第90話 強大すぎる勇者の力
お待たせしました。
「‥‥アルゼナが早く行けって理由が分かったな。Sランクモンスター大量発生してるし。もしかして、ラクシュアの香りが漏れたか?」
テレポートでゴルディフ領に移動した俺達の前に現れたのは、因縁のエンシェントワイバーンの群れだった。ゴルディフ公爵の別邸は破壊され、裸に近い格好の女性達が次々と喰われている。ラクシュアの香りがここまで漂って来たし、どうやらゴルディフ公爵の次男坊は詰んだようだな。
「え、エンシェントワイバーン。私が勝てない相手が、あんなにたくさん。どうして、どうして‥‥」
「ねえ、ユウキ。ネリスの様子が変なんだけど!? 何かあったのかしら」
「ああ、ちょっとしたトラウマになっている。ちなみに俺もだ。自分の無力さを痛感させられたからなあ」
心折れたあの日の夕日、何故かとても暖かった。‥‥おっと、黄昏モードに入るのはまずい。まずはマヤ達を探そう。屋敷の周辺を見渡すとドス黒い闇を操る女性を発見。そこまでテレポートしてみれば、案の定レイさんだった。
「おお、先生ではないか! ラクシュア栽培の場所は押さえたようじゃな。こっちは集まってきたエンシェントワイバーンを操って、薬物乱交パーティーに参加した奴等の踊り食いをさせておる。生きていても害悪にしかならん連中じゃ。ここで殺処分してくれるわ!」
レイさん、Sランクモンスターを操るなんて大概過ぎませんかねええ!? 彼女の力って半端ない。下手したら世界を裏から支配出来そう。しかし、こんな時にストッパー役となるマヤとリーザはどこ行ったんだ?
「なあ、レイ。マヤとリーザは?」
「ああ、皇女殿下とリーザなら山狩りの最中じゃぞ? ゴルディフ公爵の次男坊が、全裸で馬に乗って逃げるという高等技術を披露してくれてのう。ケルベロスを群れで召喚して、あの山に追い立ておる。奴の乗馬は美味しく頂いたらしいから、後は次男坊じゃな」
レイが指差した山を見れば、あちこちから火の手が上がっていた。煙と炎は収まる様子も無く、燃える木々の間をケルベロスが走り回っているのが見える。うむ、地獄絵図に過ぎるな。この分だと次男坊の死は確定的だ。
「‥‥美味しそうだなあ、あのワイバーン。ユウキ様、あれを倒して良いですか?」
いきなりセネカがとんでもない事を言い出したんだが!? あれ、俺とネリスが倒すの諦めた魔物なんだけど。しかし、勇者たる彼女なら倒せるかもしれない。物は試しだ。エンシェントワイバーンを1体だけ相手させてみるか。
「分かった。レイ、セネカの為に1体こちらに連れて来れるか?」
「構わないが、先生。その子は誰じゃ? ‥‥まさか、また嫁を拾ってきたのではあるまいな?」
レイは険しい顔でセネカをにらむ。しかし、セネカはまるで動じない。むしろにらみ返している。ここで争わせる訳にはいかない。ここは俺に矛先を向けよう。‥‥死なないよな、俺。
「は、はは。やはり分かってしまうか? アルゼナに選ばれた最後の嫁さんなんだよ。勇者の力を持った少女で‥‥って。おい、レイさん! 闇の剣を出してどうなさるおつもり? いや、待って。悪かった! 休みに何でも言う事聞きますからああ!!」
頼む、ガチの殺気向けないでくれええ! こうなっては全面降伏しかない。マヤとユイも怖いが、レイも怒らせたら怖いんだよ。‥‥なんで、俺の嫁さん達は怖すぎる女性が多いのか。
「ほほう、男に二言はあるまいな。ならば、妾だけとデートしてもらうぞ。もちろん、夜までコースでな。ふふふっ、楽しみじゃのう!」
「ちょっと、ユウキ。だったら私も同じ事してよ。1人だけするなんてズルいわ」
「我も頼むぞ。よ、夜はまだ駄目だけど。ユウキとデートしたい」
「あっ、僕もデートしたい。帝都の美味しい料理をたくさん食べたいです」
「‥‥はい、分かりました。皆さんのご要望には快く応じさせて頂きますよ」
「「「「やった! 約束だからね!!」」」」
俺は皆の要望に、ただうなずくだけのマシーンと化した。えっ、なんでって? 皆さんの目から光彩が消え、果てしない闇が広がってるからだよ!! セネカ以外のね。断ったら何されるか分からないからな。と、とりあえず話をそらそう。
「ええと、レイさん。エンシェントワイバーンの件だが‥‥」
「分かっておる。しかし、本当に大丈夫か? あれはSランクモンスターじゃぞ」
「安心してくれ。セネカは勇者だ。聖剣も継承したし、実力があるのは間違いない。いざとなったら俺達も参戦する。だから頼む」
「承知した。では、1体動かすぞ!」
レイが手にまとった闇を指揮棒のように動かすと、1体のエンシェントワイバーンがこちらに向かってくる。くっ、やはり威圧感が半端ないな。ネリスやミズキも戦闘態勢をとってはいるものの、武器が小刻みに震えている。セネカは‥‥おい。なんで目を輝かせているんだよ! しかも、少しよだれ垂らしてないか?
