第12話 説教タイムと第3の女登場
「先生、昨夜は随分とお楽しみでしたね。あまりの光景に私、途中で映像見るの止めてしまいましたよ。ウフ、ウフフ」
いや、マヤさんや。どこぞの宿屋の主人みたいな台詞言わなくていいから。光の消えた赤い瞳って怖いなあ、もう!
あれ、子供の時は分からなかったけど、思春期越えた頃から意味が分かったからなあ。まあ、それは置いておこう。現実から逃げてはいけない。
「‥‥皇女殿下ともあろうお方が盗み見聞きなんて、世も末ですね。しかも、私とユウキの夜の営みを‥‥。まだまだお子様の皇女殿下には刺激が強すぎたのではありませんか?」
「師匠! マヤをあまり煽らないで!! また血の雨が降るから止めて下さいよ」
師匠が女性の口調で喋ってるうう! かなり怒ってる証拠だよな。まあ、俺1人の時だけこうなるけどね。普段男っぽく話すのは心の防衛の為で、女性らしく話をすのは心を許している証だからな。
だが、これはまずい。親しくないマヤにこの言動をとる。それは彼女の怒りの現れだからだ。焦った俺は更に口を開こうとするが‥‥。
「ユウキ、お黙り! 今はアイラさんと話をしています。黙って大人しく正座してなさい」
「‥‥はい、申し訳ありません」
な、情けねえ。かつては先生と生徒の関係だったのにな。時には叱ったこともあるのに、今じゃ何も言えないんだ。とはいえ、皇族に平民が逆らうなんて出来ないし。
「ちょっと! 私のユウキに危害を加えようとするなら承知しませんよ」
「なんですって、この泥棒猫? 夜這いして媚薬飲ませた挙げ句、関係を持つなんて強姦ですわ。貴女に、かつてそれをやろうとした男達と何が違うのかしら?」
「今なんと言いました? 皇族と言えど許せない発言ですね。‥‥そんなに潰されたいの、皇女殿下?」
マヤと師匠が怖いよ、怖いよ! よく考えたら、マヤは前世の頃から俺の周りに女が来る度に排除していたものな。その頃から俺を男として意識してたんだと思う。だが、その威圧もかいくぐって俺の隣に居た女生徒が居たんだよ。
彼女は、無事転生して生きているだろうか? いるなら来て下さい。マヤさんの暴走を止められるのは君しかいないのです!!
「そもそも、皇女殿下は夜伽の相手は出来ませんでしょう? だから私が相手をして差し上げています。感謝されこそすれ、抗議されるいわれはありませんね。どうか、正妻としての度量と余裕を見せて下さいませ」
師匠、正論ありがとうございます。マヤには逆効果かも知れませんが。正論は上手く使わないと、時として更に状況を悪化させる事があるからな。
「わ、私がいつしてくれと頼みました!? アイラさん、とにかく止めてもらいますからね。 あと2、3年すれば私だって‥‥その、こ、子作りは出来ます。それまで待ちなさい、今の状況は不公平ですわ」
マヤさん、やる気満々じゃないですか。しかし、俺達が関係を結ぶには大きな壁があるんだよな。主に身分的な問題が。
「あら、皇帝陛下の許可も無くユウキを抱くと? ユウキを反逆者にするつもりですの? 皇女殿下ともあろうお方が、少し頭が足りてないんじゃありませんか?」
「ムキーー! 表に出なさい、アイラさん。こうなったらとことんやってやりますわ!!」
もはや、キャットファイトの様相を呈してきた2人の喧嘩。さて、どう対処したものかと悩む俺の肩を手で叩く人物、もとい救世主が現れた。
「‥‥はあ、先生も大変だね。修羅場真っ只中じゃないか。あの神様の言うとおりだったね」
「うわっ! 誰だよ?」
振り向けば、茶トラの猫耳と黒い瞳が印象的な獣人の少女が笑みを浮かべて立っていた。尻尾は茶トラ柄のカギ尻尾か、幸運を引っかけると言われてるよな。
服装はシャツと軽装鎧、革のスカートとブーツか。冒険者みたいだが、腰に差しているのは刀かな? この世界に来て初めて見たぞ。そんな彼女が、おもむろに人差し指を口の前に当てる。
「しぃぃぃ! 声が大きい。真矢も前世と性格が変わらないようだし、あのお師匠さんも少し難儀な性格してるし。先生、相変わらず女運無いんじゃないの?」
「もしかして、立花結唯か? よくぞ、よくぞ来てくれた! マヤを止められるのは君だけだからな。ところで神様というのは‥‥まさか、あいつ?」
立花結唯は、俺が気に掛けていたもう1人の女子生徒だ。アパートの隣に住んでいるせいか、付き合いは長い。鬱になった時は、色々と助けてもらった恩人でもある。料理とかよく作ってきてくれたな。得意料理の肉じゃがと唐揚げ、とても美味しかったよ。
「私達を転生させた、あの神様だよ? 帝都に歩いて向かってたら、突然現れてね。『修羅場なう。【悲報】貴女の愛しき先生、年上のお姉さんに初めてを奪われる。さあ、更なる炎上の為に燃料を投下しちゃいますよ。全砲門開け、ファイエル!!』とか言われて送りこまれたんだ。‥‥先生の馬鹿。なんで、私を待ってくれなかったんだよ?」
ジト目で俺をにらむ立花。くそお、あの馬鹿神め!! 燃え盛る火にガソリンを投入しやがった。しかも、立花も争いに参戦か? 俺の頭の処理能力も限界に近いぞ、おい。
神様、助っ人プリーズ。〇ン・ウ〇ン〇ーかパ〇ル・フ〇ン・〇ーベ〇シュタ〇ン連れてきてくれ! 間違っても〇ン〇リュー・〇ォー〇は連れてくるなよ!!
