第8話 仁義なきユウキ争奪戦
ご無沙汰してました。久々の投稿です。
話終わった三条は支配人室へ師匠を招き入れた。突然の皇族との対面に緊張している彼女に対し、三条は本題をぶつける。
「ねえ、アイラさん。単刀直入に言います。ユウキを譲って下さいな。話をしたら彼を気に入りましたので、私の従士に任命しようと思うのです。もちろん、認めて下さいますわよね?」
‥‥いきなり恋人にしたいと言わないだけましだな。しかし、前置き無しで言わなくてもよくない? もう少し世間話をするなり、労を労うなりしてから言って欲しい。これから起きる可能性がある戦いのレベルを下げる為にも!
「‥‥えっ!?」
皇女からのお願いに、師匠は固まってしまう。本来なら全力で拒否するだろうが、相手は皇族。お願いは命令に等しい。下手に断れば、ファルディス家にも災いが降りかかるからな。ここは俺が何とかしないと。
「皇女殿下。私はファルディス家に拾われた身です。ここであっさりと殿下になびけば、私は恩知らずと世間に後ろ指を指されかねません。どうか‥‥」
「ユウキ、安心なさい。ファルディス家を悪いようにはしないわ。かの家には私の芸術関連事業に参加を認めます。パトロンの芸術家が創作した絵画や彫刻等の優先購入権も与えましょう。だからあなたは黙ってて下さいね? 今、私はアイラさんと話をしているの」
前世と立場が逆転していて、うかつに干渉出来ない。どうしたものか。しかし、師匠もよく我慢出来て‥‥ねえ!! 強く手を握りすぎて、手から血が流れてるぞ。目も血走っているし、いつ暴走をしてもおかしくないぞ!!
「皇女殿下。ユウキを私から奪うとおっしゃるのですか? いくら尊敬する貴女と言えど、それは許さない。絶対に!!」
「待って、待って下さい。相手は皇族なんです。暴力沙汰は絶対駄目ですから!」
師匠の体から、強大な魔力が流れ出そうとするのを必死に止める俺。そんな俺達を見て三条は拍手をする。笑みすら浮かべる様子からして、師匠を試していたかのようだった。下手すれば死ぬ状況で、よく笑えるよな。師匠の強烈な殺意を正面から受けたら、俺だと漏らしかねん。
「先生って本当に愛されてますのね。アイラさん、貴女からユウキを奪うつもりはありません。私はユウキを2人で共有する事を望んでいます。対価は‥‥そうですね。私が学院でユウキに近づく泥棒猫を阻む壁となる、と言う事でいかがかしら?」
三条さん、いきなりすごい事をおっしゃいますな。しかし、どうやって守るのだろうか? 貴族令嬢の何でもありな攻勢なんて、俺は防ぐ自信が無いんだが。
「どうやってでしょうか? ただのお付きとしただけでは、ユウキを守る事は出来ないと思いますが」
「簡単な事です。私の従士兼婚約者として彼を紹介しますわ。そうすればユウキに近づくのは余程の命知らずか、私に匹敵する実力者位になりますし」
‥‥確かに俺にちょっかいを出す女性は絶対にいなくなるね。前皇后は亡くなったとはいえ、三条は歴とした第一皇女。下手に手を出せば、良くて女性自身。悪いとその女性の家ごととり潰そうとするだろう。
しかし、三条。俺が君の婚約者になるのは難しいと思うぞ。魔法は使えるが平民で貧民出身だからなあ。
「こ、婚約者!? だめです、嫌です、許しません。ユウキは私の夫にするんですから! 初めて見た時から、私好みの男性になりそうだと思って育ててきたんです。横から奪うなんて、いくら皇女殿下の命令でも嫌!!」
「師匠、まさかの逆光源氏計画ですか!? しかし、皇女殿下。私程度の者を婚約者とするのは無理があるのでは? 家柄を重んじる者も多いでしょうし」
師匠の計画は置いといて三条を説得する。それに師匠が慌て過ぎて女性言葉になってるし、まずは場を落ち着かせるべきだな。結婚するにしろ、名を上げるか貴族になってからじゃないと難しいから。まずい。このままだと平穏な生活出来なくないか、俺?
