第29話 ユウキは男爵の地位を手に入れた!
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「さて、ラングの件は片がついた。次はユウキの番よな。貴様の活躍は以前より見ていたが、なかなか見事なものである。特に暗黒教団の野望を潰せたのは賞するに価しよう。よって、ユウキ=ファルディスに男爵の地位を授けるものとする」
陛下。あんまりな言葉に、時が止まったかのように皆が動かないんですが? マルシアス様や師匠すらも固まってますよ。おっと、黙ってる訳にはいけない。ここはまず断るべきだ。たとえ、決定事項であってもな。
「恐れながら申し上げます。陛下のご恩情ありがたく思いますが、私は貧民の出。ファルディス家に婿養子として入ったのもあり得ぬ事なのです。ましてや‥‥」
「貴族になるのは困るか? 嫉妬や羨望の的になるのがわずらわしい、それは分からなくはない。とはいえ、貴様を放置しておけば近隣諸国が仕官話を次々と持ってこよう。噂ではビトリア聖国が貴様を狙っているとか。勇者だったか、聖騎士だったかに仕立て上げ、暗黒教団の矢面に貴様を‥‥」
「皇帝陛下、私が間違っておりました! 君主から与えられし恩を断るなど、帝国臣民にあるまじき振る舞い。このユウキ=ファルディス。陛下の剣となるべく、男爵の地位をお受け致します」
突然の方針転換に戸惑う人々。いや、あんな奴等と真正面から戦ったら、命いくつあっても足りないからな!? 現代で例えるなら、某宗教の過激派テロリストとかとガチで戦争するのと同義だぞ。周りの女性陣が強いんであって、俺はそこまで強くない。まだ話の分かる陛下に仕えた方がましだろう。
「そう言ってくれると思ったぞ、ユウキよ。では、ユウキ=ファルディスに男爵の地位を与える。領地は無いが、月に金貨10枚を授与する。また、ファルディス家の仕事をこれまで通り受けてくれても構わない。ただし、こちらからの仕事は最優先で受けるように。まあ、学生となる貴様に無茶な仕事は振らんから安心せよ」
安定した収入は魅力的だが、俺に出来る仕事か。おそらく荷物の運搬や緊急時の伝令、重要人物の移動なんかだろうな。今までは、ファルディス家に依頼して師匠を使ってたが、臣下でまかなえるなら費用もかからない。
師匠や俺みたいに、テレポートとインベントリの魔法を使える時空魔法使いはなかなか珍しいようだ。普通の時空魔法使いだと、どちらか一方しか使えないのだとか。どうりで貧民出身の俺を引き抜こうとする訳だな。
「やれやれ、陛下は相変わらず喰えぬお方ですな。ラングの件があった以上、我々が断れないと見越した上で仕掛けられた。見事としか言えませんな」
マルシアス様、少々怒ってるな。自分の手駒を勝手に持っていかれたんだから当然か。だが、これが最善手だと俺は思う。商人であるファルディス家では、教皇が強権を振るえるビトリア聖国と渡りあうのは厳しいだろうからな。
「マルシアスに言われたくは無いな。こういった芸当は、他ならぬ貴様が得意ではないか。何人の商人が貴様に優秀な人材を持っていかれた事か」
「‥‥まあ、良いでしょう。陛下のおっしゃる通りユウキが貴族になった方が流出を避けられる。教皇様も悪いことをお考えになられる。ユウキを得れば、アイラとユイ、ミューズまで引っ張れると思ったのでしょうから」
確かに、そこまで考えているかもな。だとしたら、これくらいじゃ諦めない可能性もある。後で皆と話し合うか。いざとなったら、ミューズさんに頼んでアルゼナ様の教会に逃げ込もう。なにせ彼女いわく、アルゼナ様は他の神様から恐怖の対象となっているらしいし。
「しかしながら、ファルディスの名を冠する以上はユウキは我が家の人間でもあります。皇帝陛下を始め、皆々様にはその事を留意して下さるよう伏してお願い申し上げる」
マルシアス様、大きな釘を刺したな。貴族連中が苦虫を噛み潰した顔になっている。彼らとしては成り上がり者の俺など受け入れたくもないだろう。
だが、皇帝陛下のお声掛かりに加え、マルシアス様の発言でうかつな事が出来なくなった。マルシアス様は俺を一族だと言った。つまり、俺に喧嘩なり不利益な事をすればファルディス家が敵に回ると宣言したに等しい。並みの貴族なら戦う前に心が折れるだろう。それでも敵対しようとする奴はいるだろうが、その時は戦うしかないな。俺は神様じゃない、殴られたら殴り返す。
「マルシアスも心配症だのう。案ずるな、余もしっかり見張るとしよう。貴様の孫たるアイラ=ファルディス並みに使える時空魔法使いだ。これを潰すような愚挙をおかす愚か者は帝国に仇なす害虫よ。そんな虫は余が直々にくびり殺してやるわ!!」
獅子の咆哮に等しい言葉に貴族達は慌ててひざまずく。しかし、警戒はしておくか。いくら2人が言っても、貴族連中は味方として懐柔しに来るか、敵とみなし潰そうとしてくるだろうからな。齢10歳にして、世間の荒波を越える舵取りをしないと行けないって、早すぎませんか?
「さてとユウキ。早速話をしようではないか。これから貴様に振る仕事の説明と‥‥我が娘マヤの事についてな。余と共に執務室へと来るが良い」
うん、いきなりピンチだわ。これはマヤとの関係について色々と聞かれそうだ。下手な事を言ったら、首と胴体が泣き別れになりかねん。ここは保険をかけるか。
「皇帝陛下、皇女殿下の話ならばここにいる女性3名も関係が御座います。共に参ってもよろしいでしょうか?」
俺の言葉に師匠は当然だとうなずく。ユイとミューズさんも陛下に対し、頭を下げた。
「‥‥良かろう、そこな3人もついて来るが良い。ウィルゲム卿、必要は無いと思うが余を護衛せよ。いくら余でも手に余る相手ゆえな」
「はっ、かしこまりました。ユイ=リンパードとミューズ=アルセ、妙な真似はするなよ。変な動きをしたら剣を抜くからな。ファルディス家の2人は‥‥、心配いらないか」
ウィルゲム卿がユイとミューズさんに警告したのは、2人が相当な使い手だからだろうな。真っ向勝負ならともかく、先手を取られたら2人相手だと危ういと判断したんだろう。まあ、ユイもミューズさんも俺が絡まなければ大丈夫だと思うけど。俺達の場合は、何かしたらファルディス家に迷惑がかかる。だから警戒を解ける訳だ。
「了解。私はユウキ兄ちゃんに危害を加えないなら動かないよ」
「私もそんな事は致しません」
「ならば良い。くれぐれも陛下に粗相のないようにな。では、ついて来い」
こうして、俺達は皇帝の執務室へと赴くのであった。あれ? このままだと、なんか偉くなっていく一方な気がする。平穏な生活ってもう無理なのかね?
次回、マヤについての話し合い。




