第24話 ユウキの贖罪
お待たせしました。
暗黒教団との戦いから数日後、俺達は取り調べと説教からようやく解放された。俺と師匠が居なくなった間は、ルーが代わりに謝罪行脚をしていたらしい。占術師カレンへの謝罪もしてくれたようなので、お金を渡して礼を言った。
ルーの奴、かなり驚いていたな。すかさず、隣にいた女性使用人が頭を下げて受け取った。彼女はマリーと言って、ファルディス家執事長の孫らしい。‥‥どうりで、ただ者じゃないはずだよ。執事長の爺さんは、ケビンさんの師匠で先代の黒鷹隊長だ。その孫娘が黒鷹1の錬金術師だとケビンさんが教えてくれた。
『くれぐれもルーをいじめるなよ。以前のあれは親友たるアイラお嬢様の事もあって止めなかった。だが、ルーを理由なく排除しようとしたりすればマリーは動くぞ。お前も皇女殿下やユイの死体は見たくないだろ?』
‥‥ルーの奴、すごい女性を手札に加えているんだな。今のところ、彼とは敵対から普通の関係になりつつある。余程の事が無い限り戦わないでおこう。さて、それも大事だが目下の問題はこれだ。
「アイラさん、この首飾り似合うと思いません? 金貨20枚はしますけれど」
「似合ってますよ、マヤ様。私もドレスを何着か仕立てた。合計で50枚使ったが、後悔はしてないぞ」
マヤとアイラの話を聞くたびに胃が痛む。帝都を揺るがした暗黒教団の事件は、教団殲滅という結果で幕を降ろした。生き残った暗黒教徒も俺達と同じく帝都警備隊に連れていかれ、今も取り調べが行われている。
まず、首謀者たるブレスク伯爵家は取り潰された。ミューズさんと母親は無罪となったものの、他の関係者は亡くなったか牢獄に収監されたかだ。また、関与が分かった他の貴族や聖職者も取り調べが進み、処分を待つ状況である。‥‥たぶん、相当な量の血の雨が降るよな。
現在、俺達とミューズさんを加えた5人は帝都の繁華街へと繰り出している。そう、俺がマヤとユイ、師匠に対する贖罪がこれだ。
「先生、さっきから顔色悪いよ。私は生活に必要な衣服しか買わなかったから、金貨10枚程度ですんだけどね。あっちはかなり使いそうだからかな」
うん、午前中のほとんどが服屋と宝石商巡りだったからな。購入金額が金貨100枚近くなったぞ。俺の貯金の3割は飛んだ。しかし、まだ終わりじゃない。昼食を終えたら、午後は武器、防具屋を回る予定だからな。果たして貯金が持つかどうか‥‥。
「あの、ご主人様。私も買ってもらって良かったんですか? むしろ、私も出さないといけないんじゃ」
不安そうな顔で言うのはミューズさん。彼女はファルディス家に食客として招かれる事になった。もちろん、俺の強い意向があっての事だ。師匠とユイが口添えしてくれたのも大きい。皆には感謝しかない。
「いや、ミューズさんはいいよ。ただでさえ、ブレスク伯爵家が取り潰しになったんだ。まとまったお金は持っておいた方が良い。それにミューズさんだけ何も買わないのは男が廃るからね。紫水晶の髪飾り、髪に映えてとても似合ってるよ」
俺がそう言うと、ミューズさんは顔を赤くしてうつむく。ちなみにだが、彼女は人間の姿で生活が出来ている。自分の意思で変身出来るよう、アルゼナ様が取りはからったらしい。‥‥あの神様には頭が上がりそうにないな。と、隣を見たらユイがむくれている。マヤや師匠に対しては余裕を見せていたのに珍しいな。
「‥‥すかした女たらしの発言になってるよ、先生。まあ、ミューズ先輩は綺麗だもんね。しかも、私と戦って一歩も引かない強さと精神力も持っている。マヤと師匠さんが焦るのも分かるけど」
そう、模擬戦でユイと戦ったらミューズさんは互角の勝負を演じたのだ。神眼で調べたら、ランクがA+と結構上がっている。持っていた槍も神槍アリバースという名に変化しているし、使用者の攻撃力と守備力を2倍にする特典付きだからな。神器込みだと、8騎士に肉薄する強さだ。
