第82話 騒動の後始末 3
時間かかりましたが、お待たせしました。
皇帝陛下の前を後にした俺達は、ファルディス家へテレポートで急いで戻った。最近、慌ただし過ぎるよなあ。学院の入学試験も反乱と戦争に今回の騒動で延期になってるし。とにかく、早く終わらせて休むとしよう。決意を新たに、執事の案内で皆が集まる食堂で見たものは‥‥。
「どうして、どうしてレアがこんな事に。ルパード、貴方がお金を渡しさえしなければ!!」
「‥‥本当にすまない! 全ては私の甘さから出たものだ。私の実家もラクシュア流通に関わっている。おそらくとり潰される可能性が高い。私も連座で捕まるだろうな。どうすれば、どうすれば良かったのか」
「私達は‥‥これからどうなるのかしら?」
ナージャ様は半狂乱になって、ルパード様を問い詰めていた。しかし、彼も絶望しているのか上の空になっている。目も表情も暗く、半ば死んでいるかのような姿を見れば、ファルディス家を取り仕切っていた2人とは到底思えない。
「ねえ、ユウキ。私がこんな修羅場にいても良いのかしら。場違い感が半端無いのだけれど?」
「マヤにも居てもらった方が良い。君の事業の根幹を担うファルディス家の今後を決める会議だ。それに‥‥皇女殿下臨席の会議なら無茶も出来ないだろ? 暗殺とかの刃傷沙汰は勘弁して欲しいし」
「ユウキ、事を穏便に収める判断としては間違っていないがな。しかし、あそこの2人を見てみろ。会議など出来る余力は無さそうだが?」
ネリスが指差したアイラとユイは、連日の調査で疲れ果ててテーブルに突っ伏している。2人にはかなりの負担をかけたな。側にはミズキも控えていて、不安そうに俺を見てくる。話し合いが終わったら寝かせるとしよう。
「アイラ、ユイ! 起きてくれ、会議を始めるぞ。俺の代わりに色々としてくれて感謝してるよ。ありがとう」
「はっ! ごめんなさい、ユウキ。私、うっかり寝ていたわ。姉様達の動向やコウタの横領調査、更にはラクシュアの流通経路の捜索と大変だったから」
「ううっ、ユウキ兄ちゃん。今夜は添い寝して。疲れがピークで、ユウキ兄ちゃん分を摂取しないと死んじゃうよ~~!」
「いや、そんな話は聞いた事が無いからな? 仕方ないなあ、今夜はアイラとユイと3人で寝よう。疲れも溜まってるだろうし、お礼も兼ねてな。後日、豪華な食事やデートもするから頑張れ!」
俺の提案に喜ぶ2人。‥‥何故か殺気が俺に集中しているなあ! マヤにミズキ、ネリスの冷ややかな瞳が怖い。あちらを立てれば、こちらが立たず。ハーレムまとめるのって、やはり難しい!!
「はい、はい。仁義無きユウキ争奪戦は今やらないでちょうだい。ロウ、貴方は今の気持ちを言ってご覧なさいな。怒りでも恨みでも何でも構わないわよ。全部吐き出しなさい」
「‥‥私は、私は何もしていないのに。す、全てはレアとラングの愚行のせいだ! しかも、父上が間接的にではあるがラクシュア購入に加担している。挙げ句、私の部下の失態。これではファルディス家の当主の座など夢物語に過ぎないではないか。う、うう、うわああ!!」
ジェンナ様の言葉に答えたロウ様は、両手を頭に乗せて苦悶の表情を浮かべながら泣き出した。ルパード様は申し訳無さそうに息子を見つめ、ナージャ様は釣られて泣き出す。対して、ルーは冷静に目を閉じて沙汰が下るのを待っている。ずいぶんと変わったな、何か変わるきっかけでもあったのか?
とりあえず、まずはマルシアス様に挨拶をするとしよう。全員の処遇についても話し合わないといけないからな。
「マルシアス様、色々として頂き感謝致します。レアの件は申し訳ありません。俺の目の前でゴアキメラに補食されてしまいました」
「構わぬ。殺す手間が省けたからな。しかし、ラングに始まりロウにレアにルパードの不祥事とは呆れて物が言えぬ。わしも耄碌したものだな。ロウよ。これでも、まだファルディス家当主の地位を諦めぬつもりか?」
マルシアス様、珍しく覇気が無い。ここまで不祥事連発だと怒りよりも諦めの境地に達したのだろう。俺も親友と婚約者とその家族どもの不祥事連発で、精神の限界突破したからよく分かるぞ!
