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転生しても受難の日々  作者: 流星明
波乱の学院生活開始!
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第124話 混沌の女神降臨

お待たせしました。

「マヤ、ユイ! ここは任せるぞ。俺はネリスを連れて移動する。こんな馬鹿を殺して、逆賊なんてあほらしいからな」


「えっ? ちょっと、立野先生!?」


2人に指示を出した俺はすぐにネリスの体をつかみ、そのまま彼女と共に別の場所へとテレポートを使う。戦いになっても被害が出ない場所となると、あそこしかないか。セネカすまない。故郷を使わせてもらうぞ。


「ま、待ってユウキ様! 僕も連れてってよ!!」


「先生、妾も連れて行くのじゃ!」


移動した際に、セネカとレイが必死に訴えていた。だが、俺はあえて無視をする。万が一愛する恋人や妹と戦うとなれば、彼女達が傷ついてしまうからな。泥を被るのは俺だけで十分だ。


俺が移動したのは、旧エゼラセ司教領のラクシュア畑。偽勇者マックスによる破壊の跡が生々しく残っているせいか、誰も人はいない。説得が失敗した時の事を考えれば、犠牲は少ない方が良いからな。


「こ、ここはセネカ達の故郷ですか? 立野‥‥ううん、ユウキも考えましたね。山の上にありますし、私達が本気で戦っても被害はあまりないでしょうから」


「あ~~、桜とネリスどっちで呼べばいい?」


「ネリスで良いですよ。私にとって、前世の記憶は少しの例外を除いて不要な物ですから。ユウキと鈴華姉様、七菜さん以外はどうでも良いので」


‥‥前世の両親すら捨てているか。それだけ、彼女にとって前世が苦しみの多い人生だったって事だ。俺や鈴華達が心に残ってくれていたのは唯一の救いだろう。


「ネリス、賢い君なら分かるはず。ここで奴を殺せばリーキッド侯爵家が潰れかねない。シンシア様やセネカが殺されかねないんだ。どうか、俺に免じて復讐を思い留まってくれないか?」


「分かっています! ユウキやセネカ、お母様達を苦しめる訳にいかないのは。でも、ようやく巡ってきた復讐のチャンスなんですよ!? 前世の私に、あんな事をした奴等を許すつもりはないですから」


「ネリス。君の怒りや苦しみはよく分かる。だが、どうか今は堪えてくれないか? いずれ奴等には地獄を見せると約束しよう。君を反逆者にしたくないし、レイやセネカ、シンシア様を泣かせたくない。だから頼む!」


「ユウキ‥‥」


葛藤する彼女の瞳には、まだ理性の輝きが残っている。それを見て俺はホッとした。もし、俺達の強い絆が無かったら、ネリスはあそこで暴走していたかもしれない。しかし、少し迷っているようだな。彼女の心にまだまだ寄り添う必要があるようだ。


俺が彼女の側に向かおうとしたその時、ネリスの隣から黒い瘴気が立ち上り1つの塊になる。それは長く白い髪と赤い瞳、豊満な体に黒のドレスを身にまとった女性の形へと変わっていった。俺は愕然として彼女を見る。神眼を使っても、何も写らなかったからだ。こ、こんな事は今まで無かったのに。


「ネリス。復讐を目的にしていたのに引き下がるだなんて、貴女の気持ちはその程度だったのかしら? 貴女の心に住み着いた男と少女の影響で、だいぶ復讐心が薄れてきているみたいね」


「ち、違います! 復讐はする。でも、今は時機では無いから保留にするだけです」


「あらあら。想い人とラーナの勇者に甘やかされ、すっかり牙を抜かれてるわね。まったく正義の女神め。余計な横槍を入れたおかげで、ネリスを闇に堕とせなかったわ」


「お前は何者だ!? どことなくアルゼナに似ているようだが」


俺が声をかけると女がこちらを振り向いた。明らかに強者の雰囲気を漂わせているな。実力的に近いのは神帝様だろう。となると、1人で来たのは失敗だったか。


「そりゃあ似てるわよ。あの子は私の娘だもの。初めまして、ユウキ=ファルディス。私は混沌の女神ナルヴィ。長い間封印されていたけれど、ようやく表舞台に出てこれたわ。ラーナやオードルの度重なる愚行のおかげで封印は解けた。あの愚か者達には感謝しかないわね


「封印された神って、ろくな事をしない気がするんだが、ネリスは知っていたのか?」


「わ、私が転生した時は何も聞かされていなかったわ。今まで生きてきた中でも、そんな神様がいた事は誰も知らなかった。学院図書館や帝国大図書館で読んだ書物にも載っていなかったし」


アルゼナの母親で混沌の女神って、初めて聞いた話だな。ネリスが所有する神話の本は何冊か読んだが、彼女の名前はまったく出てこなかった。図書館に収蔵されている書物にすら載らず、歴史にすら名を残さなかった神なんて、相当に危険なんじゃ‥‥。


「危険、ねえ? 私は普通にお仕事をしているだけよ。世界に混沌をもたらすのが私の役目。とはいえ、このままじゃ影響力が無いに等しい。だから私は‥‥こうするの!」


「な、何!? 私の中にナルヴィ様が入っ‥‥て‥‥」


ナルヴィがネリスの体に触れると、瘴気となって彼女の体に吸収されていく。まずい、このままだとネリスの体が乗っ取られかねない。俺は闇の瘴気を手でかき分け、ネリスへと近づく。指が黒ずみ、激痛が体に走るが気にする(ひま)なんかない。