「えっ、お2人が焦ってる? そうは見えませんが」
「まず、マヤは前世を入れても先生との時間が少ないし、今世でも身分の差とかがあって関係が進展していない。正式に付きあうには越えるハードルがまだまだ高すぎるね。師匠さんは付きあいは長いし、男女の仲にはなってる。でも、ミューズさんがあっさりと一線越えた上に、予想を越える信頼関係を構築しちゃったからね。自分が先生から一方的に愛を与えてもらってるだけ、自分はあまり返していないと気がついて焦ってる訳さ」
「「ちょっと、冷静に分析しないで!!」」
図星だったのか、師匠とマヤが食いぎみに突っ込む。確かにマヤとは付きあいが浅いからな。焦る理由も分からなくないかもしれない。師匠は確かに自分中心な所があるな。まあ、あんな目にあったから俺も甘やかし過ぎたのかもしれない。とはいえ恩人でもあるし、そこまで気にしてはいないけど。
「そ、そう言うユイはどうなんだ。君もミューズという恋敵が現れて焦っているんじゃないのか?」
師匠、動揺してるのが見え見えです。ユイが冷静なのは理由があるんだが、まさかここで言わないよな?
「うーーん、気にしないかな。だって、私は前世を合わせると10年位の付き合いあるからね。‥‥ユウキ兄ちゃんとは。もう先生呼びは止めようか。ユウキ兄ちゃんも昔みたいにユイって呼んでくれるようになったし」
おい、ユイさん。ここでそれを暴露するんかい! 師匠にミューズさん、マヤですらもあっけにとられてるぞ。ユイと出会ったのは、前世で住んでいたアパートでだ。あまり家に帰らないユイの両親に代わり、隣に住んでいた俺が夕食を食べさせたのが交流の始まりだった。彼女が出来てからの直近3年間は部屋に来なくなったとはいえ、その前はよく部屋に転がりこんできたものである。
「再び、そう呼ばれるとは思わなかったがな。教え子からユウキ兄ちゃんなんて呼ばれたら問題になるだろ。だから、どうか先生と呼んで下さいと頭を下げた訳だ。この辺はマヤも知らなかっただろう?」
「ユイさん! あなた、なんで黙ってたんですか? もし分かってたなら色々と聞きたかったのに‥‥」
マヤさん、プライベートを根掘り葉掘り聞こうとするのは止めてくれませんかね! ‥‥ユイに知られてる情報の中には、黒歴史レベルの思い出もあるんだよ。
「恋敵に情報は渡せないからね。この中で、ユウキ兄ちゃんと1番付きあいが長いのは私。だから余裕が持てたんだよ。まあ、ミューズさんの登場には私も正直焦ったよ。ユウキ兄ちゃんが理想としていた女性の写し鏡だったからね」
‥‥ったく、ユイには敵わないな。そう、ミューズさんは長年好きだった女性に性格がそっくりなのだ。優しくて強く立派な女性だった幼なじみは、父親の転勤で海外に行ってしまった。手紙のやり取りも続けていたんだが、大学生の頃にそれは終わってしまう。彼女の住む街で銃乱射事件が起き、それに巻き込まれた彼女は亡くなってしまった。
彼女の葬式に参列して、日本に帰国するまでの記憶が今も無い。帰国してからも、茫然自失の状態で、しばらく勉強も何も手がつけられなかったからな。そんな中で、遊びに来た幼いユイが優しくなぐさめてくれたんだよ。‥‥小学2年生の前で号泣する大学生って、色々とまずいよなあ。
「そのお姉さんは亡くなったけど、今もユウキ兄ちゃんの心にいる。だから、ミューズさんを見てこれはヤバいと思ったんだ。マヤと師匠さんは、相手と見るにはまだまだ役不足かな?」
「「ぐぬぬっ!」」
ユイさん、挑発しないで。帝都が崩壊しちゃうから! まずいな、午後の武器、防具屋巡り大丈夫だろうか。殺伐とした空気の中で買い物‥‥。うん、トラブルと衝動買いの未来しか見えない、どうしよう?
次回、更なる散財!




