第88話 愚者は報いを受け、怠慢な神は制裁を受ける
お待たせしました。
「‥‥ぐううう!! まだだ、まだ負けていない。こんな所で死ぬ私じゃないぞ。チートスキル『不屈の生還』がある限り、私に負けは無いからな」
おいおい、おい! 受けた傷とかあっという間に回復してるぞ。チートスキル『不屈の生還』? いったい、どんなスキルなんだよ。 神眼で調べてみるか。
『不屈の生還。スキル保持者の精神が折れない限り、何度でも復活出来る。体力と魔力の完全回復と状態異常回復付き。神様コメント 常勝勇者に憧れた彼らしいスキルだよね。ただ、大きな欠陥があってさ。精神折れた時に今までの苦痛が全て跳ね返ってくるんだよ。まっ、甘い話には気を付けないとねえ』
「かなり非人道的なスキルだった!? 不屈の生還持った精鋭揃えて突撃されたら、敵の大将と兵士が泣いちゃうぞ」
殺しても殺しても何度もよみがえる兵団なんて怖すぎる。と、俺の言葉を聞き付けたのか、ネリスが呆れと哀れみの表情をしていた。
「不屈の生還なんて、かつては持て囃されたけれど最期が悲惨だって言われるスキルだぞ。死ぬ時に全身から血が噴き出して、肉体が破裂するらしい。あまりの酷さで、さしもの教会がスキル習得を禁じているよ」
なに、そのスプラッターな最期。精神が大人な俺でも見たらトラウマになりそうなレベルできつすぎるわ! しかし、マックスの奴。デメリットを知らずに使っているんだろうな。とりあえず、子供達やネリス達の精神衛生上の理由で説得しよう。
「‥‥おい、マックス。手柄も聖剣も、そして勇者になるのもいい加減諦めろ。君には到底無理だ。心技体が揃い、冷静な判断力と恐れぬ勇気が勇者には必要なはず。君には欠けてる物が多すぎる」
「うるさい、うるさい! 異世界でも教師面しないで下さい。私は何度だってよみがえる。そう、あのゲームの主人公みたいにね。大きな功績をあげ、ハーレムを作って豪遊するんだ。手始めに、先生を好きな立花結唯を手に入れてみせますよ。女神に仕える勇者には、誰も逆らえないだろうからね」
‥‥そういえば、こいつもユイが好きだったな。気性が激しい所はあるけど美人だし、優しい一面もあるから男子達からの人気もあった。ただ、誰1人付き合うには至らなかったがな。ユイ曰く、『ユウキ兄ちゃん以外はカボチャにしか見えない』らしい。
あの時、俺は嬉しかった気持ちが出そうになったが何とか抑えた。ユイとの付き合いは考えられなかったからだ。だが、今は違う。彼女を俺の女にする。いや、しなければならない。そうでなければ、異世界でも俺を探し続けてくれた彼女に申し訳ないからな。
「あいにくだが、ユイは俺の恋人だ! 他の誰にも渡す気はない。もちろん、君にもな。俺が相手をしようと言いたい所だが、ここはセネカに譲ろう。自分の家族を焼こうとした君を、自らの手で処断したいだろうからな」
「ありがとう、ユウキさま。‥‥マックスだっけ? ぼくのかぞくをころそうとしたのはゆるさない。せいけんよ、ちからをかして!」
セネカは聖剣ヴァンルクトの柄を両手で掴み、地面から引き抜く。清浄な青白い光が彼女を覆い、剣にも同じ光が煌めいた。どうやら聖剣はセネカを選んだようだ。自称勇者君が持った時は、全く光らなかったからな。まず、間違いないだろう。
「なっ、なんで聖剣を引き抜ける。き、君がまさか勇者なのか!? 私はただ運び手として使われただけ‥‥だと。うがああ! 寄越せ、聖剣を寄越せ。それは俺のだ、俺の物なんだよおお!!」
「だめだよ。せいけんは、ゆうしゃであるぼくのためにきてくれたんだ。こころがみにくいあなたにはわたさない!」
「権力と女を求めて何が悪い!? 異世界転生の定番たる勇者になれば、何もかもが思いのままだ。聖剣はその為の手形になる。だから返せええ!」
うん、台詞が悪党すぎて勇者の要素が欠片もない。目を血走らせながら少女から無理やり聖剣を奪おうとする青年なんて、ただの犯罪者じゃないか。しかし、セネカは余裕の表情だ。何か秘策があるのか?
