第4話 ナージャとアイラの強烈姉妹
俺は夢を見ている。草原の真ん中にポツンとある1本のリンゴの木。腹が減った俺は、枝から実ったリンゴを食べようと手を伸ばす。だが実は柔らかく、なかなかちぎれない。しかし、妙に柔らかい実だよな? ちぎろうと更に俺が更に力を込めて握ると‥‥。
「ああっ、もっと!」
リンゴが女性の声を発し、驚いた俺は夢から覚める。目を開けると眼鏡をかけた紫髪の女性が一緒に寝ており、何やら悶えていた。おそるおそる視線を下げれば、俺の手が握っていたのは彼女の形が良い胸‥‥。
「って、うわああ! 師匠、何してるんですか!?」
「何って、ユウキに私の胸を揉ませてるのよ。うん、今度は直に触らせようか」
ローブの中に俺の手を入れようと画策する変態教師。そこから、慌てて手を離す俺。彼女こそ、師匠のアイラ=ファルディスだ。こう見えて、大陸で5本の指に入る時空魔法の使い手。丸みショートな紫髪と男勝りな性格も相まって、帝都の淑女達に人気の女性でもある。もっとも、俺の前だとかなり女性らしくなるけどね。
そんな師匠のおかげで、俺はテレポートやインベントリといった上級時空魔法まで扱える程に成長出来た。そこは感謝しているが、最近スキンシップが過激化しているのが非常にまずい。
「俺、まだ10歳なんですが!? 先生が教え子に手を出すって、ある意味事件でしょ!」
始めは手を握る位だった。次に胸をわざと体に当てる、下着姿で俺の前をうろつく。遂には今のようにベッドへ潜りこんでくる始末。これが日本だったら、ゆゆしき事案である事は間違いない。
「なんだ、そんな事ね。私は今年で17歳だけれど、年齢差のある夫婦は大勢いるわ。それに私は学院の教師じゃない。倫理を守る必要なんて無いわね。‥‥という訳で、ユウキ。キスさせて!」
そう言って、師匠は俺の唇を奪った。‥‥うん、奪ったで間違いない。だって舌まで入れて、口の中まで蹂躙するんだもの。肉食女子にも程があるだろ! 焦る俺を尻目に押し倒す師匠。
‥‥あっ、駄目だ。獲物を狙う獣の目になってる。 娼婦で経験はしているものの、師匠を抱くのはまだまずい! 他の家族より、師匠とは許可するまではするなと厳しいお達しがあったからな。怖い人達との約束を破るのは駄目だ。
しかし、彼女は止まらない。俺のズボンに手をかけて脱がそうとするその時。異世界での素人童貞を奪われそうになった俺の前に、救いの女神が現れた。
「朝っぱらからユウキを困らせないの、この馬鹿妹! まったく、もう少し恥じらいを持ちなさいな。まあ、ユウキと出会ってから男嫌いを返上出来て何よりですけれど」
師匠の頭を彼女の杖で思い切り叩き、ベッドから引きずり下ろしたのはファルディス家当主ナージャ=ファルディスその人だった。類いまれなる女傑と知られ、ファルディス家を帝国随一の商会に押し上げた才覚の持つ主だ。
極めて扱いづらい師匠を、こき使えるという余人には為しがたい事をやれる。その一点も含めて、家中の人々から畏怖の念を抱かれるのは当然と言えた。
「痛いよ、姉さん。私はただ、ユウキを私の男にするために頑張って‥‥」
師匠、普段使う男言葉に戻してる。いつの頃からか、俺に対してしか女性らしい話し方をしなくなった。家族に対しては普通に接しても良いと思うんだが。あんな事を幼い時に経験すれば、どうしても心の鎧を着てしまうか。
「あまり、がつがつすると逆に嫌われますよ。ユウキ、昨日は騒がせてしまってごめんなさいね。あのネックレスを影達が奮起して探索したおかげで大変な目にあったでしょう」
「‥‥2人が死に、血まみれになった部屋まで建物ごと燃やされましたらね。正直怖すぎました」
日本だったら全国ニュースで流される程の凄惨な現場だったからな。まあ悪いのは、あの2人何だけどね。建物は完全に焼失し、3人の死体は骨まで無くなっていた。先に死んでいたスリの婆さんも巻き添えだ。つうか、どんだけ強い火の魔法を放ったんだよ!
「本当にごめんなさい。お詫びと言っては何だけど、杖とローブを贈るわ。それとあなたにファルディスの姓を与える。この事は朝食の場で皆に発表するから」
とても申し訳なさそうに言いながら、ナージャ様がとんでもない事をしてきた。杖とローブはまだ良い。だが、ファルディス姓を俺が名乗るのはどうなんですかね!? 色々ともめ事の原因になる気がするんですけど!
