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転生しても受難の日々  作者: 流星明
教え子2人との再会
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第9話 神眼の魔法使いガルド=ホーウェン

「うん‥‥こ、ここは?」


「目が覚めたか、若いの? ったく、とんだすけこまし野郎だぜ。皇女殿下とファルディス家の令嬢、その2人を両手に花とはな。まったく命が惜しくないのかねえ?」


ベッドから起き上がり、声のする方を見れば先程魔法を放った男がいた。野生的な顔立ちとどえらい髭、体の筋肉が浮き上がって見えているローブ。そして手に持っている巨大な杖を見れば、俺は彼が何者なのか分かった。


「まさか、あの場にいらしてたとは。助かりました、神眼の魔法使いガルド=ホーウェン様」


そう、俺とマヤの持つチートスキルたる神眼を持つ異世界人。現在の帝国において、最強との呼び声高い魔法使いだ。何度か貧民街とかで会って話をした事があり、知り合いと呼べる存在。


師匠も一流の魔法使いだが、彼と比べると大人と子供位の差があるからな。ただ一流の中での話であり、師匠も並外れた魔法使いである事には変わりがないが。現在、魔法使いを育成する魔法学院の学院長と帝国宮廷魔法師団団長を兼務している。そんな男が劇場にいたのは不幸中の幸いだったな。


「俺も観劇は好きでな。女房を連れて来てたんだが、尋常じゃない殺気に気づいてな。すぐにかけつけて見れば、とんだ修羅場に巻き込まれた訳だ。2人に随分と愛されてるらしいじゃないか、ユウキ。おっと、場所だったな。ここはファルディス邸のお前の部屋だ。今、アイラはナージャに説教されている。皇女殿下は‥‥」


目配せするホーウェン学院長の隣には、心配そうに見つめるマヤがいた。そう言えば、うつ病を患って休職していた頃、2人の女子生徒と一緒によく家に来てくれていたな。家族を失い、生きる事に嫌気が差した俺を助けてくれた。そんな時によく見せていた表情だ。


もっとも、心温まるエピソードだけじゃないのが悲しい。その3人による食事の際に起きた俺の隣争奪戦。あとバレンタインの惨劇など心荒ぶるエピソードもあるからなあ。


「ここにいるわよ、ユウキ。体は大丈夫かしら? それにしても折角の勝負をよくも邪魔してくれたわね、学院長。アイラさんの心を折るチャンスだったのに」


恋敵を倒す為だけに戦うのはやめてくれ! しかし、学院長がいてくれて本当に良かった。いなかったら、俺を含めて生きてないかも知れなかったからだ。改めて思うが、師匠もマヤも人々に恐れられる魔法使い。夫婦喧嘩は絶対に止めとこう。常に平和的解決を模索するのだ、俺!


「‥‥マヤ様、帝国を崩壊させようとするのは止めてくれませんかね。アイラの隕石魔法が落ちたら帝都が吹き飛ぶのですぞ。自分が起こした行動で、大勢の国民が死んでしまう重さを自覚なさってください!!」


髭面の強面での強い諫言に、さすがのマヤもたじろぐ。


「っつ! 分かったわよ。確かにやり過ぎたのは認めるわ。ごめんなさい。アイラさんがあそこまで先生を好きだなんて思わなかったもの。こうなったら懐柔していくしかないわね」


諦め顔でそう言ったマヤを見て、俺とホーウェン学院長は胸を撫で下ろす。キレた師匠を止めるとなると、何人犠牲者が出るか分からないからだ。


「それはそうとだ。まさか神眼持ちが帝都に3人もいるなんて驚きだぜ。しかも、皇女殿下と同じく天命人ときた。女神アルゼナもすごい奴を連れてくる」


あのトンデモ女神はアルゼナと言う名らしい。何でも生と死を司る女神らしく、神々の中では上位に位置する神なのだとか。‥‥ええ、オリュンポス12神並みに素行の悪い神じゃないですかね。


あいつら人を誘拐はするわ、片手間に戦争を起こすわ、痴話喧嘩に人を巻き込むわで、印象最悪だからな。こりゃあ、油断出来そうにない。下手したら神々の戦いに参加してとか言われそう。とはいえ、まずは目先の事だ。


「はあ、ホーウェン学院長には隠し事は出来ませんね。確かに私は神眼持ちです。俺に度々会っていたのはそれが理由ですよね?」 


「まあな。悪用するような奴なら、奴隷にするか潰さないとと思って接触した。取り越し苦労で何よりだったぜ」


ドスの効いた言葉に俺は震える。悪用なんかしてたら奴隷か死かなんだから当然だ。物騒な話が続く前に何とか話題を変えなくては!


