第15話 盗まれた刀が妖刀だった件
「ユイさんの手に入れた刀を奪ったのは、我々で間違いございません。全ては俺、いや私の不徳の致すところであります。誠に申し訳ありませんでした」
部屋に入って早々、ラングは見事なジャンピング土下座を決めて謝罪した。すごいな、あのプライドの塊のラングがここまでするとは。まあ、自分の置かれた立場が分かっていると評価すべきだろう。下手すると命とられかねないからな。
「‥‥それで、ラング。他の冒険者の持ち物にも手を出していないだろうな? 嘘をついても、ユウキの神眼で分かる。正直に答えろ」
「お、叔母上。私は止めたのです。しかし、彼らの方が先達で実力も上でして。とても止める事は出来ません。彼らは元々そういった事を生業としていたようでして。私はそのような裏があると知らずに仲間になり‥‥」
悪事に手を染めた訳か。まんま怖い先輩に言われて、半グレに入る不良と同じ物言いだ。これは、他にも余罪が大量にありそうだな。冒険者ギルドにファルディス家名義で問い合わせをしてみるか。クズ冒険者どもがラングを仲間にした理由。おそらくファルディス家の後ろ楯を利用し、他の冒険者達を黙らせる事だろうからな。
「その件については後にしよう。ラング、その刀は仲間の重田弥生が持っているのか? どういった形状なのか教えて欲しい。取り返さないといけないからな」
「く、黒い鞘と青白い刀身だったな。見てると寒気がする程の雰囲気を醸し出していたな。あ、あと柄頭に六芒星の星が描かれていたぞ」
「何か危なそうな刀だな。どれ、あれで調べてみようか。検索。黒い鞘、青白い刀身に柄頭が六芒星!」
俺は手から巻物を取り出すと刀の特徴を言う。アレゼナから渡されたかなりチートな巻物だ。異世界版ウィ〇ペデ〇アのような機能も搭載してるから便利なんだよな。皆が驚いている中で、検索結果が出る。
「該当する刀は1件だな。妖刀黒雪。使い手は血を求め、生きとし生ける者を斬りたがる。心に闇を持つ者を率先して宿主にしたがるか‥‥。ユイ、この刀ヤバすぎだろ!!」
マジもんの妖刀じゃないか! ド〇ク〇の呪われた武器並みにひどいぞ。 俺の説明にユイはホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。
「わ、私は命びろいしたんだね。神様からこの刀をもらったし、私としては助かったって事でいいのかな? でも、これが本当だとしたら放っておくのは不味いよね」
「そうだな。刀の呪いのせいで、多くの人々を無差別に殺害しかねん。早急に持ち主を探し出して破壊しないとな」
帝都で白昼堂々の辻斬り騒動はまずい。とにかく、その女を探さないといかん。ラングに居場所を聞こうと俺は話しかけようとしたが、既に師匠がドスの効いた声で詰問していた。
「おい、ラング。お前の盗賊仲間はどこにいる? 帝都で流血沙汰なんか洒落にならんからな。とっとと捕まえて帝都防衛隊に引き渡すぞ」
彼は仲間を売るのを少しためらったものの、自分がかわいいのだろう。あっさりと自白する。
「彼らは今、ウグイス亭という宿屋に泊まっています。案内をしますので弥生を救ってやって下さい。彼女は‥‥」
「た、大変です! ラング様!! 様子がおかしくなった弥生さんが、いきなり宿屋にいた冒険者達に斬りかりました。たくさん人が死んでいます。急いで戻って来て下さい!」
「な、何だとおお!? くそっ、ユウキの話は本当なのかよ」
ドアを勢いよく開け、慌てて部屋に入って来たのは、小さな女の子だった。フードを被り、白のローブを着ているところを見るに神官なのだろう。髪に隠れた耳が尖っているのに気づいた俺は、彼女を神眼で見てみる。
「なになに、名前はミル。種族は‥‥ゴブリンと人のハーフ!? しかも、ラングの奴隷って何だよ。おい、ラング。この子どういう経緯で手に入れた?」
事と場合によっては、俺は容赦なく奴を殺すつもりで尋ねた。情け容赦ない殺気に気付いたラングは、慌てて弁解をし始める。
「ひいっ! ど、奴隷商で買っただけだ。変わったゴブリンの娘がいるって聞いて、とても興味があったからな。かなり人気があったけど、俺が買うって言ったら皆譲ってくれた。回復魔法も使えるし、将来有望そうだから手に入れたんだ」
少なくとも合法的に手に入れている訳だ。この世界、奴隷売買は認められている。労働力として主に使用され、ファルディス家でも何人か雇ってるしな。だが、ラングが買ったのは単純な労働力目的ではないだろう。出自はともかく、見目麗しい彼女を見れば分かる。男の情けだ。ここは言わないでおくか。
「どうせ、将来夜の相手にするつもりだったんでしょ。将来美人になりそうだし。でも、ゴブリンでここまでかわいいのは珍しい。私が知ってるのはゲームで倒した奴と似たようなのだからね」
おい、ユイさん。ど直球に突っ込まないでくれ。しかし、異世界でも男は変わらないってのがよく分かる。俺も人の事は言えないが。
「あうぅ、そんな恥ずかしいです。‥‥じゃなくて! 早くいかないと人がたくさん死んじゃいます。お願いです、弥生さんを止めて下さい。お金に汚くて男にだらしなくて、ラング様の事を金づるにしか思ってないクズ女。ですが、これ以上の罪を犯して欲しくありません。だから‥‥」
「君、なかなか言うよな。まあ、いいさ。師匠、ラングとミル。ユイとケビンさん達を連れて、ウグイス亭に移動しよう。とっとと弥生って女を止めるか、殺すかするぞ。これ以上、ファルディス家の名に泥を塗る訳にはいかないからな。よろしいですね、ナージャ様?」
俺の問いかけにナージャ様はうなずく。こういうのは早く片をつけるに限るからな。とりあえず、ラングの処分は後回しだ。俺はラングとユイ、ミルを連れてテレポートの魔法を使う。さて、妖刀破壊を開始しますか!
次回、弥生との戦い。




