第28話 ラング追放
長らくお待たせしました。ユウキに関しては次回で。
「ほう、さすがは天命人よな。『このネタを突っ込めるのは、私の同郷の者しかいない』とマスターエロフが言っておったのは誠であったか」
「いやいや、皇帝陛下。突っ込むも何も、ネタ元のまんまですから! そもそもマスターエロフって誰なんですか?」
天命人なのは間違いないが、明らかに近づきたくないぞ。だって、マスターエロフなんて異名持つ時点で無類の変態そうだし。
「ああ、かのガルド学院長の師匠であるエルフだ。名はバルドー=ウィレムン。学院の創設者にして、魔法使いの中では大陸でも屈指の実力者であろうな。ただ、女遊びが激しい上に妻を10人近く持っている強者だ。ゆえに、天命人の間から偉大なるマスターエロフという称号を得たらしいぞ」
お、俺が想像していたエルフ像ぶち壊しじゃないか! しかし、ガルド学院長の師匠さんか。教育者としても魔法使いとしても超一流とは驚きだ。まあ、素行は悪いみたいだが。
「‥‥貴様も追随しそうであるがな、ユウキ=ファルディスよ。アイラ=ファルディス、ユイ=リンパードにミューズ=アルセ。そして、我が娘たるマヤすら手中に収めておる。ちまたでは、尻に敷かれし絶倫少年魔法使いと驚く者も多いらしいではないか」
事実だけに何も言えねえ。10歳で嫁候補が4人もいて、しかも年上のお姉さん2人とは初体験もすませてるしな。とはいえ、全員愛してるのは間違いない。ここは開き直ろう。
「‥‥事実だけに何も言い返せません。されど、彼女達を愛する事は誰にも負けぬと自負致しております。世間がどう思うが私は構いませんな」
皇帝の御前で宣言した訳だが、衛兵に貴族の方々。生暖かい視線を送るのは止めてくれませんかね。周りを見れば、女性陣は顔を赤くしてマルシアス様はにやついてるし。衆人環視の中で好きだと言った、こっちが恥ずかしいんですよ!!
「ほう、面白いな。幼いながらも気概はあるようだ。貴様とは後で話すとしようか。ファルディス家の面々を呼んだのは、他でもない。ラングの身柄をどうするかだ。本来なら死罪に値する所業なれど、ブレスク伯爵らの企みを間接的にだが止める要因にもなった。そこは考慮せんとな。衛兵! ラング=ファルディスをここに」
「はっ!」
しばらくして、衛兵達は皇帝陛下の命令通りにラングを連れてきた。服等がボロボロになっているのは、おそらくナルシス様辺りによる尋問が原因か。しかし、その割には元気そうだ。さて、話をどう切り出すかな。
「こ、皇帝陛下。この度は私の仲間による騒乱により、御心を騒がしました事申し訳ございませぬ。かくなる上は、初心にかえり、冒険者としての本分をまっとう致しまする。どうか、お許しの程を‥‥」
「ほう、殊勝な物言いではあるが貴様の仲間の犯した罪はかなり重い。強盗に窃盗、あげく遺跡等を荒らし回る盗賊に似た行状の数々、とても許せるものではないが?」
遺跡まで荒らしてたんかい! 確か帝国は遺跡の保護と発掘に力を入れていたな。ゲーム何かでよくやる遺跡探検をするには許可証がいるし、未発見の遺跡を発見したら報告義務があるはず。まあ、全て取り締まれる訳は無いけどな。役人に袖の下が通用するのは、古今東西変わらないし。
「確かに彼らの犯した罪は許されませぬ。私も止めるべきでしたが、その実力は無く流されるまま悪事に加担してしまいました。しかし!」
「しかし、何だ? 自分は従わざるを得ない状況であるから罪は無いと申すか? それとも、今回の件で少しは役に立ったと申す気ではあるまいな。ユウキ=ファルディスは、貴様の尻拭いの為にブレスク伯爵家を訪れただけなのに? 随分と我田引水の評価よな」
「うぐっ!」
もうやだ、こいつ。見ればマルシアス様は頭を抱え、師匠は今にもキレそうだ。自分は悪くないと言うのか、15歳になった男が。ちなみにこの世界じゃ、成人は15歳だ。昔の日本と同じだな。つまり、責任能力は認められてしまう。窃盗の常習犯たるレムが、あっさり斬首されたのも成人していたからでもある。
そして、ラングよ。ただの不可抗力を自分の功績とする気か。俺は不気味な黒頭巾の集団に絡まれ、あげく金も全て失ったんだぞ!! ‥‥まあ、ミューズさんに会えたのは良かったけど。
「ふん、図星であるか。裁定を下す前に貴様に問おう。仮にだが、生き長らえる事が出来るとしよう。貴様は何を為そうと考えている? 余の問いかけに答えよ、ラング=ファルディスよ!」
「私は、私は英雄になりたいのです。誰もが認める英雄に。その為に弥生達と冒険者として頑張ろうと思いました。‥‥結果は見ての通りではありますが、私はまだ若い。やり直しはまだ出来るはず。陛下の温情にすがりたく存じ‥‥ひっ!」
見れば、憤怒の表情を浮かべたウィルゲム卿が剣を抜こうとしていた。若気の至りとやらで恋人傷つけたクソ野郎が、何の反省もせず英雄になりたいという誇大妄想を披露したのだ。殺したいと思っても無理はない。俺も今にもキレそうだからな。その顔面にリアル神の手を食らわせるぞ! ‥‥ヒートエンドまでしても良いよね?
「落ち着け、若人達よ。殺気が駄々漏れすぎて衛兵や貴族も震えておるぞ。もっとも悲惨なのはラングよな、無様に失禁したようだ。それでよく英雄になりたいと言うたものよ」
短い間に何回失禁すれば気が済むんだよ。まあ、俺もボルハ達と戦った時や盗賊ギルドの頭目に捕まった時に漏らしたから強くは言えないが。
「裁定を下そう、ラング=ファルディスを帝国追放とする。また、帝国臣民権を剥奪し、冒険者ギルド永久追放の処分も課そう。つまり、貴様は帝国の後ろ楯もギルドの援助も受けられぬ。ファルディス家の繋がりも絶たれた1個人として生きてみよ! 衛兵、連れてゆけ!!」
「お、お待ち下さい。陛下、陛下あああ!!」
ラングは衛兵達に引きずられて謁見の間を後にする。なんだろう、このデジャブは。おそらく2度と会う事も無いだろうな。ファルディス家の名もギルドの援助も受けられない彼に、生きる力があるとはとても考えられない。傭兵になって英雄を目指す事も出来なくはないが無理だろうなあ。
次回、ユウキの処遇発表。