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転生しても受難の日々  作者: 流星明
休暇であって、休暇じゃない!
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第105話 夢の中での再会

お待たせしました。

「‥‥ここは!? 俺が勤めていた貴聖学園の3年F組の教室か。教壇からみる風景が懐かしい。あれから10年経つんだよな」


夢の中で最初に見たのは、かつての職場だった。懐かしさの余りに何か込み上げてくるものがある。そう、ここで俺は皆に勉強を教えていた。まだ会えていない教え子達は元気でやっているだろうか?


そんな感慨に浸っていると、突然腰に衝撃が走った。見れば黒い短髪の女子高生が抱き付いている。顔は見えないが誰かすぐに分かった。


「結唯、この姿だと久しぶりに会うな。獣人姿の君も可愛いけど、前世の君も素敵だよ」


「うぅ、本来のユウキ兄ちゃんだ。私が大好きだった異世界転生前の姿。夢だけど会えて良かったよおお!!」


俺を見るなり泣いてしまう結唯。ブレザー姿の制服を着た彼女は、よく俺の家に来て勉強や遊び、果てはご飯を作ってくれた。だからか、前世の彼女を見てると俺もクルものがある。俺は彼女を抱きしめようと手を伸ばし‥‥出来なかった。


何故なら、結唯を俺から引き剥がす黒のロングヘアーにして、スレンダー体型の女子生徒がいたからだ。怒った表情も行動も昔のままだな、真矢。


「結唯さん。抜け駆けはご法度だと言ってるでしょう。‥‥先生、私にも何か言う事はありませんか?」


「ああ、真矢の前世の姿も美人だな。さすが、あの両親の娘さんだよ。将来は女優にでもなれただろうに」


「‥‥嫌です! 私は先生のお嫁さんになるって決めてたから。両親にはちゃんと伝えて許可は取ってありました。私は父の後を継いで社長になり、先生を副社長として迎える計画も考えてましたのに」


真矢よ。具体的な計画まで立てていたんかい! あのまま生きてたら、本当にそうなりそうで怖いな。しかし、そうすると何が起こるか分からないぞ?


「ちょっと、真矢!? 私は聞いてないよ。そんな計画していたなんて、この裏切り者! もし、生きていたら私は‥‥」


「ムキにならないの、結唯。私は貴女を先生の愛人にするつもりだったわよ? 私が子供を妊娠した時の発散や、夜のマンネリ防止の為に。‥‥貴女を省いたら、何をするか分からないものね。もちろん子供は認知するし、私の子供とも平等な扱いにするつもりだったわ」


「ふ、ふーーん。だ、だったら良かったよ。私は先生以外の男は嫌だもの。異世界行って同じ状況になったけどさ。まさか恋敵が7人も増えるとは思わなかったよ」


‥‥真矢の奴は結唯まで取り込むつもりだったのか。やはり父親譲りの計算高さだな。芸能界でも1、2を争う実力者と噂される人物の血を、マヤもしっかり受け継いでる。結唯さん、それは俺も同感です。当初の3人が、いつの間にか3倍になってますからね。


「妾の名前が無いのう。2人の両親の影響力を鑑みると、前世の我が家では敵いそうに無い。異世界転生万歳と言ったところかの」


「鈴華か? その格好、久しぶりに見る姿だな。‥‥あーー、君もネリスも大丈夫だったかい? 主に腰とか」


「‥‥安心するがよい。ネリスが回復魔法をかけてくれたからの。今はエアリアル公爵家の将兵らと共に新緑の森で野営中じゃ。セネカが魔物を率先して倒してくれるので助かっておる」


声のする方を見れば、茶髪にピアス、制服を着崩してスカートを短くした女子生徒が自分の机に座っている。間違いなく鈴華だな。何度も注意しているのに、まったく直してきやしない。何度、生徒指導の先生に苦言を呈されたか分かったものじゃない。


とはいえ、鈴華がああなったのは家族のせいだ。婚約者から婚約破棄された娘を両親は価値無しと判断した。それに絶望した鈴華は真面目な少女から一変するんだよ。高校生デビューした彼女は、悪い輩とつるむ事が増えた。酒にタバコに深夜徘徊等を繰り返し、補導された事も何度かあった。さすがに薬や男にはまる事は無かったらしいが。


