03 魔王の娘の教育係
「教育係??」
「うむ」
どう反応していいのかわからないワードが出てきた。
というか、色々ありすぎてもう何言われても驚かんわ。
「ちょっと待ってくれ、いきなり教育係って言われても、それがどういうものなのか全く想像がつかないんだが」
「その名の通り、娘に大人としての常識やマナーを教えてほしいのだよ」
……はあ~~?
なんでそんな見ず知らずの生意気な小娘の世話なんてしなくちゃならんのだ?
横におとなしく座っているラミリエを見るに予め、眉を顰め、めちゃくちゃ不満そうな顔をしていた。
これは決まりだな。
「却下だ」
「どうして?」
「どうしても何も、俺たちにこれといって得がないじゃないか」
ラミリエも、うんうんと頷いている。
「おかしい。私が聞いた限りだと、こちらの世界の男性は 魔族 の女の子、つまり我が娘ラミリエのような女性がたいへん好まれると……」
「否定はしないが、一概には言えんわ!!」
おい、誰だ!こいつに偏った知識吹き込んだやつは!!!
嬉しくない……わけではないが、だからといって交渉が成立するわけでもない。
「というか、そもそもそんな理由だけで俺達の世界で教育係とやらを探す必要はあるのか?そっちの世界でその魔王とやらの権限で1人や2人教育係を集めることなんて容易いことだろ?」
それを聞いた魔王は悩ましい顔をして答えた。
「それができるならそうしている。しかし、私は、あちらの世界で権力を持ちすぎた」
「つまり?」
「我が娘を叱れる存在がいないのだよ」
なるほど。そういうことか。
魔王にとっては娘ラミリエは清く正しい存在であって、威厳な態度や権力を振りかざす横暴な大人になってほしくないんだ。
しかし、あちらの世界では魔王という肩書のせいで誰からも甘やかされ望んだものが手に入る。
そして、何もかも思うがままになると思い込んでしまっては、お手盛りお嬢様へと育ってしまう。
それを避けたいがために、全く関係のないこの世界戦に連れてきたってわけか。
「わたしは何も問題ないわ!!」
それが助けてあげようとした人を吹っ飛ばした人が言うセリフか?
すでに、ワガママお嬢様って感じが隠しきれてない。
「理由はわかったが、なぜ俺なんだ?」
この世界だって数十億人って人類が存在する。
その中から、たまたま俺が選ばれたなんて考え難いが。
「本当ならば、こちらの世界でラミリエと共に適材を探す予定だったのだが、教育係などいらぬと駄々をこねるものでな。しょうがなく空から落とし、その先にいた人に面倒を見てもらうことにしたのだよ」
おい!この世界をダーツ板かなんかと勘違いしてないか!?
落ちた先に人がいたらどうしてたんだよ、死んでたぞ!
魔王は続けて、話した。
「そこにたまたま君、キハルが居たということだ。そして運がいいことに、精良な善人のオーラも纏っているではないか」
善人のオーラ?
それは、単純に俺が根から良いやつって解釈でいいのか?
自分自身のことを、そういうふうに思っとことは一度もないのだが……。
「そのオーラ(?)とやらが悪人だったらどうしてたんだ」
「その場で記憶を抹消していた」
こえええ。
でも殺されたり、存在ごと抹消されるよりかは遥かにましか。
それより、魔王様って何でもできるんだな。
「うーん、事情はわかった。が、だからといって俺が運命と慈悲だけでその教育係とやらを引き受けると思ってるのか?」
少し強めにあたってみる。
正直、押し付けがましいことは大嫌いだ。
だから、もしそれを引き受けるのであれば、それなりの対価は絶対条件だ。
「何が必要だ」
察したかのように魔王が俺に尋ねた。
「うーんそうだな、金がやっぱり一番なんだが」
「構わないが、お互いの通貨が相違ゆえに換金もうまくできるかどうかは保証できない」
「そうなんだよなぁ」
他になかなかいい案が思いつかない。
腕を組み顎に手を当て悩んでいると、魔王が一つ提案してきた。
「魔法はどうだ?」
「ま、魔法!?」
「うむ、魔法だ。こちらの世界では科学技術の発展は著しいが、その分魔法技術が発展していないように思える」
「それはそうだが、魔法って魔王様が使ってたようなやつのことか?」
うむっ、と相槌を打つ。
「ということは、俺が魔法を使えるようになるってこと?」
「そういうことだ」
なんだそれ!?めっちゃかっけーじゃん!
魔法が使えれば、スーパーヒーローみたいにこの世界の悪と戦えるじゃん!!
あわよくば、アベン○ャーズに勧誘されたりして。
くだらない妄想が膨らむ。
こんな、子供心を擽られたのはいつぶりだろうか。
俺の中で決意が固まった。
「よし、交渉成立だ!」
「ちょっと!!!」
ラミリエが慌てた様子で、魔王に向かってテーブル越しに身を乗り出した。
「ラミリエよ、これはお前の為を思ってやっていることなんだ。お前が今後世界を支えていくにあたって相応しい存在とするために」
「そうだぞ」
適当に魔王の言葉に便乗する俺に、ラミリエが口を挟むなと言わんばかりに睨みつけてくる。
「決まったことだラミリエ」
「ふざけないでよ、なんでこんなやつと同棲なんかしなきゃならないのよ」
…………ん!?
今なんて言った!?
「ラミリエ、同棲こそが成長するために一番効率的な方法なんだ」
「ありえないありえないありえない!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
俺が会話に割って入った。
「同棲ってどういうことだ!?」
「言ってなかったな、教育係というのは我が娘を教育することはもちろんのこと、その一環として娘と同棲してほしいのだよ」
てっきり、一日の数時間だけ社会的な作法を教えるのだと思いこんでいた。
どうしよう、俺んちワンルームなんだけど。
──ピンポーン。
突如、3人の言い争いに割って入るように、玄関のチャイムが部屋に鳴り響いた。
するとドア越しに声が聞こえてきた。
「「警察です、爆発音が聞こえたと通報を受けたのですが」」