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転生しても受難の日々  作者: 流星明
受難の始まり
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第3話 俺、全く関係無いので!!

「あの~~、マイラス様。本当に俺は彼女の恋人でも何でもないんですよ。孤児院を出た理由の一端も、その女から離れる為ですし。まあ、殺すのならどうぞご随意(ずいい)に。俺としても、これ以上まとわりつかれるのは迷惑ですから!」


ここまで言って、ようやくおかしい事に気付いたらしい。マイラスと部下の男はレムを問い詰め始めた。いや、気付くの遅すぎだって!


「おい、貴様。恋人と言ったのは嘘か? でたらめ言いおって、どう言うつもりだ!」


「怪しいと思っていたが、死ぬのが嫌で放った虚言か? もし、そうなら処断してやる」


怒りのあまり剣を向けたマイラス達を見て、慌てふためくレム。さて、どう言い訳をするかね。


「ち、違います。ユウキは私の恋人ですよ!? この間も私にネックレスをプレゼントしてくれたの。この美しい輝き、高価な宝飾品を渡す程に私を愛してくれているんです」


そう言って、首から年代物のネックレスを見せつけるレム。いやね、全然俺の記憶に無いんだが? 渡していないから当然だけどな!!


「おいおい、君になんてプレゼントを渡した事は1度も無い。嘘をつくな、嘘を!」


「‥‥彼はこう言ってますが? ちっ、私とした事がとんだ失態をしてしまった。この罪、貴様の命であがなってもらうぞ」


どうやらサイラスも俺の言い分が正しいと分かったようだ。殺気を込めてレムに剣を向ける。うむ。本気の殺意を受けて、さすがの彼女も青ざめたか。どうするんだろうな、この状況を。


「本当なんですよおお! お願い、信じてええ!!」


嘘を嘘で塗り固めるスタイルでした。期待を裏切らないでいてくれて、本当にありがとうございます。涙と鼻水にまみれたレムの顔は、とても醜かった。どうせ、どこからか盗んできた物だろ。ここは神眼スキルで探ってみるか。


ええと何々、ファルディス家家伝のネックレス。当代当主の祖父が妻に送った物で、歴代当主が大事に伝えてきた代物らしい。お値打ちは金貨200枚ってところだな。


うん、レム。君は自殺志願者か何かか? 俺が目を付けられた女魔法使いは時空魔法の師匠でもある。その彼女の実家たるファルディス家って、帝国有数の商会で皇帝にすら物申せる商人だぞ。独自に私兵や密偵雇っているせいで、盗賊ギルドや帝国諜報機関さえもめ事を避けるんだ。敵にするのはまずすぎだろ!


‥‥って、おい! 気が付けば、周りにヤバそうな連中が来てるじゃないか。これは、さっさと俺は関係無い事を伝えとかないとな。


「あのう、そのネックレスはファルディス家の物みたいですよ。私は神眼スキルを持ってますので鑑定出来ます。私は彼女にネックレスをプレゼントした事は無く、これからもありえません。いくら俺でも、ファルディス家を相手に喧嘩を売る気は無いですから。俺、全く関係無いので!!」


「な、何と」


「そ、そんな嘘でしょう!」


ファルディス家の名を聞いて、たちまち青ざめる部下の男、そしてレム。えっ、なんで君が青ざめてるんだよ。盗んだの君だよな? それとも誰かとも知らずに盗みを働いたのか? だとしたら、どうしようもない愚行だぞ!


「ま、マイラス様。早く逃げましょう! この娘と一緒にいれば、ファルディス家の報復に巻き込まれかねませぬ」


「お、落ち着け、ファルディス家のネックレスだと? こやつが嘘をついているかも知れんではないか。だ、だいたいこんな古ぼけたネックレス、ファルディス家の物である訳がない」


マイラスさん、あなた言ったらいけない事を言ってしまったな。周りにいる連中の殺気が更に強くなった。こりゃあ、3人とも仲良くご臨終コースか? とりあえず、忠告だけはしておこう。


「早く武器を捨てて、手を上げた方がいいですよ。我々の周りは既に囲まれてますし」


「マイラス様、本当のようですぞ。彼の者らはかなりの手練れ。私では到底構いませぬ」


俺と護衛の男がそう言った瞬間、黒装束の集団が部屋へと雪崩れ込んできた。たちまちレムを捕まえるや、その手からネックレスを奪還する。そして、1人の男が素早く剣を抜くや彼女の首筋に突きつけた。いや、当たってるな。レムの血が剣先から流れ出て、床に勢い良く落ちてるし。


「この泥棒め!! 我らが主のネックレスを盗むなど言語道断である。ファルディス家の影たる我らが、即刻首をはねてやろう。覚悟せよ!」


「違うんです、違うんです! そこにいるユウキに盗ってこいって言われたの。私は脅されて仕方なく‥‥」


「え、え? ちょっと待てやああ!!」


ま、まさかの責任転嫁かああい!! このアマ、好きな男をあっさり虚言で売りやがった。まったく大した役者だよね、君は。しかし、その選択は大きな間違いだと断言出来る。だって、俺の師匠はファルディス家現当主の妹なんだよ。つまり、彼らとは知り合いな訳で‥‥。


