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転生しても受難の日々  作者: 流星明
休暇であって、休暇じゃない!
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第103話 親子の話

お待たせしました。

エアリアル公爵との会談を何とか終えて、終わったのは0時を越えてからだった。まったく、何で私があいつらの尻拭いをしないといけないのかしら。自業自得以外のなにものでもないわ!


それにしても、ネリスの様子もかなり心配ね。あの娘は私達に似ず心が弱いもの。昔から引っ込み思案だし、学院でもいじめられていると聞いている。聖女の力を得たから、少しは改善されると良いけれど。


心乱れたまま客間へ戻ると、そのネリスの姿が無かった。ソファーに座って私を待っていたセネカに、ネリスは何処にいるかと尋ねる。『ファルディス子爵の部屋に行った』と彼女は告げ、シャツのポケットから手紙を私に差し出した。


娘の行動に驚きながらも、私は手紙を開く。それを読んだ時、私の目の前が真っ暗になった。娘が皆にあてた遺書だったから。私や使用人達には今まで育ててくれたお礼。ファルディス子爵やセネカ達には、仲良くしてくれた感謝の気持ちを伝えている。そして、最後は自分が死ぬ事でリーキッド侯爵家の罪を皇帝陛下に許してもらうと(つづ)っていた。


「ネリス!! ごめんなさい。幼い貴女に重荷を背負わせ過ぎたわ。ここまで思い詰めていたなんて。気付かなかった私は親失‥格だ‥‥わ。もし、ネリスが死んだら、バルドに何て‥‥何て詫びれば!」


「ネリスお姉ちゃんは、自分の人生に絶望したんだと思います。自分を押し殺して、周囲の期待に応えようと必死に生きてきた事に。このままじゃ死んじゃうと思って、ユウキ様に託しました。勝手な事をしてごめんなさい」


頭を下げるセネカを私は優しく抱きしめる。本当に貴女を引き取って良かったわ。危うくバルドの忘れ形見たる娘を失う所だったから。駄目ね。ほっとしたら、涙が出てきたわ。


「‥‥セネカ、ありがとう。貴女を咎めるつもりはありません。死に急ぐネリスを救ってくれたのだから。明日の朝、私は2人に伝える事があります。今日は夜も遅いから、すぐに寝ましょうね」


「はい! あっ、シンシアお母さん。僕、ユウキ様にネリスお姉ちゃんを‥‥その」


セネカが言い難い事って? ああ、そういう事ね。早い娘は13歳位でお嫁にいくし、気にしないわよ。むしろ、彼がネリスを愛してくれるのを歓迎するわ。ただし!


「もしかして、男女の仲になったのかしら? だったら、ファルディス子爵には責任を取ってもらう。ネリスを泣かしたりしたら、許さないからな」


娘には幸せになって欲しいもの。ファルディス子爵には釘を打ち込んでおくとしましょう。その後、セネカと共にベッドに横になって、そのまま就寝。


翌朝、1階の食堂へと降りれば、ファルディス子爵とエアリアル公爵父子、ネリスが椅子に座って待っていた。娘の顔色は良くなっているのは嬉しいけど、すっかり男女の仲になったみたいね。‥‥テーブルの下で手を握っているのが見えてるわよ。


「おはよう、皆様。ところで、ファルディス子爵。昨日はレイ様だけじゃなく、ネリスまで相手にしてくれたようね。私の娘に手を出すなんて、なかなか根性があるじゃないの」


「お、お母様。ユウキは悪くないわ。私が悪いの! 私がユウキに‥‥」


「お黙りなさい、ネリス! 私はファルディス子爵と話をしている。昨夜、貴方はネリスを抱いた。ならば、当然責任はとってもらう。生半可な気持ちで娘に手を出したなら、私の剣で斬り伏せる。返答はいかに!?」


私は剣を鞘から抜いて、ファルディス子爵の鼻先に突き付ける。並みの人間ならすぐに頭を下げるけれど、貴方はどう出るかしら?


「まずはシンシア様に謝罪を。この度はネリスに手を出してしまい、誠に申し訳ございません。ですが、あのままでは彼女が死を選ぶ可能性があった。だから俺は彼女を抱きました。この決断に後悔はありません。それをお気に召さぬとあらば、煮るなり焼くなりお好きになさったらよろしい」


私を見て言い放ったファルディス子爵。その目には強い信念の光が宿っていた。私の殺気を受けても動じないし、かなりの修羅場慣れをしているわね。さて、彼を試すのも止めましょうか。レイ様とセネカが動く前に。私は鞘に剣を納めると、ファルディス子爵に語りかける。


「覚悟は見せてもらったわ。ネリスを託すに足る男みたいね。ただし、付き合うにあたり幾つかの条件を提示します。まず、1つ目。互いに学院を卒業するまで子供を作らないこと。‥‥ネリス、悲しい顔をしない。節度を守るのなら、ある程度は夜の逢瀬を認めるから」


「よ、良かった。‥‥あっ、違うわよ! ユウキに捨てられない為に定期的に抱かれなきゃって思っただけだからね。決して、私が寂しいとか他の女性が妬ましくて羨ましいとか思っては無いわよ!」


ネリス、自分の本音をしっかり言ってるわよ? 案の定、この場にいた方達も同じ事を思ったらしい。


「‥‥ネリスよ。心の中がダダ漏れじゃぞ? じゃが、ここまで可愛い本性が現れるとはのう。無類の堅物娘も立派な女じゃったか」


「確かにな。軍師として名高いネリス=リーキッドが、ここまで不用意に感情をさらけ出すとは。どうやら、ファルディス子爵をかなり気に入ったようだな」


「っつ! わ、悪いですか? 私はもう彼と離れる気はありません。‥‥その。ゆ、ユウキを愛していますから。例え、相手が皇女殿下だろうがレイ様だろうが引き下がらないわ!」


