第118話 かつての教え子達
お待たせしました。
午前中の数学に歴史。午後からの魔法と地理の試験が行われ、1日目の試験がようやく終わりを迎える。ユイは疲労からか先に帰ってしまった。マヤは学院長に呼ばれ、職員会議に参加。俺とネリスとセネカ、ミズキの4人は試験会場の片付けをしている。
「ユウちゃんにセネカちゃん。ごめんなさいね、本来は学院生の仕事なんだけど」
「仕方ないさ。外があんな状況になっているんだ。人手があちらに割かれている以上、俺やセネカが手伝った方が良い」
「いやあ、まさか自分の不勉強を棚に上げてやり直せ言う人が出てくるとは。ネリスお姉ちゃん、これっていつもの事なの?」
呆れた様子でセネカがネリスに尋ねる。現在、試験会場の外では一部受験生達による抗議活動が行われていた。『我々は学院関係者にだまされた! このままでは試験の公平性が失われる。再試験を望む』と言うのが奴等の主張なんだが‥‥。
「大騒ぎする受験生がいるのは毎年の事よ。でも、ここまで規模が大きいのは初めてね。貴族の子弟も参加してるようだけど、下手をしたら家族に迷惑をかけるのによくやるわ」
「しかし、このまま放置する訳にもいかんな。俺達も向こうに‥‥って、まずい!! ミズキ、セネカは武器を構えてくれ。ネリスは俺の側に来い!」
突然の俺の指示に対し、3人はすぐに従ってくれた。そこへ受験生の一団が雪崩れ込んでくる。止めに入ったはずの上級生達は何をしていたんだ?
「あり得ない、あり得ないよ! 僕が試験に落ちるだなんて。貴聖学院では三条さん達に負けていたとはいえ、成績上位の僕が異世界の試験に落ちる訳がない」
「そうだ、そうだ! 好夫の言うとおり。俺達はここで落ちる訳が無いんだよ。何故なら天命人なんだからな」
「私達は選らばれし存在。故に学院に入れないなんてありえない! だから試験をやり直させなさい!!」
‥‥間違いない、俺の教え子どもだな。まったく金をちょろまかす馬鹿に偽勇者もだが、なんで異世界で羽目を外すかね? まあ、異世界転生した俺最強の小説が流行っているのも原因だろうけどな。このまま放置する訳にはいかない。かつての教え子に道理を教えないと。
「おい、そこの3馬鹿トリオ! 俺は立野佑樹だ。君達の担任だったが覚えているか?」
俺の言葉を聞いて目を丸くする連中。背格好からして俺より2、3歳年上ってところか。その割には子供っぽさがまるで抜けていない。前世からすると30年近くは生きているはずなんだが。
「なっ! 立野先生だって? なんて都合が良い出会いなんだ。立野先生、私達は学院に入学したいんです。どうかお力添えをお願いします」
厚かましいにも程がある願いだな。神眼で見れば、小田好夫に須賀武志、それと塀東成実か。成績優秀だが協調性に難ありまくりの小田。強い者に巻かれまくる須賀。自分こそが正義と譲らない堅物女の塀東。これまた面倒な奴等が来たものだ。さて、まずは呆れた願いへ回答するとしよう。
「断る。だいたい試験は明日もあるだろう。こんな所でデモする暇があったなら、帰って勉強するんだな」
「立野先生、それで受かるなら僕達は帰っていますよ!! 今回の試験、過去問から出ると教わり必死に勉強したんです。なのに蓋を開ければ、見た事の無い問題の数々。学院関係者から情報をもらったのに、これじゃあんまりだあ!」
「そうよ、そうよ。学院関係者だから信用したのに。我々の主張が受け入れられないのなら、学院に対して心からの謝罪と相応の賠償を要求します」
なんだ、その予備校とかの受験対策みたいなのは。だが、学院関係者から情報もらっている? そんな事をする関係者が出ているのはまずいな。詳しく話を聞く必要があるようだ。
「おい、その学院関係者とやらはどんな奴だった? 詳しく教えろ。そもそも関係者が試験問題漏洩なんざ、現代の日本でも処罰の対象だ。普通の関係者は絶対にしない。君らはその事を知らなかったのか?」
