第119話 交渉失敗の末に
お待たせしました。
「皆、僕を守ってくれ! 塀東さんは例のスキルを。須賀君はあれを頼む」
「分かったわ。スキル絶対正義の守り発動!」
「更に俺もスキルを発動。魔力強奪は地味だが、成美や好夫のスキルを長時間使えるようになる。ここには100人はいるから奪いたい放題だぜ!」
ちっ、厄介なスキルを重ねがけしやがって。絶対正義の守りは、所有者の精神が折れない限り3倍の守備力になる。それを須賀が魔力でカバーする訳だ。しかし、ここまで派手に暴れると反逆者とされかねないが分かっているのか?
「おい、3人とも。それ以上やれば国家反逆の罪で極刑にされかねん。大人しく降参した方が身の為だぞ!」
「先生、僕達は再試験を望んでいるだけです。詐欺師にだまされた我々を哀れと思いませんか?」
「そうよ、そうよ! 私達は悪くありません。むしろ、詐欺師を野放しにしていた学院の責任を問いますわ!」
詐欺師にだまされたのは同情するが、だからといって再試験は出来ないだろう。そんな事をすると、これから際限無く応じなければならなくなるからな。学院長は絶対に受け入れないはず。
「君達。詐欺とはだます方が悪いのはもちろんだが、だまされる方も悪いと聞いた事は無いか? 甘言を用いて欲望を刺激する奴等など、この世に数知れずいる。今回は手痛い勉強をしたと思って諦めろ」
「立野先生。僕達はもう引けないんですよ! 詐欺師に取られた金は皆が裏社会から借りた金なんです。ここで学院に入らなければ、返済が即始まります。毎日冒険者として働く位しないと‥‥」
「おい。それは日本で考えるなら闇金に手を出してるのと変わらんぞ!?」
1番借りちゃいけない所に借りてどうする!? おそらく親や親族からはお金を貰えなかったのだろう。だからって、裏社会の金貸しから借りたらまずい。たぶん、君ら冒険者稼業なんて生温い借金返済方法じゃないな。
男は鉱山奴隷で売り飛ばされ、女はセシルさんの下で娼婦の道に進まされる。すぐに金が入る手法で取り立てるのが彼らのやり方だからな。
「いるんですよね、無謀な借金してまで学院入学しようする人々が。多くは下級貴族や商家の次男、3男に娘が多いんです。実家の援助が望める位の実力があれば良いんですけど、実態は‥‥」
ネリス、それ以上言うな。彼らのライフは瀕死に近いから。
「実力不足だが、プライドが高くて諦められない。だから、裏社会の金貸しから金を借り、詐欺師に金を貢いでしまう。ねえ、小田君と須賀君に塀東さん。貴方達は本当に愚かね。私をいじめた頃と知能がまるで変わらないわ」
マヤさん。そんなゴミを見るような目で見ないであげて。軽蔑と嘲笑を受けている3人がキレだしたから。まあ、ちょうど良いかもな。皇女たる彼女に無礼な事を言えば、奴等不敬罪であの世行き確実になるし。と思ってた俺を殴りたくなるような発言を奴がしよった。
「あ、貴女は三条さんなの!? ふうん、皇女に産まれるだなんて運だけは良いわよね。でも、他は残念極まりないわ。だってさ、胸なんて前世と変わらない事が確定だし。いくら芸術の女神と言えど、逆賊の皇妃の娘という汚名は消えないんだから。皇帝陛下もよくあんな女性を皇妃にしたものね」
嫉妬9割羨望1割の言葉か。しかし、塀東。君は終わったよ。マヤの怒りに加え、皇族に対しての不敬が極まりない。現にホーウェン学院長は顔を真っ赤にしてブチギレてるし、小田君が支配しているはずの皆さんにも動揺が広がっている。
マヤさんは沈黙を守っているが、目が座っている。あまりの恐さにネリスとセネカが引いた程だ。さしもの男2人も、場の空気が殺伐とし出した事に気づいたらしい。慌てて塀東さんに抗議した。
「へ、塀東さん。いくらなんでもそれは言い過ぎだ! 皇族に対する不敬は下手をしたら、死罪になりかねない。学院入学どこらじゃなくなるんだぞ!!」
「お、おい。周りの連中から強烈な殺気が放たれてるぞ! 好夫、大丈夫か。俺達学院に入学出来るんだよな!?」
「へっ? な、なんでよ! 周りの大人が言ってる事を言っただけよ。私は、私は悪くないわ!!」
須賀君よ。君は周りの状況を見ていないのか? 学院上級生や受験生からも殺気を放たれてる事に。奇跡的に合格したとして、待っているのは恐らくかわいがりの毎日だぞ? たぶん、途中で事故死を装って殺されるだろうが。
「ま、まさかここまで塀東さんが馬鹿だったとは。だが、最早後戻りは出来ない。ホーウェン学院長! 彼女の考えは我々の総意ではありません。その上でですが、詐欺師にだまされた我々は再試験を望むものであります。もし、これが認められないのであれば、今から帝都で暴動を起こすつもりです。どうか、よく考え‥‥」
「おい、小僧! 皇帝陛下に対する侮辱をしたあげく、今度は脅迫か!? ふざけるのも大概にしろ。貴様らは学院に入学するにはふさわしくない。よって、学院入学資格の永久剥奪とする。これは貴様らの親族にも波及する。お嬢さんは確かゴルディフ公爵の一族の出だったな。この事を知った公爵が君をどうするか見物だな。生き残ったとしても病死を装った毒殺がオチだろうが」
