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02 魔王が玄関からやってきた!



「あ、どうも……」


 本能的に、挨拶が出てしまった。

 玄関を少し屈みながら通過してくるのが、その図体の大きさを物語っている。


 なんか、いかにも「悪役です!」って言っているような衣装着てるなあ。

 黒いマントをひらひら靡かせながらこちらに歩いてきた。


「お父さん!!」


 あ、やっぱり君のお父さんなのね。


 少女は喋ることは普通にできるみたいだが、まだ謎の力によって床に押さえつけられている。

 お父さんと呼ばれたデカブツは、少女の横で脚を止め俺に面と向かって口を開いた。


「驚かせてしまって、申し訳ない」


 見た目に反して、すごい紳士的な印象だ。


「あ、いえ、大丈夫です……」


 全然大丈夫じゃないんだけどな。

 突然人は降ってくるは、物も壊すはでこっちは大惨事だ。


 ……しかし文句など、このにじみ出る強者の貫禄を前にして言えるわけもない。


「突然の訪問失礼。私は、君と談義をしたくここに来た」


 そう口にするとデカブツは、がっぽり穴の空いた天井を見上げた。


「……が、しかし、こんな状況で進める訳にもいかない」


 幸い、2階の部屋には誰も入居しておらず空き部屋だったため、被害を受けたのは俺だけってことだ。

 どうなっちまうんだろうこれ、弁償とかすんのかな……?

 今後のことを考えると怖くなってきた。


「あの、直せますかね?」


 恐る恐る、限りなく不可能に近いことを聞いてみた。



「直せる」


 直せるんかい!

 無理を承知で言ったハズだったのだが、思わぬ回答が返ってきた。


 そうすると、デカブツは右手を前に出し、


 《パチンッ》


 と指を鳴らした。

 すると──



 なんと、散らばった瓦礫が空中に浮き上がり、元あった正しい位置に戻り再構築されていくのだ。

 例えると巻き戻し再生みたいな感じだ。


 ……すげぇ。

 映画のワンシーンを見ているようだった。

 CG動画なんかじゃない、今この場でCGのようなリアルを目の当たりにして開いた口が塞がらなかった。


 見る見るうちに破損していたものは元の姿に戻り、天井を見上げても見えるのは青空ではなく白い天井だった。

 あんなにも崩れていたのに、いとも簡単に直しやがった。


「よし、これでゆっくりと話せるな」


 デカブツは、何やら満足そうに腕を組んだ。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「で、話ってなんですか?」


 ローテーブルを挟んで向かい側に座っているデカブツに質問を投げかけた。

 ちなみに少女はなぜか俺の横に座らせられている。

 傍から見たらシュールな光景なんだろうな、これ。


「話を始める前に自己紹介をしようじゃないか」


 と切り出すと、デカブツはそのまま続けた。


「では私から。私は、こことは違う別の世界線の魔王であるラルセラスだ」

「ま、魔王!?」


 いきなりぶっ飛びワードが出てきたぞ。

 魔王って言ったらあの魔王か!?

 俺にとっての魔王のイメージっていったら、世界を支配する悪の象徴みたいなもんだが、実際はどうなんだ?


 そして、このデカブツが魔王ってことは、この横にいる少女は必然的に……


「そちらが、私の娘のラミリエだ」


 やっぱりそうか。

 同じような角も生えてるし、デカブツのことをお父さんって呼んでたし察してはいたが。

 更には魔王とその娘ときた。

 あんな、非現実的な光景を見せられたのだから、中二病拗らせた親子の家族喧嘩に巻き込まれてるだけとは到底思えない。

 うーん……。

 夢現(ゆめうつつ)でどこまで信じていいのやら。

 自分の頬を軽くつねる。

 しかし、ただ痛いだけだ。


「すまん、俺のこと殴ってくれないか」

「え?何?そういうの好きな人?」


 ラミリエが変態を見るような蔑んだ眼をしている。


「違うわ!別にマゾとかそういうやつじゃない。……ただ、目の前の現実が受け止めきれないだけなんだ。今でも夢じゃないかと疑ってるくらいだ」

「ふーん、じゃあ……」


 ラミリエがなんの躊躇もなく拳を振りかざす。

 え、なんかめっちゃ殺気が伝わってくるんですけど!?


「やめなさい」


 魔王が、今にも俺のことをぶん殴りそうだったラミリエのことを転移魔法を止めた時と同じような謎の力で押さえつける。

 ああ、こいつが暴れずにおとなしく座っているのはやはりその力があるからなのね、納得。


「だってこいつが殴っていいって」


 おい、悔しそうな顔すんなよ、どんだけ殴りたいんだよ。


「そんなことせずとも、夢ならいずれは覚める。覚めぬなら、それは現」


 魔王の言っている通りだ。

 今はとりあえず、この事象を信じよう。

 そうでないと、話も進まんしな。


 魔王が俺の自己紹介を待つかのように、目線を合わせてきた。


「えーと、俺は 嵯城(サジョウ) 葵晴(キハル) 、二十歳の大学生だ。」


魔王はうむうむと頷き、話を進めた。


「キハルよ」

「は、はい」

「単刀直入に言わせてもらうが……」


ごくりと唾を飲み込む。


魔王は一呼吸おいてから、もう一度口を開いた。





「娘の()()()を頼みたい」









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