第78話 ログレス修道院騒動 中編
お待たせしました。
「皆様、お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。修道女リア=ファルディスが、本日行方不明となりました。皆様にはユウキ=ファルディス様による捜査に協力して頂きたい」
「また、あいつか。いい加減にしてもらいたいな」
「修道院の恥さらしよね。とんだあばずれだわ」
「はあ、私達でも救えない魂があるのですね」
グラスの説明に怒りやら呆れやら、諦め等の言葉が飛び交う聖堂内。リアさん、人望とか信頼なんてまるで無さすぎじゃありませんかね! 普段の生活態度が分かりすぎて、なんか悲しくなってくるんだが。ともかくまずは謝罪からだな。
「皆様、この度は俺の姪が多大なご迷惑をかけてしまいました。誠に申し訳ない。しかし、今回の脱走はリア1人で出来る所業ではない。皆様の中に協力者がいると俺は見ている。よって、これからいくつかの質問をしたい。協力をお願いします」
「もちろんですとも、ユウキ様。今回の不祥事は、ログレス修道院にとっても由々しき問題であります。協力致しましょう」
修道院長が協力的でとても助かる。名前はノッシュで、元々は農家の出身だとか。勉強と信仰に打ち込み、ログレス修道院長にまでなった素晴らしい人らしい。
さて、始めるとするか。ネリスが空から修道院の周辺を調べているが、情報が無いと探索範囲を絞れないだろうしな。ノッシュさんも早く安心させないと。
「では、最初の質問だ。この中でリアと親しい者はいるか?」
俺の問いかけに誰も手を上げず、声も出さない。‥‥あれ、まさかのボッチか? それはそれで悲しいぞ。ファルディス家の娘なのに、不祥事有りすぎで誰も関わりたくないと思ったのかも知れんな。嘘をついている様子も無いようだ。
「なら、次の質問だ。リアの脱走に協力した者はいるか?」
これまた誰からも反応がない。しかし、神眼が何人かの嘘を見破った。ふむ、修道士4人に修道女1人か。合計5人は多いな。何か弱みでも握られているかもしれない。よし、畳み掛けるか。
「今、嘘をついた者が5人いる。俺は神眼スキルを持っているから嘘は見破れるぞ。もし、正直に話すなら罪には問わない。話を聞かせて欲しいんだが」
「‥‥申し訳ありません。私はリアに脅されて協力致しました。土魔法を使って穴を掘るのを手伝いました」
「お、俺は金を着服していたのを見つかり、脱出を手伝わされました。荷物を事前に受け取り、浮遊石に運ぶ物資に紛れ込ませたのです」
「僕も脅されました。『実家に言って、僕の商家を潰してやる』と言われて。僕の実家の荷物に彼女を紛れ込ませたんです」
おお、3人が正直に話してくれたな。少女と少年にはお詫びをしないと。青年の彼は自業自得だ。修道院でしっかり罰を受けて更正してもらおう。さて、あと2人が何も言わないが‥‥。
「ご主人様、逃げ出そうとしたので剣で気絶させました。とりあえず、少年修道士殿に話を聞けばよろしいかと」
いつの間にか、アヤメが2人の首根っこを捕まえて引きずってきた。動きが速すぎて分からなかったよ。皆も呆気にとられて見ているしな。だが、グラスだけは2人の素性に気付いて反応を示した。
「この者達は‥‥! 中級修道士のアガンとロムではありませんか。何故、こんな愚かな事を」
「たぶん、ラクシュアをリアから手に入れたからだと思いますよ? リアの部屋からも微量の香りが漂っていましたし。おそらく3人とも使用したのでしょう。2人からラクシュアの匂いが取れずに残ってますから」
「「「「な、なんだとおお!!!」」」」
なんか聖堂が騒然としているな。ヤバい代物なのは確実だが、念のために巻物で調べてみよう。ええとラクシュアで検索、と。おっ、出たようだな。
『ラクシュア 禁断の麻薬で、吸ったら天上の快楽を得る。しかし、依存度が極めて高く、死ぬまで止める事は無い。禁断症状はまさに地獄の苦しみ。神様コメント 魔族や人間問わず、かなり流通してるよ。人生棒に振る覚悟があるなら吸ってみてね!』
「アヤメさああん! 超危険な麻薬じゃねえか。それと、アルゼナ。まだ俺は人生を棒に振りたくないよ!! なにそれ、リアの奴どこから調達してんだ」
「たぶん、この馬鹿修道士2人から教えられたのでは? ファルディス家の令嬢は良い金蔓になったでしょうし。しかし、妙ですね。彼女は懲罰目的でログレス修道院に入っています。お金なんて誰から貰ったのでしょう?」
確かにそうだよな。俺達は送らないし、情の無いロウ様は論外。馬鹿ラングは死んでるし、ルーは女性使用人と動き回っていてそれどころじゃない。マルシアス様とジェンナ様、ナージャ様も無いとなると‥‥あっ、1人いた。
「‥‥ルパード様です。娘が不憫だと月に金貨を5枚程送られていました。まさか、このような使い方をされるとは思っていなかったでしょう。脱走に加え、禁止薬物常習者を3人出した私は院長失格。院長の地位を降りるしかありますまいな」
「院長、そのような事をしてはなりません! 3人が道を誤った我々の責任でもあります。皆で罪を償いましょう」
「「「「そうです、院長は何も悪くありません。私達も悪かったのです。皆で罰を受けましょうぞ!!」」」」
なんか感動的な状況になってきたなあ。おや、何人か冷めた目で見てる奴等いる。しかも、魔法を使おうとしてるな。これはもしかすると‥‥アヤメにも援護を頼むか。
『アヤメ、何人か怪しい動きをしている。俺が仕掛けるから援護を頼む』
『了解です、相手は7~8人。1分以内に掃討致しましょう』
「よし、喰らえ! アイスストーン10連!!」
「な、何だ! うわあ!!」
「ぐはっ!」
俺は魔法を怪しい集団に向けて放つ。院長の周りに修道士達が集まっていたのが、奴等の運の尽きだ。俺の魔法を防げたのは3人。残りは脳震盪を起こして気絶する。だが、防いだ3人もアヤメによって倒された。俺よりも鮮やかに蹴散らしてくれたな。少し悔しい。
「な、ユウキ様、アヤメ様。いったい何を!」
「修道院長。どうやら、彼等にも事情を聞かねばならないようですよ。皆さんに、魔法で攻撃をしようとしていましたから。少年修道士君、君の実家の商隊はどこへ向かったか説明してくれ」
「は、はい。僕の実家の商隊は北の森を抜けて、ダリア公国に向かったはずです。ここ、ログレス修道院でしか採れない稀少な薬草を輸出してますので、その中にリアさんを紛れ込ませました」
北の森というとダリアの緑森林だ。厄介な魔物が多く生息している場所だが、商隊だけで大丈夫なのか? とはいえ、放置する訳にもいかんからな。
「分かった。俺はダリアの緑森林に向かう。アヤメ、君は修道院長達に協力して彼等の調査を頼むぞ!」
「‥‥ふう、分かりました。ラーナ神の修道院の為に働くのは本意ではありませんが、やむを得ませんね。ネリスさんの方が適任でしょうけれど」
うん、なんか申し訳ない。魔族はラーナ神を嫌ってるもんな。アヤメには後で何か買ってあげよう。よし、俺はネリスに合流してリアの身柄を拘束するとしよう。やれやれ、厄介事が次々に起こるな。
次回、ネリスと合流。