‥‥さて、俺の個人的な悲しみは置くとして、ロウ様は敗北を認めるだろうか。野球で例えるなら、抑え投手が味方に失策連発されてサヨナラ負けされた形に近いからな。不本意感満載だとは思うが
「‥‥も、最早私が当主となる芽は潰えたのと思います。お爺様、憐憫の情が少しでも御座いましたら下働きとして置いて頂きたく」
体を震わせ、涙を流しながらもロウ様は頭を下げた。自分の父や弟妹に加え、部下が横領して逐電したんだ。これではファルディス家を継ぎたいなど口が裂けても言えないだろう。
「お爺様。私達はどうなっても構いませんが、我々の味方となった使用人や職人等がおります。彼等も新体制となるファルディス家に受け入れて下さいますよう、伏してお願い申し上げます」
ルーが頭を下げてそんな事を言うので、皆が呆気にとられて見ている。どうしたルー!? 泣き虫だった君が、男気溢れる漢になってて俺も驚きだよ! 自分の事しか考えなかったロウ様よりも、評判をあげそうだな。まさかの策謀家商人に成長か? 隣にいる女性使用人も満足げにうなずいてる。以前アイラに聞いたら、マリーといって執事の孫娘らしい。『同志にして親友』と言ってたから、ルーの恋人で間違いないな。優れた使用人らしいし、出来れば残したい。
「心配するな、ルーよ。彼等もわしらは受け入れる。もっとも、罪を犯した馬鹿者は許さんがな。ロウの側近のコウタと言ったか。奴の家族も横領した金で遊んでおったから、容赦無く処断してくれたわ! 後は本人だけだが、ケビン達が追跡している。早晩、冥界の門に向かうだろう」
うわあ、コウタの奴はご臨終コース確定だよ。ファルディス家の怒りに触れた奴等は軒並み死んでるからな。願わくは冥界に逝くまでの道のりが苦痛で無い事を祈るしかない。
「マルシアス、家族の処遇について話をしましょうか。ルパード、貴方はナージャと離縁なさい。婿養子は解消、そしてロウとルーにはファルディス姓の名乗りを禁じます。以後、ルパード及び貴方の実家はファルディス家への出入りを禁止。明日になったら、帝国騎士団に貴方の身柄を渡しますのでそのつもりでいなさい」
‥‥ジェンナ様の厳しすぎる沙汰に、マルシアス様以外は青ざめる。そんな中で、ルパード様は椅子から立ち上がると深々と頭を下げた。アイラとユイからは、巻き返しを図ろうと俺達の追い落としに動いていたと聞いている。
だが、実家の起こした重大犯罪によって全ては消し飛んだ。残ったのは敗北者と重大犯罪者の家族というレッテルのみ。なんとも虚しい状態になったものだな。
「婿養子として迎えてもらいながら、このような事になってしまい誠に申し訳無く思う。アイラ、ユウキ。ロウとルーを頼む。君達の追い落としを企んだ私が言える立場ではないが、お願いするしかない。これ以上、子供達を失いたくないんだ!」
ルパード様による迫真の言葉に俺もアイラも固まっている。しかしなあ、不穏分子になりかねない2人を置くのは嫌だな。とはいえ、ルーは化ける可能性があるから囲って置きたいけど。ロウ様は確実に不満言いそうだから排除したい。どうするか、アイラに確認しよう。
『アイラ、ロウ様とルーを‥‥』
「お父様、お母様! 私は今回の決定に異議を申し立てます。商人として未熟なアイラやユウキでは、ファルディス家を傾けてしまいますわ。私達は罪を償い、汚名返上の覚悟でこれからもファルディス家を守ります。皆、入って来なさい!!」
ナージャ様の命令に従った使用人やケビンさんの部下達が武装して入ってきた。‥‥はあ、やはりこうなるのか。ケビンさんやマルシアス様の考え通りの展開だな。この為に、ケビンさんは自分に従う者以外をファルディス家に残した。マルシアス様は忠誠心の高い者達にわざと休暇を与えた。今日、屋敷にいるのはナージャ様派の使用人達のみである。
そう、内紛を起こすお膳立ては整っていた。後はナージャ様達次第だったが、起こしてくれちゃったなあ。これだと血の粛清コースの幕開けだが、選んだの本人達だし仕方がないか。
「‥‥それが答えか? ナージャよ」
「話になりませんわね。貴女は喧嘩を売ってはならない相手に喧嘩を売っているのですよ。分かっているのですか?」
「ご心配に及びませんわ。私の後ろには第1皇妃殿下が付いて下さいました。多少の無理は押し通せます!」
ナージャ様、無理でございます。第1皇妃様は自分の保身で手一杯。ファルディス家の内紛に手を突っ込む余裕なんてありはしない。事情を知るマヤとネリスは、体を震わせながら笑いを噛み殺しているし。よし、とっとと内紛を終わらせよう。
「ナージャ様、第1皇妃様は皇帝陛下に睨まれたカエル状態。ご自身の罪を晴らすべく、後ろ楯の商家ですら捨ててしまわれました。その状況で、どうして新参者のナージャ様を助けようと思うでしょうか。いや、思いも致しますまい。あえて、そんな貴方に言わせて頂きましょう」
俺は深呼吸をして、ある言葉を頭に描く。そして、威圧を含めた口調で叫ぶ。
「貴女の負けええええ!!」
次回、ファルディス家騒動決着。