「マックスさん、ごめんなさい。あなたには、すこしいたいめにあってもらうから。グリ! あいてをしてあげて」
セネカが大声をあげると、威圧感あふれる凄まじい鳴き声が辺りに響く。あれ? シスターが子供達を連れて、慌てて教会の中に入って入ったぞ。見ればグレナムは人の悪い笑みを浮かべていた。‥‥いったい何が起きるんだ?
「ふん。どんな奴かは知らないが、この辺にいる魔物など、大したことはな‥‥」
余裕かました彼の前に現れたのは、鷲の頭と翼、ライオンの体をした巨大な魔物でした。マックス君、総身冷や汗まみれですやん。確かにグリフォンなんて出てきたら、自称勇者じゃ無理だよなあ。ランクAの超危険な魔物だし。確か冒険者ギルドの通達では、100人単位での討伐が推奨だったような?
「グリ。きょうのあいてはがんじょうなの。とことんやっていいよ!」
「クエッ!」
「えっ、いや。ち、ちょっと待って。そんな実験台のような扱いは断固抗議するぞ! 人権侵害だ、勇者たる私に‥‥ぎゃああ!!」
グリフォンの嘴による高速突きで体中に穴が空くマックス。しかし、すぐにスキルで回復する。すると今度は彼の頭を咥えこみ、かみ砕くグリフォン。それでも回復するマックス君。‥‥あのう、これって無限生き地獄なんじゃ。
「待て、待てと言うに! 取引だ、取引を‥‥アババババッ!!」
「グリ、かみなりをどんどんつかっていいよお! たおしがいのあるてきなんて、そうはいないからね」
「ギャッ!」
無数の雷によって、マックスの全身は焼け、焦げた臭いが辺りに拡がる。おいおい。それでも回復するのか、彼は。鋼の精神力だけは、数多くの不祥事起こしても、いけしゃあしゃあとしてる日本の政治家並みですかね!?
「た、頼む。人の話をき、聞いて下さい。お願いしますから、ドワアアア!!」
「さあ、こんどはたつまきだよ! あおいおそらにとばしちゃおう」
竜巻によるトランポリンを強制的にさせられるマックス君。セネカさん、高低差200メートルはありませんかね? ムカつく奴だが、教え子だ。ここはタオルを投げてやろう。と思ったら、マックス君が地上に転移されていた。うわあ、穴という穴から全部垂れ流しで悲惨すぎる。金髪のイケメンなのにもったいないな。
「‥‥聖剣を盗む重罪人です。勝手に殺されては困りますから。ユウキ、お久しぶりですね」
天上から巨大な光が舞い降りて来て、地面に降り立った。現れたのは正義の女神であるラーナ神だ。聖女のネリスはもちろん、極光教の信者たるグレナムやセネカも跪く。
「ラーナ様の登場ですか。確かに、この場で落とし所を示せるのは貴女しかいないでしょうね」
「ええ、その為に来ました。勇者セネカ。貴女が家族を傷つける彼に怒りを抱くのは当然です。ですが、ここまでで許してもらいませんか? 彼には罰を受けて貰わねばなりません。公開処刑。しかも、火炙りで」
ラーナ様、かなり怒ってるなあ。ラクシュア騒動で頭を痛めてる所で、聖剣盗む愚者が現れたんだから。しかも、マックス君は簡単には死ねない。例え火をかけられても、スキルのせいで何回か復活する羽目になるだろうし。
「なっ、お待ち下さい。私は勇者たる資格を持つ身。地上の法に従ういわれは‥‥ギャアアア!」
「しばらく寝ていなさい、不愉快だわ。ちっ、こんな奴をアルゼナからもらってしまった過去の私を殴りたい」
あのう、ラーナ様。グリフォン以上の雷喰らわさないでくれませんかね!? マックス君はともかく、畑とか完全に大穴開けてますから。と、そこへまた天上から光が降りてきた。このタイミングだと考えられるのは‥‥奴だな。
「イエーイ! 噂を口にされたアルゼナのご登場だよ。ねえねえ、セネカちゃん。私の信者にならない? 今すぐに契約してくれるなら、なんと! チートスキルを1つプレゼントだ。今だけ、今だけの大チャンス。どうかなあ?」
「え、ええと。チートスキルですか? うーーん、ほしいかも」
