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夏の星

作者: 坂下真言

 雨の日はプラネタリウムに限る。屋内で満天の星空が見えるのは素晴らしい事だ。

「ねぇ和孝。どうしたの?」

 俺の彼女である千絵里が言う。

「いやさ、プラネタリウムは偉大だなぁと思ってさ」

 俺達は天文学部に所属する大学生だ。こういうところでも勉学勉学。解説付きというのもありがたい。何せ入ったばかりの俺には知識が無さ過ぎた。千絵里にいろいろと教えてもらっているがいつかは驚かせる様な博識学生になりたいと思っている。


 ここは某県某所にあるプラネタリウムだ。日本でも高評価のいいところだ。プラネタリウムに出てくる星座達が繰り広げる物語も、また味のあるモノだ。

 俺は小さい頃から星が好きだった。低倍率ではあるが一応天体望遠鏡も持っていた。まぁ……肉眼で見るのと大差は無かったが。

「さて、そろそろ出ようか」

 プラネタリウムも終わり夏のクッソ暑い屋外へと追い出される。何か爽やかな炭酸飲料が欲しくなる。コンビニに寄って俺はサイダーを買う。千絵里はスポーツドリンクだ。

「いつか地上よりも高いところで星が見たいねぇ」

 千絵里がしみじみと言う。そうなると空中に浮かぶしかないわけなのだが。

「山の上も一応地上だからなぁ。それこそ飛行機やらに乗らないと無理なんじゃないか?」

「うーん。それは行き先が決まってないと無理だから気球で我慢する!」

「そ、そうか」

 高度的には気球が一番低いと思うのだが間違っているのだろうか?

「まぁ一番金はかからないだろうな」

「確かにそうね」

 高校の頃の修学旅行で気球に乗った記憶が思い出される。あんまり高くまでは飛ばかなかったなぁと思う。

「今度は山の上で天体望遠鏡を使おう」

「そうねぇ。それが無難かしら」


 バイトバイトバイト! 観測施設には負けるけど、なるべくいい感じの倍率の天体望遠鏡を手に入れるために必死にバイトをする。頑張れ俺! 千絵里のためにも!

「待ってろよー!」

 自分に檄を入れる。そうでもしないとやっていられない。千絵里からの称賛を求め頑張る俺。なんか目的が違うかな? なんて思いながら頑張る。

「橘君頑張るねぇ」

 バイト先の店長に言われる。俺は橘和孝。ちなみに千絵里の名字は櫻井。

「稼ぎ時ですからね!」

 俺のバイト先はコーヒー店だ。今は昼の繁盛タイムだ。上手く行けばボーナスも出るかも? とか期待しつつ一生懸命、客を捌く。


「お疲れ様でしたー!」

 バイト上がりの俺はそのままアパートに帰る。晩飯はまかないが出るのでそれで済ませる。どうしても腹が減ったらまぁカップ麺やらなんやらで。たまに千絵里が手料理を振る舞ってくれる時があるからその時は美味しく頂いている。もうすぐ七夕だなぁなんて思いつつ。六月の夜は更けていく。

 千絵里とスマホのアプリでチャットする。千絵里もファミレスでバイトをしている。今月の二人の給料を合わせれば天体望遠鏡が買える! と、わちゃわちゃしている。嬉しいモノだ。そして千絵里には内緒でこっそりヘソクリを貯めて七夕の夜は山の上で二人、星を見ようと画策している。

