第38話 主導権は誰の手に
お待たせしました。ケビン視点での話です。
うぅ、胃が痛え。いくつもの修羅場を潜ってきたが、ここまでヤバいのは初めてだぞ。場所を庭にして正解だったぜ。屋敷だと調度品なんかが壊れかねないからな。
「‥‥さて、ミューズさんじゃないわね。秋月瑞希さんが、何・故・か戻って来ましたので緊急会議します。この話し合いで、今後どうなるかが決まります。意見や要望は、可能な限り全て出して下さい。いいですね、皆さん? まあ、手っ取り早いのは戦う方が‥‥」
「皇女殿下、やめてくれませんか? 庭園が更地になりますから。まずは話し合いでお願いします」
「分かっていますわ、ケビン。まずは元凶たるミズキさん、発言どうぞ」
皇女殿下が司会か。明らかに不機嫌なのは、ミューズがミズキとやらだったからか? ユウキの前世における恋人だったからとの事が原因らしい。やれやれ、アイラお嬢様も苦労しそうだな。まあ、俺達はお嬢様に味方するけど。相手にするのが怖すぎる面子ではあるが‥‥。
「‥‥なんで、なんで3人も恋人がいるの? 昔は私だけのユウキだったのに」
「先に死んだミズキさんが悪い。いつまでも死んだ女性を忘れられないのは精神的にも辛いんだよ。だから、ユウキ兄ちゃんが幸せになるよう見守って欲しかったな」
「そうですわね。死人は黙って、天上から見守って下されば良かったのに」
いきなりぶっこむなあ、皇女殿下とユイは。しかし、ミズキは独占欲が強い女のようだ。他の女性陣をかなり敵視してるみたいだからな。かなり個性的な女性達だが、ユウキは上手くまとめられるのかね?
「ふ、ふざけないで!! 私は、このようにまだ生きてるわ。だから私もユウキの側にいます。ただ見守るだけだなんて、絶対に嫌!」
「はあ、過去の女が帰ってくるなんて考えもしてなかったわ。ですが、ミズキさん。いまや、ユウキは個人で囲える男ではありません。前世と同じ感覚で考えられても困りますわよ」
「うん、うん。私だけのユウキ、だなんて妄想は止めてくれる? それに、更に1人追加で女性が増えるみたいだし。いい加減、独占は無理だって実感しなきゃ」
「そ、それは分かっています。でも、私はユウキにとって初めての恋人です。ここは考慮して頂きたいのですが」
へえ、そうだったのか。なら、皆の焦りようは分かるな。ユウキと長い事一緒にいたんだ。彼女達が知らない事も多いだろうしなあ。
「関係ないよね、そんな事は? 前世ではなく今世を生きているでしょ、私達は。恋人だったから特別扱いしては受け入れられないよ?」
「ユイさん、私と貴女は違うところがあります。私は結婚を前提に付き合っていました。しかるに貴女は? ただのお隣さんじゃ‥‥きゃ!!」
「だから何? ユウキ兄ちゃんを想う気持ちは、あんたなんかに負けてない。‥‥そのよく回る舌を切ってあげようか?」
「‥‥顔を傷つけるだなんて、ユイさん。あなた、命が惜しくないみたいですね」
おい、ユイ。ナイフを投げるな、ナイフを! 見れば、ミズキの頬を傷つけた後、木に深々と突き刺さってるじゃねえか!! しかし、アイラお嬢様は発言してないな。雰囲気に飲まれてなければいいが。
「ユイ、落ち着きなさいな。初めての恋人という古くさい代物を金看板に掲げる女です。本気を出してどうするんですか‥‥ひっ!!」
「皇女殿下? 口の聞き方に気を付けて下さい。今の私は抑えが効きませんよ?」
「ふっ、事実を言ったまでですわ。ミズキさん、さっきまでの余裕はどこに言ったのかしら? 動揺まるわかりですわよ」
ミズキーー!! 皇女殿下に何をしてんだ! 槍で顔のすぐ側を突くんじゃない。お髪が切れてるぞおお! まずい、一触即発の状態だ。これは下手すると戦いになりかねんぞ。いざとなったら、部下どもを突入させるが止められるか?
