「ふむ、弱そうじゃなあ。これが盗賊団の切り札か? だとしたら残念至極じゃのう。どれ、試しに」
「あっ、あっ、あああ!! 蛇が、蛇が襲って。来るな、来るなああ。あがっ!」
「だ、駄目だあ。シーザーがやられた。なんで、レイ=エアリアルがいるんだよ! 俺達は味方のはずだろう?」
俺達が駆けつけるとイキっていた傭兵が黒い蛇に噛まれてあの世に逝ったところだった。えっ、こいつが山賊団最強なのか? 拍子抜けもはなはだしいぞ。にしても、山賊連中の怯えかたがひどいな。味方とか言ってるし、これはナルム王国との繋がり有りと確定だな。
「貴様らと一緒だと言われたくないわ! 民を苦しめ、下手すれば戦争を引き起こす愚か者め。妾が直々に成敗してくれるわ」
「せ、先生。先生! 早く来て下さい。このままじゃ、やられちまう。助けてくれえ」
「‥‥はあ、こうなるから止めてとさんざん進言したのに。欲に目がくらんだ愚者には先が見えないか。あなた達はさっさと逃げなさい。後は私がなんとかしますから」
山賊達の中から現れたのは、場違いにも程がある騎士の女性だった。美しく長い金髪に加え、高い知性が見える緑の瞳。道を歩けば10人中、10人が振り向く美女だ。
身につけた銀色の鎧と背中に帯びた大剣は相当な業物だろう。どうやら、レイは知っているみたいだな。少し驚いた様子で彼女に尋ねる。
「リザ=ビリナム! どうして貴女がこんなところに? 誇り高きナルム王国騎士団の一員でありながら、このような蛮行。どういう料簡じゃ!」
「‥‥どうしてでしょうね? 実家といくつかの貴族家が金儲けをするから力を貸せと言われて来てみれば、山賊の真似事でした。しかも、騎士団も認めているというではありませんか。私は、私は何のために騎士になったのでしょう」
美人は涙を流す姿も美しいな。いたっ! おい、ユイさん。足を踏んだ挙げ句に睨み付けないで。見れば、師匠やマヤ、ミズキもにらんでるし。なんで勘が鋭い女性ばかり周りにいるんだよ。と、とりあえず話を聞いてみるか。だって、神眼スキルで見てみたら、こんなの出たんだもの。
『リザ=ビリナム。ビリナム男爵家の次女で、ナルム王国騎士団第4位の実力を持つ騎士。その高潔な心と剣の実力が騎士団上層部に疎まれ、左遷。現在は対バージニル帝国の責任者として山賊達を率いている。精神的に限界で壊れる寸前。神様コメント。おめでとう、ユウキ君の5番目の奥さんです。しっかりしてるから、マヤちゃん達の抑え役に適任だよ。真面目すぎるから、ユウキ君が優しくフォローしてね!』
次回、リザとユイの決闘と山賊始末。