「「鈴華。キャラクターと容姿があって無い(ません)よ?」


「ふん。精神は今の状態だから仕方あるまい。先生に注意されてからは、酒もタバコも止めた。深夜徘徊は止まらなかったがの。補導されても、両親は知らぬ振り。いつも迎えに来てくれたのは先生じゃった。そんなユウキと結ばれて妾は幸せよ。ふむ、そうだ!」


そう言って、鈴華は制服のシャツのボタンを外し、スカートをまくり上げる。前世の彼女の裸を初めて見たが、赤の下着に覆われた体は豊満で肌は滑らかだ。これ見よがしに見せてくる鈴華。俺、我慢出来そうに‥‥って、痛ええ!!? ちょっと、真矢に結唯。足を強く踏んで、耳を引っ張らないでくれませんかああ!?


「‥‥鈴華。それ以上先生を誘惑したら殺すぞ。 昨夜存分にしたんだ。次は私達に順番を譲るのが筋だろうが!?」


「鈴華さん。貴女、余程死にたいようね。夢から覚めたらカースドラゴンで消し炭にしてあげるわ」


2人とも、地獄の閻魔大王もかくやという声で脅さんでくれ! しかし、鈴華は涼しげな顔で笑うのみ。彼女も精神面強くなったもんなあ。最初助けた時からすれば、そのふてぶてしさは隔世の感があるよ。


「余裕が無いのう、2人とも。心配せんでも今日はそなたらに譲る。ただ、前世の妾の裸を先生に見せておらんからな。しない代わりに目に焼き付けてもらおうと‥‥」


「「邪魔をするな! とっとと服を着ろ、雌狐!!」」


キレる真矢と結唯を相手に挑発を止めない鈴華。その時、彼女の後ろから転移光が現れる。光の中から現れた1人の少女は、呆れながらも親友に苦言を呈し始めた。


「鈴華、何をしてるのよ? さっさと服を着なさい。先生を困らせるのは貴女の本意じゃないでしょ。まったく、深夜徘徊していたのは半分が遊びだったけど、もう半分が先生に迎えに来てもらう為だった癖に。本当、素直じゃないんだから」


「お、おい歩実! 何でそなたもおるんじゃ!? そして、さらっと暴露するでない」


眼鏡をかけた黒髪を三つ編みにした女子生徒は、無慈悲にも鈴華の制服を手早く整えていく。そうそう、こんな感じだった。歩実が鈴華の突っ込み兼ストッパー役だったもんな。しかし、歩実はアルゼナの恋人のはず。なんでまた夢の中に?


そんな疑問を全員からの視線と空気で気付いた歩実は、詳しく説明を始める。


「執務を終えて、寝室で寝てたらアルゼナ様が御光臨されまして。『レイちゃんが邪魔しないよう、監視役してくれない?』とおっしゃられました。断る理由はありませんから、来たまでです。それと‥‥前世の風景と人物を見たかったのもありますが」


懐かしそうに教室内と俺達を見る歩実。‥‥そうだな。あれから俺達は10年。鈴華は17年、歩実は15年経っている。一目見たいという気持ちは分かる。


「雰囲気は変わりませんが、見た目は大違いですね。私も含めて、異世界では完全にヨーロッパ方面の見た目だから当然ですが。はい、鈴華出来たわ。今日は邪魔しないのよ? 貴女だって17年近く、先生に会えるか心配してたでしょう。『いつになったら先生と会えるの?』『会えたのにすぐ邪魔が入る!』『魅力的な女性が増えて、私は勝てるかな?』って愚痴っていたし」


「ぎゃあああ!! 歩実、それ以上言うでない! プライバシー侵害じゃぞ!?」


必死に歩実を止めようとした鈴華だったが、さらっと話されてしまう。彼女にも不安と心配をかけていたんだな。これからは皆を手放さないよう、俺も頑張るよ。新たな誓いを胸にした俺。


その耳に聞きなれたチャイムが流れてきた。授業の予鈴のチャイムか。となると、彼女の登場かな? 教室の引き戸が開き、アヤメが入ってくる。まだ異世界の姿でだ。


「皆さん、お揃いですね。席について下さい。これからの事を説明しますから」


すぐに俺は1番前の席に座る。鈴華と歩実、真矢は不審そうにしながら席に座った。分かるよ、君達。アヤメが教壇に立っているからな。異世界人で半魔族の彼女は帝都の学院を知らないはず。なのに、教壇に普通に立っているんだから。結唯は‥‥気付いているな。だって、頭を抱えてるし。