「ち、ちょっと待って下さい。私は貧民街出身の孤児ですよ。そのような事をすれば、反対する者もいるでしょう。ナージャ様の子供達とか‥‥」
「既に根回しはすんでいるわ。隠居した父と母は喜んでいるし、夫も認めているの。それに‥‥どうせアイラと結婚するのだから、早めに姓を与えても問題無いわ。あと、私の子供達に拒否権は与えないから心配しなくても良いわよ」
「姉さん、ありがとう! 私、絶対に幸せになる。一生お前を養ってあげるからな、ユウキ」
うわあ、この姉妹は確実に外堀を埋めにきましたよ。断れる類いの話じゃないから仕方がないけどな。このまま師匠とは確実に結婚させられるだろう。‥‥まあ、知ってたけどさあ。だって、神眼スキルで師匠を見たらとんでもない情報が出たんだから。
『アイラ=ファルディス。上級時空魔法使いにして、ファルディス家の輸送の3割を担う人物。男は大嫌いであるが、家族と使用人。そして、何よりユウキにだけは親しく接する。女神コメント。おめでとう! ユウキの将来のお嫁さん1人目です。一途かつ少々ヤンデレ気味なので、下手な浮気はご法度。下手すると監禁されるかも? ‥‥まあ、強く生きて下さい』
ちょっっとおお!! 師匠がヤンデレって時点で引いてるのに、監禁までされるって命の危険ありすぎるじゃないか。俺を裏切らないのは良いけれど、下手に女性と仲良くしたらヤバイな。‥‥その女性と俺の命が危ない。
「あっ。レムは命乞いしたとしても、容赦なく首を落とせと命じたのは私だからな。お前に近付く、うっとうしいコバエを潰せて清々したぞ。お前に近付く害虫は、これからも私が処理してあげるからな」
「カ、カゲキナコト、ヤメテグダザイ。師匠、お願いですから学院生には手を出さないで! レムは実害があるし、犯罪者だから良いとしても、学院生には貴族の子供もいるんですから」
既に殺ってたよ、師匠! 駄目だ、師匠には権力も実力も備わっている。本気だしたら、そこらの女性は潰されるな。まあ、彼女に勝てる位の実力か権力を持つ女性ならワンチャンあるか? って、そんな女性。この辺にはいないよなあ。神様は嫁4人とか言っていたが、どうなるんだろう。うっ、修羅場を想像したら寒気がしてきた。
「そうか。ユウキは今月、魔法学院の試験を受けるんだったな。学院に通うとなれば女性生徒との付き合いも出てくる。そうだな、誰かを見せしめにして私の男だと知らしめ‥‥」
ちょっと、ちょっと! なんか物騒な事を言ってますよ、師匠。犠牲者が出る前に何とか止めないと。ここはナージャ様に頼むか。
「ナージャ様。師匠を止めないと学院生活に色々と支障が出そうなんですが」
「‥‥はあ。ユウキ、安心なさい。暴走しそうな時は私が止めますから。アイラ、おいたをするならカエル尽くしの穴に招待しますからね。今度は大きなカエルを‥‥」
「い、イヤアアア!! それだけは止めて姉さん。あの姿をユウキに見られたら、私がお嫁にいけなくなるからああ」
師匠の苦手なカエル。原因はナージャ様のお仕置きにあった。小さい頃はイタズラ好きだった師匠。イタズラに時空魔法を使い、使用人達を困らせていたらしい。そんな中でナージャ様が荒療治に出る。魔法を封じた状態で、師匠をカエルが密集した穴に蹴り落としたそうだ。結果、師匠は体の穴全部から液体を垂れ流し気絶したらしい。以来、ナージャ様には絶対服従なのだとか。
かなりやり過ぎな所があるよなあ。師匠が引っ込み思案になった原因は、間違いなくそれだし。彼女達は仲が良いように見えて、水面下では良く思っていない部分が多少ある。少しでも俺が仲良く出来るよう、力にならないとな。
「分かってるわよ。あの後、やりすぎだと両親と爺にこっぴどく怒られたんだから。くれぐれもアイラも自重なさいね。貴方が暴走しなければ、そんな事はしないのですから。さて、2人とも朝食に行くわよ。皆が私達を待っているわ」
ナージャ様が部屋を出ていくと、師匠は深いため息をつく。
「‥‥ナージャ姉さん。美人な上にファルディス家当主だなんてうらやましいな。女らしさがあまり無い私には時空魔法しか‥‥んんっ、ん!?」
俺は暗く落ち込んだ師匠の唇を強引に奪い、体を強く抱き締める。全くこの娘は何も分かってないな。唇を放すと、俺は彼女の瞳をしっかり見て思う所を語る、ら
「幼い頃はお姫様かと思う位に可愛いかったし、今も素敵な女性です。もっと自信を持って下さい、師匠。俺にはナージャ様よりも輝いて見えますよ?」
「ゆ、ユウキ。ありがとう、本当にありがとう! 私は貴方にふさわしい女性になるわ。だから、お願い。私を捨てないでね」
嬉し涙を流す師匠を抱き寄せながら、俺は思う。魔法と素敵な師匠を得たけど、色々と失った物も多い気がする。しかし、後戻りは出来ない。師匠の為にも俺はファルディス家の一員として頑張らないといけないからな。ただ、嫌な連中と家族になるのは気が滅入るがね。今日の朝食、波乱含みの展開になりそうだ。
次回、ファルディス家の家族とご対面。
アイラ=ファルディス 17歳
帝国有数の商家たるファルディス家の次女。姉のナージャとは18歳違いである。とある神様のお告げを聞き、両親が夜にハッスルしてしまった結果、生まれた。
過去に強姦されそうになった事があり、極度の男性不信と恐慌状態に陥る。しかし、献身的なユウキによって壊れかけた心を取り戻す。以後、ユウキのみを愛するようになり、彼が目の前からいなくなる恐怖と日々戦っていた。ユウキに対する依存心が高く、彼を傷つけようとする者を容赦なく蹴散らす。
趣味 観劇 料理 ガーデニング
スキル 時空魔法 光魔法 高速詠唱 消費魔力量減少 魔力増強 交渉術 杖術 勇気 鑑定