「と、ところで天命人と我々を呼びますが、この世界では結構知られた存在なんですか? アルゼナ様が連れて来るとかおっしゃいましたし」


「ああ、何せ俺の師匠も天命人だからな。エルフだが、人が大好きでこの帝都に学院を作ったのは彼だ。『私と同じ存在が困らぬように学校を作って置く』とか言ってたぞ。『天命人と呼ばれ、差別されたり利用されやすい君達も集まりやすいだろうし』とも言ってたな」


何、その神様みたいな人。まさしく教師の鏡だな。上手く行けば天命人同士が学院で再会出来るというオマケ付きだ。しかし問題もある。皆が皆、善人とは限らない。当然、天命人の中には悪事に加担する奴も出てくるだろう。


「ホーウェン学院長、天命人の中には悪さをした者もいたのでは? 全員が全員善人と言う訳ではありますまい」


「ああ、結構な悪がいたな。第六天魔王を名乗って周辺国に攻め込んだ国王だろ。『海〇王に俺はなる!』とか訳の分からん事を言って海賊どもを束ねる奴。あとは『ヒャッハー』と叫びながら盗賊行為をする盗賊団を作った奴もいた。安心しろ、帝国軍が全部討伐したから。うん、どうした。頭を抱えて?」


異世界で漫画やゲームの真似事してんじゃねええ! しかし、今回転生した奴らの中にもしそうな奴らがいるよなあ。出会ったら他人の振りを貫こう、うん。


「はあ、間違いなく男よね。女性だったら貴族令嬢になるか、聖女様とかになりたがるでしょうし。先生。言っておきますけれど、私は望んで皇女になったわけじゃありませんからね」


「そうなのか? 確かに生まれについては設定出来なかったからな。出来ていたら、俺もここまで大変じゃなかったはずだし」


貧民街の孤児院からスタートって、かなり重いハンデだと俺は思う。食堂や寝床にはネズミやゴキブリが這い回り、風呂は無くてトイレは桶。冬に井戸の水濡らしたボロ布で体を拭くのは死にそうだったな。極め付きは大をした後に木ヘラで尻を‥‥。


うん、なんか泣きそうになるから思い出すの止めよう。幼年期保険が無かったら、今生きていない可能性が高い。その点、マヤは恵まれていると思った。下手をしたら暗殺される可能性はあるけどな。


「お前さんは貧民街で魔法が使える少年として、有名だったからな。弟子にする事も考えたが、アイラに取られた後だった。まあ、ここまで使える魔法使いになったんだ。俺が弟子にするより良かったのかも知れんがな」


もし、俺がガルド=ホーウェン学院長の弟子になっていたらどうなっていたんだろうな。時空魔法ではなく、他の魔法が得意になっていたかも知れない。まあ、時空魔法は使い勝手がいいから後悔はしていないがね。なにより師匠に会えたのが1番の収穫だ。って、マヤさん。怒った顔して、思い切り俺の足をつねらないでくれませんか!?


「ガルド学院長。来月行われる予定の学院入学試験はどうなってますの? 私の所に試験についての案内が来てないのですが」


「痛たっ。そ、そう言えば俺の所にも来ていません。何か書類に不備でもありましたか?」


あれ? マヤにも来てないのか。皇女の彼女はともかく、俺はまだファルディス姓を持っていなかった。てっきり、平民だから切られたかと思ったが、ホーウェン学院長の人柄を考えればそうじゃないだろうし。


「なあに、簡単な事だ。2人とも合格さ。その代わり、試験では試験官を努めてもらう。神眼持ちだからカンニングする馬鹿も見抜けるし、受験者をふるいにかけられる。一石二鳥だろ?」


「「ええっ!!」」


「まっ、筆記試験だけ免除だがよ。実技はしっかり受けてもらう。筆記試験合格なら入学は出来る。あとはどの位置で入学出来るかの問題だ。頑張れよ、2人とも」


いつの間にか、筆記試験の試験監督官をする事が決定してしまった俺とマヤ。これは来年以降もこき使われそうな展開だな。筆記試験免除は嬉しい誤算だ。まあ、それでも勉強はするけどね。師匠から学院の厳しさはよく聞いている。落第しないように出来る範囲は学んでおかないと。


次回、ファルディス家の人々とマヤの初対面です。

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