「な、なんで私が毒殺されなきゃいけないのよ!? 私はゴルディフ公爵様の姪にあたるわ。殺されるはずがない」
塀東はゴルディフ公爵の一族だったか。よし、更に足を引っ張れるな。リーキッド前侯爵の勢力が抗争中だし、そっちにも揉め事を増やしてやるか。皇族を面と向かって中傷する愚か者を育てた親と公爵の激突は必至だろうしな。
学院入学資格を永久剥奪されたのは哀れだが、彼らの愚行を最大限利用させてもらう。
「ホーウェン学院長。彼らは受験生ではなく、ただの不敬な反乱分子です。ここで退治しても構わないと考えますが」
「‥‥かつての教え子にも容赦しねえな、お前さんは。だが、その判断は間違っていないか。ここで黙って見過ごしたら学院の名に傷がつく。ファルディス子爵、力を貸してくれ」
「確かに彼らは教え子でしたが、もう10年以上昔の話です。教師としての役目は必要ありますまい。むしろ、私達に害悪となる者を排除するのは当然だと考えます」
俺が見放した事で目に見えて怯える教え子3人。いや、君らやらかしてるからね。公的な場で皇帝陛下の侮辱なんて、独裁国家の公的な場で独裁者の悪口を言うのと同じ位に命知らずの所業だ。
「せ、先生止めて? 私が悪かったわ。ほら、頭を下げて謝るから許して。『素直に謝ったら許しましょう。罪を憎んで人を憎まず』って、前世のママも言ったから、ね」
おい、塀東。世の中には謝っても許されないって事は多いんだよ。しかも、罪を犯した者がそれを言うのは自家撞着も甚だしいぞ。
「‥‥これ以上の言葉はいらないな。まずは君からだ!!」
「へっ?」
俺は不意打ちに気味に風魔法を放つ。風の刃が向かった先は塀東だ。彼女のスキルである絶対正義の守りに一瞬阻まれるが、難なく通過して塀東の首が飛ぶ。血が噴き出し、そのまま倒れる彼女を見て動揺が益々強くなる反乱分子一同。はあ、実力行使するなら血が流れる覚悟位しておけよ。
「塀東さん!? た、立野先生酷すぎますよ。彼女の発言は確かに間違っています。ですが彼女はまだ子供です。過ちを許して更正させるべき‥‥」
「小田、君は分かっていない! ここは現代日本ではなく、異世界だ。そして時代区分は中世に近い。ここには人権も少年法も無いんだ。あるのは君らが皇帝陛下に不敬を犯し、更には帝都に騒乱を招こうとした事実のみ。よって、殺されても文句は言えない。覚悟するんだな」
俺は連続で魔法を唱えて、小田の支配する奴等を次々と倒していく。まったく容赦しない俺に恐怖したのか、スキルの支配から外れて散り散りになるデモ隊。もっとも、逃げ出そうとした奴等も拘束されているが。
「お、おい、好夫! 話が違うじゃねえかよ。数を揃えれば主張を受け入れてくれるんじゃなかったかのか!?」
「あ、ありえない! デモ隊に攻撃するなんて、民主主義の敵と言われてもおかしくないぞ。くそ、こうなったら撤退するしかない。皆、退けえ。退くんだ!」
民主主義の敵と言う割に、目的が皇帝直轄の学院に入学って本末転倒だと思うが? しかも、デモじゃなく暴徒化するって言ってるし。そんな小田の号令に従うのは10名程に減っていた。だろうな。皆、逆賊にはなりたくないだろう。従っているのは借金で首が回らない連中か。あいにく逃がす道理はないぞ。
天命人の悪行が最近多いからな。マヤやユイ、ミズキにアヤメとレイに誹謗中傷や危害が加えられかねん。ならば、ここは一罰百戒の気持ちで奴等を滅するのみだ。俺は愛する者を守る為になら、鬼にでも悪魔にでもなる。昔、多くの孤児院仲間を救う事が出来なかったからな。今度は絶対に失いたくない!
「マヤ、セネカは逃がさないようにしてくれ。ネリスは奴のスキルの効果が辺りに拡散しないように防いで欲しい。俺は‥‥奴等を殺すとしよう」
「ふん。そんな事でき‥‥ぎゃああ! 足が、足が‥‥がっ!!」
「くっ、ファイアーボール! えっ、押し負けてる? いや、私死にたくないの。魔法を止めてお願‥‥あ、あついいい!!」
「た、立野先生止めてくれ! 皆まだ子供だぞ!?」
「好夫、逃げるぞ! 奴は本気だ。逃げるしかないんだ」
風の刃や炎の矢で次々と逃げる奴等を倒していく俺。容赦も慈悲も無い攻撃に、小田と須賀は震え上がる。慌てた2人は学院の正門から飛び出すと、帝都の街中へと逃げていく。おそらく小田のスキルで逆転しようと考えているだろうが、そうはいかん。
『レイ、聞こえてるか? 今どこにいる』
『騒動を聞いて馬車に乗って向かっておるわ。どうやら、獲物はこちらに来たらしい。愚か者どもの相手は妾に任せよ。かつての同級生とはいえ、害虫に過ぎん。妾とて容赦はせぬよ』
小田以上の闇魔法のエキスパートが登場だ。一気に殲滅してやる。裏社会の皆さんには‥‥後で金を払うとしようか。
次回、小田と須賀の末路。