アルゼナさんや、貴女はテレフォンショッピングの売り手かよ!? いくらなんでも、現代日本の文化に染まりすぎだろ。転生させるのが日本人だけだと考えると、日本をかなり気に入ってるんだろうが。
「アルゼナああ!! 私の勇者を悪の道に引きずり込まないで下さい。勇者セネカは我が聖剣を得たのです。貴女はお呼びじゃありません。シッ、シッ!」
「‥‥おい、ラーナ。犬か猫を追い払うような仕草はやめてくれない? さすがの私もキレちゃうぞ。くらえっ、『スライム地獄への招待状』!」
「スライム‥‥って、くさっ! アルゼナ、いったい何を召喚したの!?」
ラーナ神の足下に黒い魔方陣が展開され、強烈な悪臭と共にスライムが何体も現れた。ええと、アシッドスライム。ランクSのモンスターで魔法吸収力が高く、物理攻撃もなかなか受け付けない。素材もショボく、悪臭が酷いので冒険者泣かせの魔物か。なんつう魔物を呼ぶんだアルゼナさんよ。ネリスやセネカ達も必死に鼻を抑えてるよ。
「えっ、ちょっと。なに、この魔法。い、イヤアア! スライムの触手が私の足に。この魔法で‥‥って、効かない!?」
「そのスライム達は魔法を吸収しちゃうんだ。しばらくは反省するんだね。それじゃ、スライム祭り楽しんできてねええ!」
「ちょっと、待ってよ! 私にこんな事して神帝様が黙っては‥‥」
「神帝様からのお言葉です。『最近、ラーナの信者の横暴が目に余っている。よって、アルゼナにお仕置きを命ず。手段は問わない』との事です。ラーナ、ちゃんと反省してね!」
「嘘、神帝様がお怒りだなんて。アルゼナ、さては貴女が讒言したわね。私の勢力拡大に嫌気を‥‥」
「あのねえ、今回は私と他の神様全員からの進言なんだけど? 聖女の暴走に教皇連中の怠慢、ラクシュア騒動と極光教の悪事が多すぎる。『こうなったら、責任者たるラーナに責任をとらせるべし』と皆が言ったら、すぐに神帝様が判子押してくれたよ」
アルゼナの暴走かと思ったら、神帝様直々のお仕置きだった。しかも、ラーナ神以外の神様連名の進言で。これだとネリスやグラスは文句言えないよな。グレナムなんて、顔色青くなってるし。自分の悪行で神様が罰を受けたんじゃ、聖職者としていたたまれないんだろうな。
「く、臭い。臭いいい!! アルゼナ、お願いだから止めて。こんなスライムの中にいたら、私は」
「ラーナ、恨むのなら君の高飛車で傲慢な態度を恨むがいい。君はいけすかない同僚だったが、なにより私のユウキに手をだすからいけないんだよ」
「アルゼナ、謀ったなああ! ユウキを私は諦めないわ。ネリスとセネカを使って‥‥ゴボボボッ‥‥ボッ」
最後まで言えず、スライムが待つ空間に沈んでいったラーナ神。右手が最後に沈んでいくって、溶鉱炉に沈むター〇ネー〇ーじゃないんだから。『ア〇ルビー〇ック!』は当分お預けかな?
「さてと、邪魔者はいなくなったし。セネカちゃん、話をしようじゃないか。私の信者になってよ」
次回、アルゼナよりセネカに贈り物を送る。
セネカ=フォルン 10歳
エゼラセ司教グレナムと現ゴルディフ公爵の異母妹であるユシカの1人娘。幼い頃より食事量が多く、困窮したグレナムがラクシュア栽培に手を出した原因。
それをセネカは気に病んでおり、周辺の魔物を狩って食料としていた。狩りの最中で、死んだグリフォンの側にあった卵を見つけ、家に持ち帰り孵化させる。それがグリであり、セネカを母と思う彼とは相棒となっていく。
グレナムがセネカの職業を調べると勇者と判明。聖都の腐敗を知る彼は、セネカをただの騎士として届ける。全ては彼女の力を正しく使え、幸せにしてくれる人物に託す為に
性格 物静かだが、芯の強い少女。狩りが得意で体力には自信あり。反面、勉学は苦手だがある事がきっかけで徐々に改善していく。
趣味 狩り グリと遊ぶ 修行
スキル 勇者の心 魔物扱いS 剣神 全属性魔法の素質 縮地 スキル習得速度上昇 弓聖