「‥‥ふう。私だけ、異世界の容姿のままだと嫌だな。こちらの世界の容姿に戻るか」


そう言うと、アヤメの姿が変わっていく。身長が高くなり、起伏の激しい体型に切れ長で鋭い目。長い黒髪をポニーテールにして、高いオーダーメイドスーツを着こなす25歳の女性が立っていた。剣道5段の腕を持ち、その佇まいから『女侍先生』と生徒達に恐れられていた俺の元同僚だ。


その見た目からして気が強い性格の持ち主だが、ああ見えて結構酒は弱いんだよな。宅飲みの時、結唯と何度も介抱した事があるし。


「この姿だと久しぶりね、皆さん。辻綾香です。覚えていますか? もっとも、覚えていないと言わせないのが2人います。立花結唯と吉良鈴華!」


「はい、師匠! 私は忘れていませんでした。‥‥アヤメさんが師匠ってどういう事!? そんな素振りまったく無かったのに」


結唯にとって、辻先生は師匠にして恋敵であった。彼女が剣道部に入部した理由は、両親を殺す力をつけたいから。歪んだ気持ちに気付いた辻先生、容赦なく結唯の性根を叩き直す。何度も打ち据え、『この程度じゃ、両親に勝てる訳が無いぞ』と挑発。それにキレた結唯と壮絶な打ち合いを始めた。


竹刀がボロボロになるまで戦った2人の試合は、学園の伝説として語り継がれるようになる。学園上層部からは、やり過ぎだとして辻先生は懲戒処分を受けた。しかし、肝心の結唯が処分取り消しを求め、それが受理されたんだよな。理由は『私をまっとうな人の道に戻してくれたから』だった。以後、結唯は辻先生を師匠と呼んで、俺と同じ位に慕っていく。


もっとも、彼女が俺を好きだと知ると『相手が師匠でも負けませんから!』と啖呵を切ったが。


「なんで生徒指導の鬼がアヤメなんじゃ!? 心を読んでも、そんな要素が見当たらなかったんじゃがの」


「吉良‥‥君は相変わらずか。精神が弛んでいる。なんだったら、私が朝稽古を毎日つけましょうか?」


「ま、待って下さい! あれ、1回受けたけど1日起き上がれなかったから。よく結唯は平気だなって驚いた記憶があるので、絶対に嫌です!!」


ロックオンされた彼女は慌てて、歩実の影に隠れる。あまりの怖さに前世の口調に戻ったな、鈴華。よく捕まってたからね、君は。俺も鈴華の事で、生徒指導係だった辻先生には愚痴を聞かされていた。よく結唯の料理をつまみにして、話を聞きながら酒を飲んでいたのが懐かしいな。


俺が休職中の時も心配してくれて、様子を見に来てくれたっけ。料理を作ってくれたりしたよな。‥‥一緒に食べていたら、帰って来た結唯がすごい顔でにらんできて怖かったけど。


他の先生方からは、『私達には怖いのに、なんで立野先生にだけ優しいんですか!?』と苦情がきたが。まあ、『貴方方がセクハラ紛いの事をするからいけないんだと思います』とはさすがに言えんよなあ。


「吉良の事は置いておく。時間も無いし、話を進めましょう。教室に集めたのは、あくまで一時的な処置です。皆さんが話をしている間に、構築が完了しましたので移動しますよ。場所は‥‥立野先生の部屋です!」


「マジか!? いや、ちょっと待って辻先生。教え子達に見られたくない物がかなりあるんですが?」


「‥‥ああ、本棚の奥にあったエッチなDVDコレクションの事ですね? 色々とバリエーションがありましたねえ。さて、皆さん。それをどうしますか?」


「「「もちろん、壊します!!」」」


「はい、良くできました! まずはそれを壊してから次の行動に移りましょうね」


‥‥駄目だ。歩実以外の目付きが怖いよ。お世話になった彼女達に罪は無いのよ!? 歩実に至っては生暖かい目で俺を見ているし。うぅ、もう何もかも諦めよう。この夢を操る辻先生は全てを知っているんだから。








次回、真矢と結唯と。

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