「嘘をつくな! ユウキはアイラ様の弟子だ。ファルディス家に喧嘩を売ることがどういう事か、充分知っているはず。自ら進んで棺桶に入るような真似をするものか!」


そう言ってくれたのは、ケビン=デュラング。かの名高いファルディス家の密偵部隊黒鷹の隊長である。その実力は、あの盗賊ギルドが恐れる程だ。暗殺、諜報、情報操作などを受け持つ集団のトップなら当然の力量ではあるが。


「ケビンさん。そんな恐ろしい事をするわけがないし、したくもない。ファルディス家に仇なす輩がどうなるかなど、俺は既に知っていますから」


そう、ファルディス家は邪魔な商売敵や貴族等を何人も消している。もちろん、あくまでも最終手段だが。ルネサンス期のメディチ家ばりの権力を持つ家と対立しようなどとは、さすがの俺も思わない。


ゆえに俺は天才時空魔法使いたるアイラ=ファルディスの弟子になったんだからな。ようやく、レムは自分の命が風前の灯だと気がついたらしい。慌てて必死に頭を下げる。


「ひいっ! ごめんなさい、ごめんなさい。で、出来心だったんです。孤児院に来た貴婦人のネックレスが綺麗(きれい)だったから欲しくて。だから、つい盗って‥‥あがっ」


黒装束の男ことケビンさんが、躊躇(ちゅうちょ)なく剣を振り下ろすとレムの首が落ちた。うん、世迷い言を最後まで聞かなくても良いよね。血しぶきが辺りに飛び散り、近くにいたマイラスはそれを全身に浴びてしまう。そんな彼に、ケビンさんは血まみれの剣を突きつけた。


「‥‥ふん。所詮、愚かな盗人であった。さて、次はマイラス殿。貴方の番だな」


「ま、待て。待ってくれ! 私はラグウェル伯爵家の騎士だ。ファルディス家とは、主が懇意(こんい)にしているはず。私もこの娘にだまされたのだ。盗みに手を貸してはいない!!」


ラグウェル伯爵家か。確かにファルディス家と取引はあるが、そこまで親密とは聞いてない。マイラスなりの虚勢(きょせい)といったところかな。どうやら、ケビンさんも分かっているようだ。顔に失笑を浮かべている。


「ほう、ラグウェル伯爵家にはファルディス家が貸した借金があるだけですがね。額は金貨3000枚で、返済期日は1週間後のはず。そういえば、盗賊ギルドに依頼があったと聞きます。何でも『死からの再生』とかいう本を盗んで欲しいとか。この本、売れば金貨4000枚程にはなるらしい。さて、偶然にしては出来すぎと思いますが?」


マイラスの奴、総身汗まみれだな。皇族の持ち物を盗もうとした事がバレたとなれば、爵位の取り上げか下手をすればお家断絶である。しかし、さすがはファルディス家の情報網だ。裏社会を牛耳る盗賊ギルドからも情報を得られるのだから。


「そ、それはラグウェル伯爵様に頼まれて私が‥‥」


「いいえ、違います。ラグウェル伯爵様に問い合わせましたが、全てはマイラスが勝手に行ったこと。私は預かり知らぬとおっしゃいましたな。もっとも、それでも罪は消えませんがね。ラグウェル伯爵には、皇帝陛下よりご沙汰(さた)が下るでしょう。その前に、全てを知る貴方を消せとの命が下りました。マイラス殿、お覚悟を」


あっさり捨てられたな。だが、これって現代日本でもあるからな。都合が悪くなると部下を切って、自分はのうのうと生きている連中は(くさ)るほどいるし。


「お、おのれええ!! 全員で私を捨て駒にする気か。こうなれば我が剣の冴えを‥‥グホッ!」


マイラスが剣を抜こうとするや、彼の護衛(ごえい)だった男が奴の体を剣で刺し貫いた。一撃で仕留められたマイラスが床に倒れこむ。うわあ、部屋中が血まみれじゃないか。人の部屋で派手な刃傷沙汰(にんじょうざた)は止めて欲しい。とても今は言えないけどな!!


「マイラスの監視、ご苦労だった。これより撤収(てっしゅう)する。ユウキを拉致し、ここに火をつけるぞ。あとマイラスの仮面と剣は回収しろ。金になるからな」


「はっ!」


ケビンさんの命令を受け、すぐに全員が準備に入る。だが、ちょっと待て。ここに火をつけるとか言ってたか? 俺の住む家が無くなるじゃないか!


「ケビンさん、どういう事か説明してください!」


「ユウキ。君に選択肢はない。アイラ様から部屋を破壊してでも連れてこいと言われている。だから私達は派手に暴れたのさ。幸い、この建物から人はいなくなった。燃やしても犠牲者は出ないし、我々の痕跡(こんせき)も消せるしな」


‥‥駄目だ、拒否出来そうに無い。俺は素直に諦めた。結局、ケビンさん達によって俺が住んでいた集合住宅は燃やされた。レムとマイラスは、焼け跡から骨すらも見つからなかったらしい。嫌いではあったが、供養(くよう)も出来ない状況には同情してしまうな。こうして、孤児院から脱出した俺のマイホーム生活は1年で終わった。はあ、折角の一人暮らしだったのに。









次回、アイラ先生登場。

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