第1話 転生の前に
「オ、オレハドウナッタンダ? ナンデ、ホネダケニナッテル!」
「グオオ、グオオウ!」
「何で? 何で私が豚になってるの! 嫌よおお!!」
スケルトン、狼にオークか。女でオークに転生は悲惨すぎるだろう。異世界転生しただけで、ただの罰ゲームだからな?
見たところ、人間や亜人種に転生しているのは3割程か。人間、ドワーフ、エルフに小人? 人魚に獣人もいるな。後は全員魔物らしい。魔物は基本的に討伐対象だから、生き残るのは大変そうだ。
俺は人間に転生出来たようで、ホッと胸を撫で下ろしている。目の前に設置された鏡を見れば、スーツ姿の眼鏡中年が眉目秀麗の優男に生まれ変わっていた。
前に比べると身長が低い上に、肌が色白なのは気にはなる。とはいえ、なかなか女性にモテそうな感じになって良かっ‥‥はっ! 凄まじい殺気が4方向から飛んでくる。えっ、姿が変わった俺を認識出来てる!? 彼女達も無事に転生出来たようで何よりだ。‥‥後で締められたりしないよね?
周りを見渡せば、転生に成功した他の人達も素直に喜んでいた。あまりにも容姿が変わりすぎて、俺は誰が誰なのかは分からない。ただ、出来れば多くの生徒が魔物以外に転生出来ている事を祈るしかないか。
「‥‥あーーあ。チートスキルは1人1つまでって言ってたのにい。欲張るからペナルティーで魔物になっちゃうんだよ。まあ、人間達に討伐されないよう強く生きてね」
チートスキルを複数選べたのは、やっぱり罠だったんだな。魔物でも言葉が通じる奴等の中には、うなだれてる者が多い。だが、納得しない奴も当然いる訳で。
「ダッタラ、リストニイレルナ!」
「ソウダ、ソウダ! サイショカラ、ヤリナオセ」
「チートスキルヲタクサンツケタノニ、ドウシテゴブリンナンダヨ!」
あの一帯は、ゴブリンやコボルトが集まってるな。鳴き声や叫びがやかましいにも程がある。おそらく、チートスキルを付けすぎたペナルティ組か? 同情はするが、旨すぎる話には裏があるのは当然だ。
「うるさいねえ、ちゃんと話を聞いていないのが悪いんじゃないか。さて、皆様。これより異世界に転生しま~~す。魔方陣展開!」
「マテ、モウイチド‥‥」
「イヤアアア、コンナのイヤアアア!!」
彼らの抗議を無視して死神は作業に移る。足下に大きな魔方陣の紋様が広がり、魔物や人間達が次々と消えていく。今から俺も転生するのだろう。こうなったら第2の人生、思う存分楽しむしかない。となれば、方針は決まった。
「平穏な生活を送ろう。偉い人には近づかない方向で。勇者や魔王なんかの争いにはノータッチだな。‥‥って、あれ?」
俺以外の転生者は既にいなくなっている。空間に残っているのは俺と死神の少女だけ。どうして俺だけ転生しないんだ?
「自分だけ残って不安かな、立野佑樹さん? 君は近年まれにみる不幸な人物だからね。もう少し特典を与えようと思ったから、最後まで残ってもらったよ」
「‥‥不幸って、もしかしてあれか?」
「うん、あれ。結婚式の日取りまで決めてたのに、婚約者が君の親友と浮気して駆け落ち。あげく妊娠までしてたんだからね。その後の修羅場の心労でお母さんは亡くなったし、君はうつ病を患うしの三重苦。止めは、今回のテロで命を落とすなんてねえ。君さあ、前世で極悪人だったりする?」
「そんなの分かるか! 一部例外の方々を除いて、前世なんて分かる訳無いだろ!!」
死神の言葉を聞き、当時の事を思い出す俺。幸せの絶頂から不幸のどん底に叩き落とされたのは、昨年1月の事だ。結婚まであと2週間というところで、婚約者の父親から連絡が入った。『娘が行方不明になった』と。警察まで巻き込んで捜索した結果、俺の親友だった男と発見された。2人は1年前から浮気していて、お腹には親友の子供が宿っていたらしい。
その後の事は思い出したくもない。結論から言えば、親友と婚約者は高額な慰謝料を払うべく地元を離れた。現在、彼女は人にはとても言えない仕事をしているとの事だ。親友だった男は、人知れず自殺したと噂で聞いている。母まで亡くした俺はうつ病を患い、3ヶ月近く休職。復帰した1年後に今回のテロだ。確かに死神にすら同情される位の不幸か。
「‥‥今はだいぶ立ち直って来たけどな。それで? 特典とは何だ」
「うん、特典は願い事を1つ叶えてあげるよ。まあ、叶えられる範囲でね。さて何を願う?」
「俺と共に生涯を歩んでくれる女性が欲しい。それ以外は望まない」
もうあんな裏切りはたくさんだ。とはいえ、俺にも非が無かった訳じゃない。仕事に追われ、なかなか彼女を構ってやれなかったのも事実である。転生先では女性の扱いには、十分に気を付けないといけないな。
「ふーーん、それでいいんだ? 叶えられる範囲だから叶えてあげるよ。そうだな、君の希望に合う女性は‥‥っと。おおっ、とりあえず4人もいるね。よし、4人ともくっつけちゃえ!」
死神は懐から手帳を取り出すと、4人の名前を書いていく。あまりの決断の早さに、俺は慌てて抗議する。一緒にいてくれる女性を求めたのであって、ハーレムを望んだ訳じゃないんだよ!
