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転生しても受難の日々  作者: 流星明
暇をもて余した神々の遊び
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第32話 現実に起こりえた悪夢

お待たせしました。

「うん、ここはどこだ? 破壊された家や屋敷が多いな」


俺が男爵になった夜、屋敷に戻った俺達はナージャ様達に事の顛末を告げた。ナージャ様やルパード様は、リアに続いてのラングの失態に嘆き、ジェンナ様とロウ様は憤りを露にしていた。


ルーは青ざめていたな。今までは失敗や馬鹿をやっても、上2人よりはましだと言われていた。これからはそうはいかなくなるから、焦りと恐怖があるのだろう。


怒涛の勢いであった1日に疲れ果てて、俺達は師匠の家に帰ってすぐに眠りについた。そうしたら、妙な夢を見てしまっている。いや、見ていると言った方が正しいな。


「やあ、久しぶりだね。立野佑樹君‥‥いや、もうユウキ=ファルディスと呼ぶべきかな?」


「な、お前はアルゼナ‥‥様なのか? 会えたなら、ちょうど良い。文句を言いたい事が山ほどあるんだ!」


10年前に見た白い髪と赤い瞳をした少女の姿を俺は忘れられない。艱難辛苦の人生を与えた元凶だからな。俺は戦国武将の山中鹿之助じゃないんだよ! 願っても無いのに、そんな人生を歩みたくないんですが!?


「‥‥はあ、何も分かっちゃいない。今までの人生は君が行った選択の結果だよ。じゃあ、見せたげよう。君が彼女達に手を差しのべなかった未来をね。まずは、この風景に見覚えはないかい?」


アルゼナに言われて周囲を見渡す俺。ところどころ壊れているが、見慣れた建物が見てとれる。


「ここはもしかして帝都か? しかし、この荒れようはただ事ではないが‥‥」


「ぎゃあああ!!」


「ふん、早く行くんだね。そして見るがいい。君が行動をしなかった結果、何が起こるのかを」


突然の悲鳴とアルゼナの言葉を聞いて、俺はその場所へと走り出す。現場に来てみれば、多くの人々が血まみれになって倒れていた。騎士達が必死に戦っているが、次々と倒されていく。戦っている女性がいるが、まさか!


「妖刀白雪の斬れ味、もっと試したいなあ。一般人斬ってもつまらないし、騎士さん達でうさばらしだね」


「ユイ!! 何をしているんだ、止めろ!」


俺はユイを止めようとするも手が彼女の体をすり抜ける。声も聞こえないようで、彼女によって騎士達は斬り伏せられていく。ものの数分で騎士100人を皆殺しにしたユイは、満足気な表情を浮かべていた。


「楽しいなあ。妖刀を授けて下さったオードル様に感謝しないと。早く生き残りを殺して、可愛がってもらおう」


酷薄な笑み浮かべるのを見て、その表情が弥生と同じだと気づく俺。持っている刀は妖刀白雪か! まずい、このままだと帝都中に死体の山が出来てしまう。


「おい、待て! ユイ、行くなああ!!」


そのまま、ユイは走り去っていく。俺は何も出来ぬまま見送るだけだった。空間が暗転し、エルバンス城内に俺は移動する。そこもまた、凄惨な戦場と化していた。


「ま、守れ! 近衛騎士団の名にかけて、皇帝陛下と皇后様を殺させる訳にはいかんぞ」


「し、しかし隊長、相手が悪すぎます! 今や我々は半数以下の戦力となり、ほとんどが新兵です。このままでは全滅しかねません」


「泣き言を抜かすな。名誉ある近衛騎士の名が廃る‥‥」


残念ながら近衛騎士達は簡単に倒される。ドラゴンガードを下げたマヤが召喚した死神によって、全員の命が刈り取られてしまった。壊れたおもちゃを見るような底冷えする視線を彼らに向けるマヤ。黒い魔力が体から立ち上ぼり、闇の力が辺りに広がる。マヤ、人間ですらないのか!?


「私を守ってくれない近衛など必要ありません。我が僕たる者達で軽く蹴散るなど、なんと不甲斐ない」


「私も近衛騎士に憧れていましたが、こうも弱いとは。8騎士も簡単に倒せましたし、なんか興ざめですね」


‥‥ミューズさんだよな。ラミアンナーガとなった体が、血で真っ赤に染まっていた。まがまがしい雰囲気を出している槍には血と肉がこびりついている。死臭と血の匂いが混ざった香りをかいでしまい、俺はとうとう吐いてしまう。


「ミューズ、皇帝を倒しに行きましょう。アイラがガルドを抑えている間にね。そして、私は君臨する。オードル様に捧げる闇の帝国の女帝として」


「我らラミア一族も望んでいますわ。人間に虐げられた積年の恨み、今こそ果たさねば!」


「マヤ、よせ! ミューズさんも止めろ!! くそ、何で俺の言葉が届かない!?」


近衛騎士達の死体が転がる中を抜け、謁見の間へ向かう2人。なんつう、悪夢だよ! これ以上は見たくもない。早く覚めてくれ!!


再び空間が暗転し、エルバンス城前の広場に俺は移動する。そこもまた地獄の光景が広がっていた。学院長を始めとした魔法使いや騎士、神官等の死体が辺りに転がっており、その中心に師匠がいる。だが、顔に浮かべる表情が決定的に違う。そこにあるのは憎悪、怒り、恐怖。それは、かつて師匠がボルハ達に犯されそうになった後に浮かべていたもの。俺が時間をかけて克服させたものだ。


「フフっ、学院長も倒せるなんて。オードル様は素晴らしい魔力を与えてくれたわ。男どもを皆殺しにして、女性だけの世界を作るの! 誰も信じないし、誰も信じられない。私は私だけの道を行くわ」


「師匠! 止めてくれ!! 自分で自分を傷つけようとするな。いずれ、自分が苦しむ事に‥‥」


だが、俺の言葉は師匠には届かない。くそがっ! 惚れた女全員を止められないなんて情けない。


「私を誰も助けてくれなかった。だから家族も殺したわ。もはや、私には失う物などない。ならば、私と同じように皆も失わせるの。私は絶望と恐怖を与える崇高な伝道師。さあ、ビトリア聖国に向かいましょう。虫酸の走る善人どもを地獄に招待しようではないか」


暗い笑みを浮かべた師匠は、テレポートで広場を後にする。気づけば俺は唇をかんでいた。舌に血の味を感じる。何故だ!? 何故、彼女達はこんな事になっている? 俺が平穏を求めるのは悪だとアルゼナは言いたいのか。


「そうは言ってないよ? ただ、君がそんな生活してたら帝国は滅亡したかもしれないってだけさ。じゃあ、今後の話をしようか‥‥おや?」


そう言って現れたアルゼナに俺は無性に腹が立った。理性で抑えようとしても怒りが収まらない。


「‥‥とりあえず、1発殴らせろやああ!」


神だろうがどうでも良い。怒りの感情で頭が一杯になった俺は、アルゼナの顔面めがけて拳を振り抜く。


「あっはっは、怒ってるねえ。でも、たかたが人間に私は殴れないよ。あまりなめないでくれるかな?」


俺が魔法で強化していた拳を軽々受け止めたアルゼナ。驚く俺を尻目に、カウンター気味に放った彼女の拳が俺の顎を直撃。そのまま俺は気を失った。うん、俺‥‥カッ‥‥コ悪‥‥い。





次回、アルゼナとの対話。

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