「うわあ、とっても美味しそう。早速、頂きます。グリ、行くよっ!」
聖剣を抜き放ったセネカは、エンシェントワイバーンにグリフォンと共に向かう。どうやら奴も気付いたようで、炎のブレスを吐き出す。だが、聖剣の力なのか、セネカ達の前でブレスが左右に分かたれる。
炎を抜けたグリフォンが雷を放ち、エンシェントワイバーンに直撃。それに怯んだところで、飛び移ったセネカが心臓に聖剣を突き立てた。聖剣から出た聖炎で心臓を焼かれ、地上に墜落するエンシェントワイバーン。
‥‥あれ、俺達の出番無くない!? 全員が驚愕しているのも知らず、セネカは屋敷に群がる連中に聖剣を構えた。俺はすぐにテレポートで彼女の隣に立つ。その際、倒したエンシェントワイバーンをインベントリに回収するのを忘れない。
「セネカ、倒せるのか? 相手はまだ11体位残っているが」
「大丈夫。聖剣の力で彼等の首を飛ばします。‥‥心臓を焼いたのは失敗だったな。薬や武器の材料になったから。たくさん稼いで孤児院の皆を助けないと。ユウキ様、少し離れて下さい。今から大技使いますから」
「分かった、少し待ってくれ」
俺はマヤに通信魔法で呼び掛ける。アヤメが教えてくれたこの魔法は、今や俺と彼女達8人全員が使えるようになっている。セネカにも後で教えるつもりだ。
『マヤ、リーザ聞こえるか? 今からそっちに攻撃が届くかもしれない。すぐにケルベロスを引き上げて退避してくれ!』
『ユウキ? そっちは終わったのね。‥‥レイから連絡があったわ。勇者セネカ、また強敵が現れた訳か。後できっちり話をさせてもらうから』
『ううっ、私以上の実力者ですか。だが、私は指揮官としては優秀です。それで何とか優位にたって‥‥』
『はい、はい。リーザ、さっさと逃げるわよ。あのセネカって娘、実力が半端じゃないからね。逃げ遅れたら輪切りにされちゃうわ』
後は怖いが、何とか2人と連絡がとれたな。俺はセネカの後ろに下がって、防衛の準備をする。万が一、彼女がエンシェントワイバーンを倒し損ねた時に対応するためだ。もっとも、俺は心配していない。彼女の勇者としての力は本物なのだから。
「セネカ、良いぞ。勇者の力、皆に見せてくれ!」
「分かった。聖剣よ、勇者たる僕に力を貸して。聖なる嵐は、万物を切り裂き敵の命を刈りつくす。ゆけっ、セイントストーム‥‥ブレイバー!!」
セネカが光輝く聖剣を上段から振り下ろすと、無数の風の刃がエンシェントワイバーンに襲いかかる。人間達を食べつくし、満腹だった彼等の反応は遅れる。まあ、レイの洗脳の力もあって動けなかったのもあっただろう。首や翼等を斬られ、次々と地上に落ちていくエンシェントワイバーン達。‥‥それで済めば良かったんだがな。
「半壊近かった屋敷が跡形も無く消えた。それはまだ良い。セネカ、ケルベロス達が捜索中の山が崩れだしたんだが?」
「‥‥ごめんなさい。すっかり加減を忘れてました。あっ、皇女殿下は大丈夫かな!?」
どうりでラーナ神やアルゼナが執着する訳だ。勇者の力は強すぎる。それこそ、各国のパワーバランスを狂わせる程に。セネカを利用されないよう、隠したグレナムの気持ちがよく分かったよ。俺も彼女を利用しようとする輩から守ってやらないとな。
「ご心配無く、セネカさん。私達はここにいますから。ユウキ、色々と説明してくれるかしら? と・く・に、彼女が貴方のお嫁さんになった経緯を詳しく」
「わ、私も聞きたいです。どういう事ですか!?」
カースドラゴンの背に乗って、怒ったマヤさんとリーザがご降臨。この分だとアイラやユイ達に話す時も難儀しそうだなあ。だが、懐に入った窮鳥を捨てるのは仁義にもとる。セネカの為にも納得してもらわねば。‥‥俺、大丈夫かな?
次回、帝都でユウキに対する吊し‥‥お話と報告会。