「七夕の夜は空けておいてなー」

 これは前から言ってある事だから多分大丈夫だろう。あとは自分の愛車の点検をそろそろ出さないとなぁなんて思っている。山道の途中で足止めなんて嫌だからな。

 とりあえず明日はバイトも休みだし大学終わったら車屋さんに点検出しに行こう、そうしようと決めた。

 そして日記を書き千絵里とのチャットも切り上げて寝るとする。おやすみなさいと誰にともなく呟いて俺の意識は埋没していく。


 そして七夕の日になった。千絵里は俺の家に来て天体望遠鏡の入念なチェックをしている。

「千絵里。今日は七夕だよ」

「そうね。和孝の事だから私に内緒で何かサプライズを仕込んでたり?」

「なんで分かるん……」

「当たりだったの? やった!」

 千絵里の笑顔が弾ける。それだけでガッカリは帳消しになった。

「ちょっと山に行こうと思ってね。車も整備したし、行こう!」

「いいわよ。楽しみだわ」

 そして二人で望遠鏡を積んだ車に乗る。近所からちょっと離れた標高一千五百ちょいの山へと向かいひた走る。

 幸いにも天気は晴れ。天体観測には本当は冬の方が空気が澄んでいていて向いているのだがいかんせん寒い。夏の山というのはちょうどいい気温なのかもしれない。そうだといいなぁと願いつつ車が走る。


 走る事三時間。やっと山頂付近の駐車場に着いた。ここからならいい感じに星空が見えるだろうなぁ。

 自販機でサイダーを買う。千絵里も同じモノを買う。

「どう? 気球とまではいかなくてもココからなら結構星見えるんじゃない?」

「そうね。山の上だから空気も澄んでるしいいかもしれないわね」

 早速天体望遠鏡をセッティングする。目指すは土星だ。土星のリングが綺麗に見えるといいなぁなんて思いつつ位置を合わせる。確かへびつかい座の近くだったな……。

「あっ! 土星発見! 環まで綺麗に見えるわよ!」

「おっ、やった! 流石高いだけはあるなぁ」

「値段も標高もね」

「確かに……」

 不覚にも上手いと思ってしまった。ちょっとだけ悔しい。

「和孝も見てみなさいよ。土星」

 いつまでも引きずってても仕方ない。

「どれどれ……おっ、本当だ。よく見える」

 やったぜ、と拳を握り込む。千絵里は鉛筆だかシャーペンだかで今日の記録を取っている。それからしばらく二人で星を眺めた。ひとしきり満足して七夕の夜は終わり二人で家に帰った。


 ステンレスなので錆止めはいらないかなーなんて思いつつもついつい心配してしまう。一応錆止めも塗っておくかぁと思い、スプレーしてタオルで磨く。ネットで調べたところによると錆びにくいだけで錆びる事はあるらしいので。日記をボールペン……いや、シャーペン……レトロに鉛筆で! と思い鉛筆でサラサラと書く。

 さーて今日もバイトだ。次のサプライズは何にしようかなー? 誕生日かなぁって思いつつ握り拳を作り気合を入れる。とりあえずバイトへ向かう。それから怒涛の時間が過ぎあっという間に夜になる。千絵里のバイトも終わったらしくチャットが飛んでくる。それからしばらくチャットに興じる事にする。

 次の日は大学なので部室に顔を出す。そこでは部の備品を整備している先輩が居た。

「おー橘。いいところに来た。ちょっと手貸してくれ」

「どうしたんすか?」

「部費から出すから備品買ってきてくれー」

「了解っす。何買ってくるんすか?」

「記録用の鉛筆と錆止めだな。俺も今気付いたんだが錆止めスプレーがもう無いんだ。あと記録用ってか下書きの鉛筆が無くて清書用のペンはあるから鉛筆だけで頼む一ダースくらいでいいわ」

「ういっす」

 車でホームセンターへ向かう。多分鉛筆もあるだろう。そして買い物を終えて部室へと戻る。

「戻りましたー」

「あーい。お疲れ様ー」

「あ、千絵里か」

「友田君なら私に任せて帰っちゃったよ」

「なんだ……人を使いっ走りにしておいて自分は帰るんかい」

「まぁまぁ二人きりなんだからいいじゃない。それとも私じゃ不満?」

「いや、そんな事は無いけどさ」

 今日はバイトも無い。また千絵里とダラダラしながら夏を過ごす。


 まだ、夏はこれからだ。

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