よもや、エアリアル公爵親子にまで言われるなんて。まったく! ファルディス子爵ときたら、すっかり娘を落としてるじゃない。ネリスもあんなに喜んで、もう。やはり娘の幸せの為にはこれしか手が無いわね。


「2つ目。ネリスが持つリーキッド侯爵家の継承権を剥奪します。以後、継承権は養女たるセネカに移譲する。皇帝陛下の裁量次第だけれど、勇者である彼女がリーキッド侯爵家を継ぐ可能性が出てくるわね」


「そんな! わ、私がいけないの? お母様の期待に応えられなかった私が‥‥ふぎゅ!」


困ったわね。ネリスがまた落ち込んじゃったわ。って、ちょっとセネカ!? 娘の鼻を思い切り摘まむなんて、何をしてるの?


「はい、ネリスお姉ちゃん。また暗くなってる。シンシアお母さんが言ったのは適材適所って事だよ。ネリスお姉ちゃんはさ。人前に出るのが苦手だし、静かな生活を望んでるでしょ。リーキッド侯爵なんて継いだら、厄介な交渉事はあるし、海千山千の見本市たる社交界とかに出るんだよ? また精神的に参ってしまうじゃない。だから、僕が代わるの。マナーや礼儀作法はまだまだ苦手だけど、そっち方面は割と得意だからね」


「‥‥なるほどのう。リーキッド侯爵家の血を引いてなくとも、勇者セネカなら万人が認めるか。リーキッド流剣術を極めるのも容易いじゃろうし、何より現侯爵らが酷すぎじゃからな。皇帝陛下や民にしてみれば、セネカの方が頼りがいがあるじゃろう」


「勇者が次代のリーキッド侯爵か‥‥。シンシア殿もなかなかの策士であるな。実の娘をファルディス子爵に渡す事と言い、第2皇妃様の勢力から離脱しようと企んでおいでだ。皇帝陛下が認めた勇者相手では、彼女もうかつな事は出来ないからな」


エアリアル公爵様とレイ様が全てを言ってくれたわね。まあ、セネカならファルディス子爵側に味方するし、継承条件の1つたるリーキッド流剣術も極められるでしょう。ただ、そう簡単には免許皆伝を認めないわよ。


「さて、皆も揃ったので朝食をしながら話をしようか? シンシア殿らが第1皇女派閥の仲間になったのだ。詳細は詰めないとな」


私とセネカが椅子に座ると、エアリアル公爵様が呼び鈴を鳴らした。使用人達が朝食を運び、各自の皿に盛り付けていく。‥‥どうやら私とセネカがよく食べる事は知っているようね。パンやスープの量がネリスの3倍近くありますし。


「食べながらで聞いて欲しい。今回のリーキッド侯爵家に対する件だが、聖女ネリスと勇者セネカの力を貸してもらう事でシンシア殿やその臣下のみ許す事とした。他の連中は知らん。高い代償を支払ってもらおう。2人には領内の魔物討伐を依頼したいのだが、シンシア殿。それでよろしいか?」


「私は構いません。むしろ、2人の鍛練になりますので喜んで力をお貸ししますわ。もちろん私も娘達を監督するべく、討伐には同行しますが」


「構いませんよ。何故かは知らぬが、SランクやAランクの魔物が新緑の森に居座りましてな。『木の伐採が出来ない』と新緑の民より嘆願が届いたのです。おそらくはラクシュアの匂いを嗅ぎ付けたのでしょう」


結局はネッド達の尻拭いか。だが、ここでエアリアル公爵家との繋がりが出来たのは幸いね。今後の選択肢が増えたのは良い事だわ。ネリスとセネカを幸せにする為にもね。


「それと、ファルディス子爵。事の顛末を皇帝陛下に報告を頼む。隣がどうなるかは我々も関心があるのでな。出来れば、シンシア殿が重要な位置にいてくれる事が望ましいが」


「エアリアル公爵様。俺もシンシア様が中継ぎのリーキッド侯爵になって欲しいと考えております。いずれはセネカが継ぐでしょうが、彼女はまだまだ学ばねばならない事が多いので」


「それは貴方も同じでしょう、ユウキ? 私から見ると、貴族としての振る舞い方とか、セネカより少し上なだけだもの。私がマナーから何から2人を教育してあげるわ。覚悟しなさいよ」


「‥‥ネリス。皆の前で、俺に抱き付いている君に言われたくないんだが?」


「だって、しばらく会えないから。だから今のうちに甘えておくの!」


ファルディス子爵が苦言を呈しても、ネリスは甘えるのを止めない。私の娘ながら本当に変わりすぎよ。はあ、今まで真面目にし過ぎていた反動かしら?


「うぅ、勉強かあ。ま、まあユウキ様と一緒なら乗り越えられそうかな? 大好きな2人の為なんだ、頑張るぞ!」


「レイ、2人に負けるなよ? なかなかの強敵だからな」


「分かっております。これ、ネリス! いい加減離れんか。先生はそなただけの男じゃないぞ」


家柄も実力も格上のレイ様とファルディス子爵を負けじと奪いあうネリスか。我が娘ながら、将来が楽しみだわ。精神面に気を遣いながら、しっかりと鍛えていきましょう。


それにしても、9人の女性を奥さんにしようとするファルディス子爵って凄いわね。でも、少し心配な事がある。他の女の子達を放って置いたらまずい気がするわ。皇女殿下を始め、敵に回したくない方々も多いし、そろそろ彼を帰しましょうか。





次回、マヤとユイ、アヤメと夢の世界へ。

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