「‥‥み、皆、落ち着いてくれ。言い争うのではなく、妥協点を見出だすのが今回の話し合いだろう? だから‥‥」
「「「あぁぁん!?」」」
「ひっ! だ、だから落ち着いて。傷つけあえばユウキが悲しむわ。み、皆さんもユウキの悲しむ顔を見たくないでしょう?」
「‥‥おい、そこの3人。アイラお嬢様に手を出したら、部下もろとも犠牲を顧みずに戦うからな? よく考えて行動しろよ?」
「「「ひぃ!!」」」
すげえよ、アイラお嬢様。あの3人の殺気に耐えて発言するなんて。俺の脅し文句の効果はあったようだな、皆バツの悪い顔をしているし。気になるのはアイラお嬢様が男言葉を使わなくなった事か。精神が限界に近い証拠だな。早めに終わらせないと倒れるかもしれん。
「‥‥ふう、アイラさんの顔を立てて話し合いを続けよう。まずは、夜についてだね。既に年上のお姉さん方は最後までしてる訳だけど、私とマヤはしてない。とはいえ、年齢的にまずいから最後までする気はないけどさ。添い寝位はさせてくれるよね?」
「そうですわね。お2人は抜け駆けなさったのですし、それ位は認めてもらいたいですわ」
2人の主張は正しいか。まあ、アイラお嬢様の件は俺達も加担したから文句が言えねえし。問題は抜け駆けした2人がどうするかだが。
「まだお2人は幼いでしょう。間違いがあってはなりませんし、受け入れる事は出来かねますね」
「そ、それ位ならいいです。皇女殿下とユイにも我慢を強いるのは良くないですし。私がユウキの側にいれるんでしたら構いません」
「「えっ、良いの!?」」
おお、意見が割れたな。とはいえ、アイラお嬢様が認めるとは思わなかったが。皇女殿下とユイも驚いてるし。自分以外の事を考えるようになったのは成長してるって証だろう。
「な、何を言ってるのよ、アイラさん! ようやく得た有利な状況を捨てるだなんて」
「ミズキさん、私達はユウキの事を考えずに‥‥その、してしまいました。後悔はしていませんが、ユイさんとマヤ様は焦りと怒りを覚えたはず。ここは彼女達にも分け与えないと、いずれ不満が爆発しますよ? そうなったら帝都は‥‥」
‥‥破壊と絶望の未来しか見えねえな。皇女殿下とユイが暴れだしたら、帝都が半壊しかねない。さて、ミズキ。頼むからアイラお嬢様の提案を受け入れてくれ。それが平和への第一歩なんだよ!
「うぅ、分かりました。ここで折れないと後が大変でしょうし。添い寝位なら認めます」
「‥‥なんとか、難題がまとまりましたか。約束は必ず守ってもらいますわよ。では、次の議題。私の離宮に移る件ですが、私としては受け入れはすぐに出来ます。むしろ、受け入れさせて下さい。ユウキの側に私もいたいですから」
確かに皇女殿下からすれば、そう言いたいだろう。だが、あいにくファルディス家もそう簡単には譲れないんでね。マルシアス様からアイラお嬢様に、引っ越しを止めるよう命令があったからな。
「そ、その件については保留にして欲しいです。時期は学院卒業までで。理由は、お父様がまだ手放したくないと言われてまして」
「だろうなあ。マルシアス様からしたら、私達を手離すのは損が大きいからね。ところで、師匠さん。なんで男言葉じゃないの? いつもなら話をする時に使っているのに」
「‥‥だ、だって、虚勢を張れる相手じゃないんですもの。狂暴な獅子や熊、狼の中に猫が入ったような感じよ?」
ああ、やはりそうだったか。今までは実力で黙らせる事が出来た相手だが、今回は相手が悪すぎるからな。俺でも出来そうにないわ。
「猫? 貴女は何を卑下してるのかしら。私とやりあう魔法使いが、そんなやわじゃないでしょうに。‥‥で? どうして私の邪魔をするの、アイラさん? 余程、死に急ぎたいのね」
まずい、氷のような冷気が皇女殿下から放たれてる。さすがのミズキも殺気のただ漏れにドン引きしてるな。気にしないのは、ユイくらいか。意外と大人物じゃないか、あいつ。くそっ、さっさとユウキ戻って来い!!
「やっと、マルシアス様との話が終わっ‥‥。え~~、うん。お邪魔しました~~!!」
「逃げるな、馬鹿野郎!! 自分の女の問題だろうが!」
いかん、つい拳骨を喰らわしてしまった。逃げたいのは分かるが、解決しないと死人出るから仕方がないよな? 頼むから説得してくれよ、ユウキ。
次回、ルーの外伝です。マイカとルーの共同事業がスタート。