「先生、私の事はマヤと呼びなさい。あと敬語禁止、いいですね? そして、アイラさん。私が手を引いても他の女性が黙っていませんわよ? アイラさんの愛弟子の実力は、貴族達からも評判なのです。中には自分の娘を嫁がせ、婿にしようと画策する者達もおりますし」
「な、なんですって。そんな‥‥嘘でしょう」
初めて聞いたぞ、そんな話。まあ、マルシアス様辺りが話自体を潰してくれたんだろうな。自分の娘の為に。しかし、貴族の婿か。想像出来ないなあ。
「ちょっと待ってくれ。身分とかには貴族達はうるさくないのか。俺が好きなスペースオペラ小説だと主人公と親友は身分で苦労してるんだが?」
主人公は下級貴族で、その親友は平民。それでも彼は皇帝にまで上り詰めた。しかし、それは彼が天才だから出来た芸当だ。俺? 俺はしがない高校教師だ。彼のように華麗な戦略戦術を扱える訳でも、強烈な信念も持ち合わせていないただの凡人だからね。
「大丈夫ですよ。うちの父親、実力者はどんな身分でも取り立てますから。だからか宰相や現皇后と対立しまくってますけどね。その点では、かの小説の主人公によく似てます。もっとも、あそこまで容姿はかっこ良くないけれどね。問題がありすぎる帝国を何とか立て直そうとする立派な主君。私はそう思いますわ」
どうやらマヤの父たる皇帝陛下はまともな君主らしい。だとしたらマヤの提案に乗るべきか。後で師匠のフォローはしないといけないがな。
「分かった、君の提案に乗るよ。はあ、やっぱり俺は面倒事に巻き込まれる運命なんだな。分かったよ、マヤ。こうなった以上は最後まで付き合おう。よろしく頼む。ただ、婚約者の話はまだ早すぎるからな?」
俺は三条‥‥いやマヤと握手する。前世じゃ教師と生徒という関係だったが、今は異世界で数少ない知り合いだからな。婚約者? それはもう少し慎重に考える方向で。‥‥と思ったんだが。
「‥‥嬉しい。じゃあ、早速お父様に報告しなきゃ。先生と結婚出来るなんて良かった。だって、前世の頃から好きだったもの。じゃあ、記念にもう一度!」
そう言ってマヤは再び俺の唇を奪う。10歳の子供がディープキスかあ。えっ、何でなすがままなんだって? あいも変わらず、ドラゴンガードに拘束されてんだよ! 俺が逃げないように。だが、ふと隣を見ればそんな状況を軽く越える事態が起きていた。
「ユウキ。ナンデ、ナンデ皇女殿下ノ名前ヲ呼ンデルノ? ナンデ私ノ前デキスシテルノ? ケッコン‥‥、ユウキト皇女殿下ガケッコン」
ちょっっっとおおお、師匠の目から光が消えてるうう!! しかも、ロボットみたいな口調になってるし! このモードの師匠は危険だ。なにせ、対師匠用最終兵器たるナージャ様が匙を投げる位だし。
ちなみに収まるには、原因の消滅が必要不可欠。あの時は1人の貴族青年が人知れず、火山の火口にダイブした。だが、今回は‥‥。
「ユルサナイ、スベテヲケシテアゲル」
「あらあら、これが噂に聞くアイラさんの本気モードなんですね。うふふっ、私の力を試すには良い相手ですわ」
そう言って、ドラゴンガードを追加召還するマヤ。‥‥おい、10体近くいるぞ。そのスケルトン1体だけでも並みの騎士大隊1つ潰せるんだけど。ねえ、君だけで帝都滅ぼせるんじゃないかなあ!?
「タオス、私ノユウキヲ奪ウ人ハタオス!!」
こっちも本気出してきた! あの術式は間違いない、コメットだ。隕石落としで恋敵を殺る気だよ、師匠! 俺はどこぞの天パみたいに新人類の力を使えないっての。くそ、こうなったら俺がテレポートでどちらかを連れ出すしか‥‥。
「だあああ、てめえら! 痴話喧嘩に本気を出してんじゃねえ!! 帝都を更地にするつもりか、この馬鹿たれども!」
突然、支配人室のドアが開いたと思ったら中年のローブ姿の男が俺達に魔法を放った。どうやら睡眠魔法らしい。ドラゴンガードが消えていき、師匠の術式も消えて2人は床に倒れこむ。それを見届けてホッとしたのか、俺も意識を失うのだった。
次回、帝国最高の魔法使いとの話と説教。