「ネリス、ネリス! しっかりしろ、混沌の女神なんかに負けるな!!」


「‥‥うっ、あああっ! だめ、私から‥‥離れ‥‥」


「諦めるな! 気持ちをしっかりと保て。多くの苦難を乗り越えてきた君は、決して弱くなんかない。そんな君だからこそ、俺は好きになったんだから」


「ゆ、ユウキ、貴方って人は。駄目‥‥私はもう」


彼女の体を必死に揺さぶる俺。しかし、無情にも闇の瘴気はネリスの体に全て吸収されてしまった。最悪の事態を想定し、テレポートをいつでも唱えられるように身構える俺。ネリスの瞳がゆっくりと開く。


「ふう、ようやく乗っ取れたわ。随分と恥ずかしい台詞を言ってたわね。‥‥この娘の心、完全に貴方に奪われているわ。すけこましで精力絶倫なんて女の敵よねえ」


青い瞳が赤く輝き、嘲笑を浮かべる彼女を見て、すぐに俺は瞬間移動した。俺がいた場所に黒い稲妻が走り、地面を広範囲に渡りえぐる。判断が遅れていたら命は無かったな。これは死を覚悟する必要がありそうだ。


「へえ。私の魔法をかわすなんて大したものね。神クラスでもそうはいないわよ。‥‥アレクサンドの杖持ちか。だったら、私も本気で相手してあげる」


ネリス。いや‥‥ナルヴィは神弓を右手に呼び出すと、強大な闇の魔力を込め始める。白かった弓は黒く染まり、禍々しい形状へと変化した。天使は悪魔に、太陽は皆既日食の状態へと装飾が変化。現れた魔力の弦は、血のように真っ赤に染まっている。


「この体は私には窮屈だわ。本来の年齢である姿に変えましょうか」


闇の魔力の影響なのか、ネリスの体が少女から大人の女性へと急激な成長を遂げる。ローブやスカートは破け、シャツのボタンがたちまち弾けた。シンシア様に似た美貌と体型を持つ女性となった彼女。だが、その表情は俺の知る母と娘に少しも似ていない。


‥‥ネリスが美女になり、かなりエッチな状態になったのは少し嬉しいがね。


「男って馬鹿よねえ。命がかかっている時も鼻の下を伸ばすんだもの。あら? ネリス本人は嬉しそう。まっ、2度と体の主導権を渡すつもりはないけどね。とりあえず、邪魔な貴方には死んでもらいましょうか!」


ネリス‥‥じゃない。笑いながらナルヴィが弓を構えて魔力の矢を放ってくる。ちっ、何て数だよ。今までネリスが放つ矢はせいぜい2、3本に過ぎない。今は矢を6本近く飛ばしてくる。くそっ、数が多過ぎてさばききれないぞ。


「ふ~~ん、少しはやるじゃないの。ネリスが邪魔をしてくるせいで本気を出せないとはいえ、私の攻撃をさばくなんてね。でも、いつまで持つかしら?」


「伊達に戦争に参加したり、過酷な人生歩んではいないんだ。そう簡単にやられてたまるか!」


マジックシールドで矢を防ぎつつ、俺はナルヴィに向かってジグザクに走る。一発、魔法を至近距離で炸裂させ、気絶した彼女をセネカに見てもらおう。勇者たるセネカなら闇の力を断ち、ネリスを元に戻せるはずだ。


「自爆覚悟で私を気絶させるの? 切羽詰まっても頭は回るみたいね。だったら、こうしようかしら」


彼女の前に着いた瞬間、俺の周りが火に包まれる。とっさにマジックシールドを張ったが、シールド自体がみるみる焼けていく。慌ててテレポートを使って離脱した時とシールドが溶け落ちたのがほぼ同じだった。


「ちっ、無闇に近づくのは危険だな。となると‥‥うわっ、今度はなんだよ!」


見れば、俺の右足を地面から現れた巨大な手がつかんでいた。抜け出そうとしてもぴくりとも動かない。加えて、ある事に気づいた俺は青ざめる。加速度的に魔力が失われていき、魔法が使えなくなってしまったからだ。


「それは死霊の手よ。捕まえた獲物の生命力と魔力を奪い尽くすわ。さて、ユウキ。最期の言葉を聞いてあげる」


魔力の矢をつがえ、容赦なく俺を狙うナルヴィ。ふざけるなよ。こんな所で死んでたまるか! 俺は死霊の手を杖でひたすらに殴り付ける。さしものこいつも、神帝様の加護持ちの杖には勝てなかったらしい。死霊の手が叩かれた箇所から次々と崩れていく。


「往生際が悪いわね。私が止めを‥‥ネリス! いい加減にしなさい。私の邪魔を何度もするだなんて‥‥なっ、グリフォン!?」


「クェェェ!!」


多数の稲妻が突然ナルヴィに襲いかかり、彼女は慌ててマジックシールドを展開する。だが、それを剣で見事に粉砕して更に追い込む少女。グリフォンを御し、聖剣を操る人物など1人しかいない。‥‥まさか来てくれるとはな。


「やれやれ何とか間に合ったみたいだ。ユウキ様、遅れてごめんね。後は僕に任して欲しい」


「勇者セネカか。ふん、たかがこ‥‥む‥‥ぐっ! セネカ、私をそのまま殺しなさい! 女神ごと‥‥ええい、邪魔をしないでと言ってるでしょうが」


「あれを見て黙って見ているつもりは無い。セネカ、足手まといになるが俺も戦う。真っ向勝負では戦えないが、せいぜい(おとり)くらいにはなってやる」


ネリスも必死に抵抗しているようだ。だったら俺達は諦める訳にはいかない。彼女を殺すなんてもっての他だ。必ずネリスを救ってやる。俺は体力と魔力をポーションで回復。セネカの隣に並び立つ。さあ、第2ラウンドの開始だ!
















次回、(アルゼナ)による下克上。

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