第37話 これからの道
お待たせしました。
「話は聞いたが苦労が絶えぬな、お主は。ミューズではなく、ミズキだったか? かつての恋人が戻って、修羅場とは。アイラも怯えておるが、大丈夫なのか?」
あの後、皇女殿下もやって来て4人でにらみあってましたからね。ケビンさんが話し合いを提案したおかげで、なんとか収まったけどな。いつ、爆発するか分からないから怖い。
「今、女性陣が話し合いをしております。内容は想像するだけでも怖すぎるんですが」
「‥‥今、ケビンが付いているから滅多な事は起きまい。あやつがこの家で唯一本気の彼女達とやりあえそうだからの。そんな男からの伝言じゃ。『酒の2、3本はおごってくれや』との事だ。その苦労ゆえにおごってやれ」
はい、2、3本じゃなくてもっと渡しますとも。そういえば、ナージャ様達はどうしたんだろうか? さっきから見かけないんだが。
「マルシアス様、ナージャ様達はいかがされましたか?」
「ふっ、奴等ならとうに逃げ出したわい。今、屋敷に残っておるのはジェンナだけじゃな。まったく、もう少し肝が太いと思っていたのだが情けない」
「いやあ、さすがに怖いですって。俺は慣れてますから良いですけどね。マルシアス様達も避難なさった方が‥‥」
4人とも同世代はもとより、騎士団や魔導師団の中に入れても上位クラスだからな。そんな4人がやりあうんだから逃げ出したい気持ちは分かる。マルシアス様達も逃げた方が良いと思うんだが。
「人間はいつか死ぬもの。それが今日か明日かなどは誰も分かるまい。それに、アイラが頑張っておるのに親たる我々が逃げる訳にもいくまいて。さて、わしらも今後について話すとしよう。ファルディス家を出てマヤ様の離宮に引っ越すと聞いたが真か?」
「はい。マルシアス様達の恩情には感謝しております。しかしながら、アルゼナ神いわくルパート様やロイ様は俺達を警戒しつつあるとの事です。お家騒動になる前に離れた方がファルディス家の為になると思いまして」
お家騒動が起きて、家が傾いたなんて話は昔からよくある話だからな。だったら先んじて原因を取り除く。幸いあの駄女神が教えてくれたのだから、行動は早い方が良いだろう。当の本人は、お仕置き部屋に行っているが。
「確かに一理あるがな。しかし、わしはユウキ達を出す気は今のところ無い。理由は2つ。1つ目はユウキ達を手離す方がファルディス家の為にならんからだ。まだ受け入れて1ヶ月もたっておらんのに、家を出られるとなればファルディス家の器量を問題視されかねん」
確かにそうだよな。しかも、俺達はかなりの実力者だ。そんな自分達が1ヶ月で去れば、待遇面で問題があるのでは? と、考える輩が増えるだろう。これからの人材登用に支障を来すのは間違いないか。
「2つ目は、これ程の実力者がそうはいないと言うことじゃな。時空魔法使いのアイラとユウキはもとより、ユイとミズキも強き戦士だ。ラングの愚か者よりもはるかに強い。そんな4人がいるとなれば、ファルディス家にも箔がつくというもの。だから、学院卒業まではここに止まってもらいたいのだが、どうだ?」
「‥‥しかし、ユイやミズキを狙う不届き者が多いと神より聞きました。彼女達の身の安全が心配ですし、ファルディス家にもご迷惑をかけるかも知れませんが」
下手をすれば、ファルディス家の人々に危害が加わる可能性を俺は示唆する。暗黒教団や盗賊ギルドを相手にするのはリスクも大きいだろうし。だが、それをマルシアス様は一笑にふした。
「我が家を狙うものなど昔から多かった。今さら少し増えても大丈夫だ。それに、ナージャ達にも良い経験になろう。そこで死んだとしても運が無かったと諦めがつく。実力と運が無くば、大仕事は出来ぬからな。修羅場を経験させ、そこでの力量を見せてもらおう」
「ですが、危なすぎます! 相手はそこらの雑魚ではありません。海千山千の強者が多いはず。下手をすれば、犠牲者が出るやも‥‥」
「くどいぞ、ユウキよ。これは決定事項だ。学院卒業まではファルディス家を離れるのは許さぬ。だが、卒業してからはお主の好きにすれば良い。その頃にはナージャやルパートも独り立ち出来よう。わしがいるからこそ、従う者達が多い現状だ。お主らの力も加え、娘と娘婿の権威をあげたいと思う親心を分かってはくれぬか?」
親は子を思うのも異世界とはいえ変わらないか。ナージャ様達は頑張っているが、マルシアス様あっての現状なのは間違いない。アルゼナの忠告は間違いないだろうが、ここはマルシアス様の顔を立てるしかないか。
「分かりました。マルシアス様の仰せの通りにします。しかし、皇女殿下が望んだ場合はいかがしましょう? 彼女にも神託は下っているのですが」
「わしの意見はアイラに伝えてある。話し合いの中で、提案するように言ってあるからな。おそらく大丈夫なはずだ」
「師匠にですか!? 大丈夫かな‥‥」
まずいな、師匠にプレッシャーがかかる事は止めて欲しいんだが。ただでさえ、怯えているのにこれ以上は精神がもたないぞ。話し合いには早めに合流しよう。本気の3人相手は俺でもきついからな。
「マルシアス様、私も彼女達に合流し、話し合いに参加します。師匠とケビンさんを助けにいかなくてはなりませんので」
「よろしく頼む。くれぐれも喧嘩沙汰にはしてくれるな。命がいくつあっても足りぬからのう」
さて、むこうはどうなっている? なんとか穏便に‥‥は無理だな。まずは被害を最小限に食い止めないと。
次回、話し合いを見守るケビンの胃が‥‥。