「わ、私達はグラーツ先生と呼んでいましたわ。教え方も丁寧で分かりやすく、言葉に説得力がありましたし。まさか、私達はだまされたの?」
いや、だまされてるようだぞ? だって、学院をよく知るネリスとミズキが頭を抱えてるんだから。
「‥‥よくある詐欺ですね。学院の試験問題は学院長と一握りの教授しか知り得ません。また、これまでも試験は何度も行われましたが、過去問ばかり出る訳が無いです。それだと貴族側が有利になりすぎますからね。だから貴族の子弟が知らないであろう問題が出たりしますよ」
「生産物の生産地を答えたり、買い物の際の合計金額を出したりするのは貴族の子供じゃ分からないわよね。貴族で天命人という立場にあぐらをかいていたなら、なおの事でしょう」
確かによく見たら貴族じゃ分からなそうな問題もあったからな。もっとも、ユイとセネカは喜んで答えを書いていたけど。もともと貴族じゃないだけあって、地に足ついてるからな2人とも。
2人に感化されたのか、アイラとネリスにレイも平民の生活に関心を抱き始めた。よく領地の人々や商会の使用人達の話や要望を聞いたりしているらしい。ユイとセネカの存在がプラスに働くのは嬉しい事だ。
「と、ともかく俺達はだまされた訳だ。だったら、何か対応あってしかるべきじゃないか? 救済措置としてもう1度試験を‥‥」
「それは無いな。詐欺にあったのは気の毒だが、それも人生経験の1つだ。再試験をする気は無い。諦めてさっさと帰るんだ」
ようやくホーウェン学院長が教授達を引き連れてやってきた。マヤもこちらに戻って来たが、クラスメートだった3人を神眼で見たのだろう。途端に眉が跳ね上がる。マヤとは仲が悪かったからなあ、あの3人は。彼女をいじめていたグループに所属していたし。
‥‥ユイとレイが見事にグループを粉砕してくれて、全員泣きながらマヤに土下座する羽目になったが。なんだかんだ言って、あの3人は仲が良い。まあ、俺が絡むと仁義無き大乱闘をするが。
「ホーウェン学院長! 我々はグラーツ先生の学院関係者と言う言葉を信じて勉強して参りました。なのに、この仕打ちはあんまりです。どうか、再試験を‥‥」
「くどい! それにそのグラーツとやらは既に捕まえてある。ユウキ、アイラとアヤメが一緒になって探索したおかげだ。莫大な金を持って、帝都をとんずらする寸前で捕まえてくれて助かったぜ」
いつのまにやらアイラとアヤメが探索に参加していたらしい。まあ、キャットマスター持ちのアイラと裏社会から絶対の信頼を持たれているアヤメ相手だと逃げ切れないだろうな。
「さしもの詐欺師も捕まりましたか。そのグラーツ先生はなんて言っているんですか?」
「『金の為にやった。貴族や富裕層の子供からは、簡単に金をむしりとれる』だそうだ。学院の名誉を傷つけたからな。財産没収の上で鉱山労働に勤しんでもらう」
ホーウェン学院長の言葉を聞いて、絶望する受験生達。詐欺師にまんまとだまされたんだ。高い金を払ったあげく、試験に受からなかったら家族に顔向け出来ないよなあ。
「ぐっ。まだだ、まだ終わっていない! 僕達はこんな所で終われないんだ。今年受からないと、授業料返済の為に冒険者にされてしまう。だから、皆。僕に力を貸してくれ!!」
小田好夫が呼び掛けると、受験者達が武器を構えだした。表情は虚ろになり、こちらへと近づいてくる。これが奴のスキルなのか? 神眼スキルで確認してみると恐ろしい事が分かった。
『魅惑の扇動者 自分より低いレベルの者達を操る事が出来る。神様コメント 人数や効果時間は実力に比例して増えるよ。もっとも、この子は100人と5分が限界だけど。‥‥処分した方が良いっぽい?』
なんだこの革命家ご用達になりそうなスキルは!! アルゼナの言うとおり、ここで息の根を止めた方が良さそうだな。レイは自分を抑えられているが、小田好夫はスキルに振り回されるだろうから。
あいつ、他クラスの女生徒にストーカー紛いの事して停学になった事があるんでね。野放しにする訳にはいかないからな。
次回、教え子達との戦い