「まっ、いいか。今から逆転すればいいし。という訳で、先生。不束者ですが、末永くよろしくお願いします。‥‥言っとくけど、先生に拒否権は無いからね。拒否なんてしたら‥‥ねえ?」
立花の顔は笑ってるのに、目に光が無くなってるよ。 ヤバい、本気だ。俺を巡ってコブラとマングースが戦ってる所に、獲物に飢えたコモドドラゴンが乱入してきた様相を呈してきたぞ。あれ、そう言えば‥‥。
「なあ、立花。師匠とマヤが君に全く気づかないんだが、なんで?」
「ああ、気配遮断してるからね。私、チートスキル剣神を持ってるから。刀剣攻撃力2倍、剣技習得速度上昇とかの特典付きだからかなり強いよ?」
なにそのおっかないスキル。あまつさえ、立花が持っているというのが恐ろしい。何故なら立花は‥‥。
「おい、立花。まさかとは思うが‥‥」
「先生、ユイと呼んで下さい。マヤも下の名前で呼んでるんだから。先生の疑問に答えるなら、100人単位の悪党を殺してるよ? だって社会の敵だもん、前世の私の馬鹿親みたいに。あーーあ、あいつら殺せなかったのが心残りだったな」
「‥‥はあ、とっくに三桁も殺ってたのね。くれぐれもむやみやたらに殺さないでくれよ、ユイ」
「了解、先生。うん、やっぱり久々の名前呼びは嬉しいな!」
わお、既に悪党倒しまくってたよ。まあ、こっちじゃ合法だからまだいいがな。前世じゃ、ガチで親を殺そうとしてた。その都度、俺がゲームとかでストレス発散させてたんだ。うん、師匠と同レベルで危険だよ。とは言っても、3人の中じゃ性格が一番まともなんだよな。
「さて、先生のご要望通りに2人を止めるね。ご褒美、よろしく」
次回、ユイさんによる修羅場制圧。
人物紹介 立花結唯 ユイ=リンパード 転生前18歳 現在10歳
前世
ヤ〇ザの父親と悪徳弁護士の母親との間に一人娘として生まれる。7歳頃より、両親の仕事が多忙。育児放棄され、毎日泣いている所をユウキに助けられる。児童相談所等に相談するも、後難を恐れてか取り合ってもらえず。仕方なくユウキが面倒を見るように。
ユウキとは10年近い付き合いで、一緒に勉強や料理、ゲームをしたりして過ごす程に仲良くなっていった。しかし、ユウキが婚約者となった女性と付き合いだすと、疎遠になってしまう。
ところが、ユウキと婚約者の婚約が破談に。ユイは、マヤと共にユウキを元気付ける為に部屋を行き来する生活に戻る。本人は内心喜んでいたが、表情に出さないよう注意していた。
今世
猫族の名家たるリンパード家の次女として生まれる。物心ついた時より剣の才能に秀で、帝国西方においては剣神の再来と言われる程に。悪党や賊を嫌い、容赦なく斬り捨てる。民衆からは慕われ、賊からは恐怖の対象。
現在は、更なる強さと想い人たるユウキを探す為に帝国へ向かっていた。
趣味 料理 ゲーム 鍛練 ユウキ
スキル 剣神 剣術 短剣術 気配探知 隠密 心眼 縮地 威圧 不動心 頑健 異世界言語 言語解読 異世界常識 幼年期保険