「ちょっと待て! 女性問題で現世も苦労して来世でも苦労するのは‥‥」
また修羅場に巻き込まれるのはごめんである。俺の抗議に対して、全く意に介さない死神は笑顔で話を続けていく。
「大丈夫だよ。その4人、君を困らせる娘じゃないから。周りには害をすごく与えるけどね、特に君に近づく女性に対して。元からの知り合いみたいだし、上手く付き合っていけば良いと思うよ? 君は結構出世するし、向こうじゃ権力者なんかが女を囲うのは当たり前だよ。だから気にする事はないんじゃないかな?」
「‥‥おい、かなり心配なんだが?」
その4人の顔が容易に思い浮かべられるな。同僚の女性教諭に、教え子の女子生徒3人だ。うち1人とは十数年近くの付き合いだからな。前世では、先生と生徒だから3人とは付き合えないと優しく諭していた。だが、転生した先なら皆を幸せに出来るのかな。‥‥確実に血で血を洗う修羅場になりそうだったし。
「しかし、これだけじゃなあ。そうだ、君に異世界ナビ付のスクロールを進呈するね。地図に辞典に百科全書張りの資料に加え、無限に何でも書き込めるメモ張がわりになるから超便利だよ~~。持ってるの神様レベルの連中くらいだね。その名も◯霜の書〜〜!」
「おい、ヤバい名前を付けるんじゃない! 分かる人には分かる有名な予言書じゃないか!?」
なんで異世界の神がこっちのゲームを知ってるんだよ。俺もよくしてたゲームだからな。そういえば、教え子の彼女に貸しっぱなしだったっけ。盗賊を極めて暗殺者プレイに熱中してたが。
「冗談、冗談だよ。最近はまり出して徹ゲーしまくりなんだ。あのゲーム会社、早く続編出してくれないかなあ。はい、どうぞ」
‥‥なんか、オーバースペックな代物を渡されたんだが大丈夫なのだろうか? 俺は別に英雄になりたくないんだけどな。相当な実力とメンタルが無いとすぐ死にそうだから。しかし、妻が最低4人か。女性関係少し苦手なんだけど、上手く出来るか心配だ。
「じゃあ、そろそろ転生しようか。君は異世界で有名になるよ、妻達の尻に敷かれる男として。まあ、君より強い奥さん達だから夫婦喧嘩は避けた方が良いかな? 下手するとあっさり殺されるからねえ」
「それはどういう事だ? 詳しく話を‥‥」
不吉な事をさらっと言った死神に俺は質問する。だが、死神は俺の質問に答えずに魔方陣を展開した。
「詳細は言わないよ。だって、何が起こるか始めから分かっていたら面白くないもんね。あと精力絶倫のスキルもあげるよ。これで4人のお嫁さんも夜の生活は満足、満足! あと君の行動次第じゃ、お嫁さんの数が増えるかもね? それじゃあ、グッドラック!! 異世界でも頑張ってね~~」
ものすごく悪い笑みを浮かべながら、親指を立て見送る死神に俺は絶叫する。
「人の話を聞けええ!」
死神が魔方陣に力を込めると私は光に包まれ、彼女の姿が見えなくなる。俺の体は次第に小さくなり、子供へと戻っていく。‥‥はあ、赤ん坊からの再出発か。この先どうなっていくんだろうな。
次回、転生して10年後のユウキ登場。早速、受難が始まります。
立野佑樹 ユウキ 前世30歳
私立貴聖学園の教師で、担当は世界史。同僚の女性教師と婚約するも、親友に寝取られてしまう。多額の慰謝料を手に入れるが、母親が亡くなり、自分も鬱病を患う。女子生徒2人の親により、婚約者と親友、その家族は全てを失った。
とある女子生徒3人と女性教諭の尽力により、教師として復職するまで回復。しかし、修学旅行で自爆テロに巻き込まれ亡くなってしまう。
趣味 ゲーム 読書
スキル 神眼 時空魔法 火属性魔法 水属性魔法 風属性魔法 土属性魔法 消費魔力量減少 高速詠唱 魔法習得度上昇 魔力増加 異世界言語 言語解読 異世界常識 病気耐性 精力絶倫